税理士の責任と報酬との関係<契約書のポイント 会社と税理士の顧問契約 第5回>
鳥飼総合法律事務所 弁護士
佐藤香織
2021/7/18
第5回 税理士の責任と報酬との関係
1 税理士報酬を契約書に書くことの意味
このタイトルに対しては、「顧問契約書に税理士報酬を書くことなんて、当然やっているよ」という声が聞こえてきそうです。
確かに、契約書に報酬を書き忘れることは、まずないでしょう。
各事務所の報酬規程などに従い、クライアントに説明して、見積もりを出して、合意した金額を契約書に書く・・・とステップを踏んで契約しているので、特に問題 が起きたこともないかもしれません。
そこで今回は、「税理士の責任と報酬」という少し変わった角度から、報酬についてのポイントを見てみましょう。
2 税理士の業務の範囲と報酬
顧問契約書の報酬の定めの例としては、次のようなものがあります。
第●条 報酬の額
1 報酬は乙(注:受任者税理士又は税理士法人)が定める報酬規定に基づき、次のとおりとする。なお、各報酬額には別途消費税が付加される。
①顧問報酬として月額 円
②税務書類及び決算書類作成の報酬として 円
③税務調査立会い報酬として1日当たり 円
2 前項の顧問報酬は、毎月〇日締で翌月〇日までに、乙が甲(注:クライアント)に請求書を発行し、甲は乙の指定口座に振り込むものとする。
3 第1項の税務書類及び決算書類作成に係る報酬は、乙の業務終了後〇月以内に請求書を発行し、甲は乙の指定口座に振り込むものとする。
前回、顧問契約書に、業務の範囲として、「その他、上記に付随する一切の業務」と書いてある場合のことをお話しました。このように書かれているときは、税理士 の業務の範囲は付随業務にも及び、その付随業務の報酬は上記の報酬の金額に含まれるとされるのが、通常の解釈でしょう。
そうすると、付随業務も上記条文の1項の①から③の報酬のどれかに含まれることになります。
もし、これを避けたいのであれば、付随業務の報酬について契約書にあらかじめ書いておくか、付随業務を始めるときに新たに報酬についてクライアントと合意して 別の覚書などに残しておくか、といった対策が考えられます。
3 「報酬をもらわないから、ミスしても税理士に責任はない」は本当?
上の一文は、前回のコラムで出た一文です。この考え方には落とし穴があるのですが、何かわかりますか。
そうです。
実は、「報酬の有無と、税理士の責任の有無は、関係がない」のです。
裁判になった例を1つ紹介しましょう。
これは、税理士が消費税の課税事業者選択届出書を提出すべき時期に提出しなかったため消費税等を追加で納めることとなったと主張して、クライアントが、税理士 に対し、損害賠償を求めた事案です(東京地方裁判所平成24年12月27日判決・判例タイムズ1392号163頁)。
この裁判の判決で、裁判所は次のように言っています。
「本件委任契約は無償の委任契約であるから、税理士の注意義務の程度は軽減されるべきであると記載されているが、本件委任契約が無償であるか否かにかかわらず 、税理士の注意義務の程度は異ならないというべきである(民法644条)。」
つまり、判決は、「報酬が無償でも、税理士の善管注意義務の程度は、報酬があるときと異ならない」と言っています。
無報酬であっても、税理士業務によって損害が生じれば、税理士は責任を負うことになるのです。
上の「民法644条」は、第2回のコラムでご紹介した、税理士の「善管注意義務」の根拠となる条文です。
このことからも、“報酬は業務の範囲と関連させて明確に定めておくこと”がポイントだとわかります。
せっかく契約書を作るのですから、トラブルが起きない契約書を目指しましょう。
それが、結果として当事者両方の利益になるのです。