リスクマネジメントとしての「対話」<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.10>
金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎
2022/3/18
このコラムでは、SDGsビジネスの第一人者である平本督太郎先生が、国際社会の共通目標である「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」について中小・中堅企業の【実践編】として戦略策定の考え方や事例をわかりやすくご説明します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.101(2022.3)に掲載されたものです。
「社会変化によって追い込まれない」ために
企業戦略でサプライチェーンを改善する②
今回は、リスクマネジメントとしての「対話」について解説します。前回お伝えしたリスクマネジメントの4つの内、①備える、②見極める、の2つには「対話」が有効です。
まず、「①備える」です。これは、世の中の大きなメガトレンドを把握し、自社のサプライチェーン上に存在するリスクが急拡大するタイミングに備えるということです。こうした「①備える」に対して「対話」がなぜ大事かというと、多くの場合自分の視野に入っていないメガトレンドは、自分と接点のない人たちとの「対話」が多ければ多いほど視野に入ってくるようになるからです。特に、自社単独ではなくサプライチェーン全体に目を向ける際には視野を広く持つことが重要です。そのため、自分とは異なる領域にいる人達との「対話」を増やすことや、世界や日本の中でも様々な変化が伝わってきやすい場所に出向く回数を増やすこと、更には拠点を設けることが必要です。例えば、環境規制に関する情報を得るために北欧に拠点を設けている企業も多くいます。しかし、大事なのは、本当にメガトレンドを察知できる状況になっているかです。
そのためには、メガトレンドをよく察知している人へのインタビューも有効です。個別にインタビューをし、他の人にインタビューした結果もふくめて情報を整理した上でインタビュー相手にフィードバックすることで継続的に話ができる関係を構築するのが良いでしょう。専門家や有識者の内、繋がりがない3人以上が今後やってくる同じ変化に着目している場合、危惧している場合は、早く備えたほうがメガトレンドだと理解できます。
次に、「②見極める」です。これは、段階的にアプローチをすることにより情報量を増やしつつ、リスクの大きさやそれが起こるタイミングを把握するということです。わかりやすいのは途上国への海外展開です。途上国での事業展開には様々なリスクが存在します。そうしたリスクを把握するためには、①販売代理店などの現地パートナーを通じた輸出販売、②現地拠点を設立し、マーケティング、アフターサービスを強化、③国内拠点の増加、もしくは複数事業の展開、製造拠点の設立と、段階的な発展が有効です。販売代理店を通じた輸出販売を始めたからこそ見えてくるリスクもありますし、現地拠点を設立して初めて見えてくるリスクもあります。SDGsに関しても同じで、例えば、フードロスに関するリスクをいきなり見極めようとしてもそれは難しい。そうではなく、まず小さくてもフードロス対策を行い、その取り組みを広く情報発信し、同様の取り組みをしている企業やその他のステークホルダーと対話をしていく、そうすることで初めてこれまで集められなかったリスク情報が集まるようになっていきます。
①備える、②見極める、の2つに共通するのは、視野を広げるとともに、情報が自分に集まりやすい環境を整備するということであり、「対話」はそのための重要な手法となるのです。
次回は、リスクマネジメントとしての「共進化」について解説します。