税務調査はお客様との距離を詰められる最大のチャンス<税理士のヒヤリ・ハット体験談 第30回>【最終回】
税理士法人 古田土会計 社員税理士
土田大輝
2022/9/26
第30回 税務調査は、実はお客様との距離を詰められる最大のチャンス!
今回で30号目のヒヤリ・ハットコラム。我ながら30個もよく書けたと思うとともに、それだけたくさんのことに、我々税理士は注意しながら仕事をしなければいけないことを、再認識しています。今回は、ヒヤリ・ハットの大量生産地“税務調査の現場”から、お送りします。法人の調査に焦点を当てます。
<税務調査は、こうして進行する!>
どんなにしっかりとお客様が経理されていたり、税務判断を適切にしていたとしても、税務調査の連絡が入ると、理由なくヒヤリとするものです。
この税務調査を会社と税理士とが二人三脚で乗り切ることができたら、お客様との距離が縮まること間違いなしです。
以下の調査の流れを理解したうえで、安心して臨んでいきましょう。
Ⅰ 調査官からの調査通知(電話)
調査官はまず、税務調査を行いたい会社に通知をすることとなるのですが、多くのお客様は、決算申告に添付する『税務代理権限証書』という委任状に、調査の通知を税理士に対して行うことについて同意しています。
そのため、“一般的には※”調査の連絡は税理士に対して、第一報(電話)が入ります。
この通知は下記Ⅱと区別するために『調査通知』と呼ばれ、内容は対象法人に実地調査を行う旨を含め、最低限の項目になります。そして日程調整を促されます。
※小コラムその① ~無予告調査が入る場合も!~
“一般的には”と書いたのは、その調査が事前通知なく無予告で行いたい場合があるからです。無予告の調査については、主に現金を商売上扱う業種のお客様に対して、行われる調査の手法です。営業時間の前に、突然お店と社長の自宅に調査官がやってきます。
社長によっては、業種柄仕方がないことであって、また何度も経験していることから、驚かれることはないかもしれません。ただ当日バタバタとされることは確かです。
もし無予告調査が入りましたら、まず調査官が達成したい当日の目的を果たしていただき、それ以外の調査項目については別に日程調整していくように促していきましょう。税理士が即日対応できるとは限りませんから、概ねその理由で後日再調査とすることができるでしょう。
Ⅱ 法令に基づく事前通知
上記Ⅰを受けて日程調整が整いましたら、あらためて調査官から電話で『法令に基づく事前通知』を受けます。この事前通知は受ける内容が統一されているもので、調査の日程や開始場所・調査の目的等、それまでの調整で決まった内容を確認するように、調査官から通知されます。そして、最後に通知の内容を納税者であるお客様に共有するように促され、事前通知が終了します。なお、無予告調査の場合は、調査官がその当日現地へ入る前に、税理士が電話で受けることとなります。
小コラムその② ~調査の前に資料の提出を求められたら…。~
調査官によっては、上記通知の内容以外に、実地調査を円滑に進行させるために、事前に税理士に資料の提供を求めることもあります。税理士が作成したであろう消費税の課税額の集計表などが挙げられます。仮に調査開始前に提出をするように求められたとしても、実地調査開始時に持参されれば大丈夫です。というのも、前記『法令に基づく事前通知』で実地調査“開始”日時を通知しているわけですから。求めに応じ準備して、当日臨みましょう。
小コラムその③ ~過少申告加算税の発生は、いつから??~
法人税や消費税などは、確定申告後に誤りを直すために修正申告をすることができます。この場合に修正により納める不足の税額(以下「本税」といいます)に対して、いわゆるペナルティの税額(附帯税)を別途納めることとなります。
附帯税は大きく分けて
・過少申告加算税などの加算税
・延滞税
があり、それぞれ修正申告に至る理由により、課税のされ方が異なります。詳しくは複雑なのですが、今回で言うと、
「税務調査によらず自主的な修正申告の場合は、過少申告加算税がかからない」
ことが一つの特徴です。
では、いつからこの過少申告加算税がかかることとなるのか。この解釈が明確になったのが、平成28年度の税制改正です。結論としては、前記Ⅰの「調査通知」を受けた時点から、過少申告加算税がかかる取扱いになりました。改正前は、この調査通知の連絡後に、慌てて(?)修正申告をするケースがあったのでしょうか…。
Ⅲ いざ実地調査開始!
このように、税務調査の実際の開始までにおいて、準備を含めてたくさんやることがあります。お客様との打ち合わせを進めて、想定される質問への対策を練ったり、書類の保存状況を確認したり。百戦錬磨のお客様も、税務調査は不安なものです。ぜひ事前準備から寄り添っていってください。
~調査当日 一般的な流れ~
実地調査は2日間~3日間で実施されることが多い印象です。ここでは一般的なパターンで、流れと注意点をご紹介します。
【1日目】
まず、社長へのヒアリングからスタートします。初日の午前中いっぱいを使って、会社の概要や事業内容の説明、組織の状況や社長の趣味等を聴取されます。質問事項は多岐にわたります。また工場現場などを、実際に視察されることもあります。「調査に必要があるから質問してくる」という認識で、回答・対応していってほしいです。資料としては、会社案内のパンフレットや組織図があると、説明されやすいように感じます。
昼食をはさみ、午後からは帳簿・書類の確認へと進んでいきます。ここからは主役交代で、会社の経理担当者や税理士の出番です。
午前中にヒアリングした内容に沿って、例えばその会社が売上に至るまでのヒト・モノ・カネの流れを、それらを示す書類とともに確認していきます。
基本的に事実関係の整理をしていく作業になりますので、見解の相違が生じるような質問があった場合や即答が困難な質問ついては、調査官に「まとめて後ほど回答する」という方法で留保してもかまいません。調査官が会社に求めた資料(コピー)については、2部コピーの上、1部を税理士サイドでも持っておくといいでしょう。
【2日目・3日目】
2日目以降は、前日までの調査の続きをされ、不足資料が揃ったり宿題となった項目が解決しているのであれば、それらを提示して、一つずつ不明点をつぶしていきます。
予定している日数の最終日においては、最後にまとめの報告があるため、社長には最後立ち会っていただくのが良いと思います。
まとめと言っても、その場で調査官も最終判断はできないことがあるため、調査したところの報告を受けることに止まるのが一般的です。双方納得いかず見解の投げ合いがあるようでしたら、別日で税務署や会社で、ポイントを絞って議論していくことになります。
こうして、ひとまずの実地調査が終了します。
【是認又は修正申告の手続き】
実地調査までで非違が認められない場合には、税務署から是認の通知を受けて終了となります。何かしらの修正がある場合には、修正申告書の提出と必要な納税を済ませて、後日届く加算税・延滞税の通知に基づきそれらも納税して、終了となります。
ここで、ぜひお客様に対して、調査の経緯を含めて修正申告の内容や、指導事項にとどまった項目、そして交渉の結果認められた項目などを詳らかに説明してください。立ち会われた税理士が、がっちりと会社とスクラムを組んで臨んだ結果であることを、お客様・社長に伝えていくことで、税務調査が今後の改善点の共有にもなりますし、成功や失敗の共有でお客様との距離が縮まることと思います。
Ⅳ 税務調査で気を付けたいこと
過去に税務調査に立ち会いをして、私なりに感じた注意点を、いくつかご紹介します。
1,議事録に不足がないか
株主総会や取締役会の議事録は、会社の意思決定の重要な情報が盛り込まれます。
特に役員退職慰労金など、損金算入時期を探る重要なポイントとなる決議がされた場合は、議事録がきちんと作成されているかどうかの確認をしておきます。
2,実地棚卸の原票はあるか
実地棚卸をした際に、実際に現場で目で見て記入した原票があるかどうかを、確認しておきます。その後表計算ソフトで単価を掛けて棚卸の金額を計算しますが、その基となる資料を調査官は確認されたいためです。
3,不用意な付箋が貼られていないか
過去何かを調べたりしたときに貼った付箋が残っている、なんてこともあります。
調査官も調べたくなってくるかもしれませんので、必要のない付箋は外しておきましょう。
4,契約書に印紙は貼付されているか
契約書によっては、印紙の貼付が必要なものがありますが、それが漏れていることがないかを確認しておきます。
~最後に~
今回で、コラム『税理士のヒヤリ・ハット体験談』は終了となります。これまで税務を中心にヒヤリ・ハットをキーワードにしながら、様々な情報を発信してまいりました。基礎となった情報の中には、恥ずかしながら、私たちの過去のほろ苦い経験も実は含まれていました。少しでもたくさんの、そして確かな情報をお伝えしたい。そして、お客様に対して良いサービスをしていってほしい!その想いから、税理士や会計事務所の方向けの目線で、包み隠すことなく書き続けてきました。いかがだったでしょうか。
30回(つまり2年半)もの連載をさせていただいたビズアップ総研様に、またこれまで、数えきれないほどの経験をさせていただいた古田土会計と古田土所長に、この場をお借りして感謝申し上げます。
最後に、皆様がこれからもヒヤリ・ハットを事前に防ぎ、お客様との信頼がより深くなっていく仕事ができることを祈念して、締めさせていただきます。