退職所得課税見直しの議論が本格化へ<気になる税務トピックVol.13>

白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生

2023/6/26
『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。

退職所得課税見直しの議論が本格化へ
経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の大きな焦点が退職所得課税制度の見直しだ。長期継続雇用を優遇していることが労働移動の円滑化を阻害しているとの批判がある。改正の本当の狙いは何か。政府の言う雇用の流動化なのか、中小企業で重宝される節税の防止なのか、単なる税収確保なのか、改正趣旨によって改正内容や経過措置の取扱いが決まることになる。

贈与税のリスクと税理士の対応
父親が会社への債権を免除したことによって子が持つ株式の価値が上昇したとして贈与税を課税した裁決事例(令和4年3月16日裁決)。

事前に相談されたら税理士には難しい判断になる。「会社に対する貸付金1億円を放棄したい」と社長が言い出したらどうすべきか。既存株主の息子に相続税法9条によるみなし贈与が認定されたら大変だ。否認に備え、税理士は相続時精算課税をアドバイスするかもしれない。これだと暦年贈与が避けられ、最後は相続税課税になるから失敗のリカバリーになる。つまり放棄はせず貸付金がそのまま相続財産になったのと同じだ。

しかし実行後、贈与税の申告期限から6年が経過したらどうだろうか。その時点で何も指摘がなければ暦年贈与だったら時効だ。それに対し相続時精算課税を選択していれば、贈与者に相続があった時の遺産への加算対象になる。贈与税の申告をしていない場合であっても加算が必要だから相続税の調査が終わるまで心配し続けることになる。

社長は相続時精算課税を選択したことを悔やむかもしれない。しかし時効を期待するようなリスクの高いアドバイスを税理士がすることはできない。

マンション評価に関する有識者会議が行われる
税制改正大綱で表明されていたタワマン節税を防止するための評価に関する議論が公表された(令和5年6月2日、国税庁「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について」)。平成25年~30年中のマンションの取引事例のうち65%は乖離率が2以上とのこと。つまり実勢価格は相続評価の2倍以上という事例が過半数を占めるということだ。

乖離率 = 市場価格 ÷ 評価額

乖離を是正するための評価方法の検討として、現行の相続税評価額を前提とした上で、市場価格との乖離要因(説明変数)から乖離率を予測し、その乖離率を現行の相続税評価額に乗じて評価する方法が提示されている。

具体的な改正は難しいのではないか。乖離率は都心と地方で全然違うし、そもそも乖離率の高いタワーマンションをどう定義するのか。すべてのマンションに適用するのは無茶だと思う。マンション以外の乖離率の高い不動産は放置するのか、課題が多い。

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