遺留分侵害の合意があったときの更正の請求とその期限のミス事例<気になる税務トピックVol.26>

『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.130(2024.8)に掲載されたものです。


白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生

遺留分侵害の合意があったときの更正の請求とその期限のミス事例

遺留分侵害の合意が成立した後の更正の請求が期限を過ぎているとして依頼者から損害賠償請求を受けた事例が紹介されている(税理士界 5月15日号 事例8)。

令和4年1月に遺留分侵害の合意が成立したので、税理士は令和4年4月に本件の相続税の修正申告書を提出したが、更正の請求を行わなかった。7月になって税理士が税務署に相続税の還付金について問い合わせたところ、相続税の更正の請求期限を過ぎており還付できないとの回答を受け、そのことを依頼者に報告したところ、税理士法人は依頼者から損害賠償請求を受けた。

想像になるが、おそらく次のような申告だったのだろう。つまり相続人Bについては修正申告では還付されず、更正の請求が必要になる。気付いたときは更正の請求期限が過ぎていたということなのだろう。

この事案の教訓は、遺留分の合意があったときの更正の請求期間が法定申告期限から5年ではなく、遺留分の合意の日から4か月であることだ。日々の忙しい実務をこなしながらだと、勘違いしてしまってもおかしくない。他山の石としよう。

事前確定届出給与のミス事例

定時株主総会にて代表取締役2名に対しそれぞれ2,800万円の賞与を支払うことが決議されたので、事前確定届出給与に関する届出を税務署に行った。しかし、実際に支払われたのはそれぞれ2,500万円であったため、支給額の合計5,000万円の全額が否認され更正処分が行われた。

東京地裁は、届出額と実際支給額が異なるため、事前確定届出給与に該当しないと判断。また、仮に届出額との差額が未払の状態であったとしても、事前確定届出給与には該当しないとしている(東京地裁令和6年2月21日判決)。

顧問税理士にとっては管理がやっかいな事前確定届出給与。仮に関与先が届出と異なる支給を行っていたときに救済はないのか。未払金で計上してすぐに払うのであれば認められると思う。しかしこの事例では支給額のみを損金算入していた。

届出額よりも過大に支給した場合に過大部分の金額を雑損失処理したことが不正な所得圧縮に該当するとして懲戒処分された事例もある。では過大部分を貸付金処理することはミスのリカバリーになるだろうか。税理士としては積極的にそのように処理するのも怖い。

事業承継税制の役員要件の緩和

政府の「新しい資本主義実現会議」(議長・岸田文雄首相)がとりまとめる実行計画改定版の原案が明らかになったという報道によると、事業承継税制の特例措置について、現行は令和6年12月末となっている後継者の役員就任期限をそれ以降に延長するとのことだ。

事業承継税制では後継者の役員要件があり、贈与税の納税猶予を活用する際には、後継者が役員就任から3年を経過している必要がある。事業承継税制の適用期限(令和9年12月末)を考えると、現行では令和6年12月末までに後継者は役員に就任している必要があるが、この期限が延長されるとのことだ。

白井 一馬

しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。

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