No one will be left behind 誰一人取り残さない・置き去りにしない<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.4>

金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎

2021/7/17

Vol.4 SDGsの本質:3つ目のキーワード「誰一人取り残さない・置き去りにしない」

SDGsの本質を表す3つ目のキーワードは、「誰一人取り残さない・置き去りにしない」です。「誰一人取り残さない・置き去りにしない」は英語では、No one will be left behindと表現されます。これは資本主義の在り方を見直す考え方でもあります。従来の資本主義においては、最も成果を出しやすいところに資本を集中投下す るという考えが当然だとされてきました。他方で、その考え方では資本が投下されない場所が生じてしまいます。

実際に、SDGsの提唱以前は社会課題の解決をする際に定量的な目標が設定された場合、その目標を達成するために効果が出やすいところから課題解決が進められてき ました。そのため、課題が深刻なところほど課題解決のための取り組みが十分に行われないという状況が発生しました。こうした経験を通じて、今までの考え方では 根本的な問題解決が出来ないことが分かってきたのです。

それではどうしたらよいのでしょうか? どちらかを選ぶ「OR」ではなく、両方を満たす「AND」の思考に立ち、イノベーションを起こすことで、トレードオフ構造を 破壊することが有効です。トレードオフ構造とは何かを選ぶ際にほかの何かを犠牲にしてしまう構造のことを意味します。例えば、新型コロナウイルスの感染が広が っている現状において、皆が家に籠り、国間、地域間での移動を禁止することにより、感染を防ぐことが出来ます。他方で、経済活動が行えないために、経済的な観 点から生活に苦労をする人々が増加するという別の問題が発生してしまいます。もしも、家に籠りながらも、経済活動が今まで通り、もしくはそれ以上に効率的に実 施できる状況になったのであれば、私たちは何かを犠牲にする妥協案ではなく理想の選択肢を選べるようになることでしょう。

SDGsの達成には全ての目標の達成が必要となります。そのため、各目標間でのトレードオフが発生する場合には、トレードオフ構造を明らかにしたうえで、それが発 生しない考えを創造する必要があります。また、SDGsでは環境、経済、社会という3つの要素の好循環が重視されます。この3つの間のトレードオフ構造についても、 それを破壊するイノベーションが必要になります。例えば、前述の例だと、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐことは、社会の領域であり、Goal3「すべての人に健康と福祉を」に該当する領域となります。それに対して、働きがいと経済成長を両立することは経済の領域であり、Goal8「働きがいも経済成長も」に該当する領域となります。私たちはいま、このトレードオフ構造に直面している状況なのです。そして、この状況を打破することこそ、SDGsの達成に寄与する重要な取り組みだと言え るのです。

このように、誰かが幸せになっても、それによって別の誰かが不幸になってしまう状況はなくしていかないといけません。だからこそ「誰一人置き去りにしない・取 り残さない」はSDGsの本質の一つだと言えますし、トレードオフ構造の解決はSDGs達成に向けたアクションを考えるうえで非常に重要な着眼点となるのです。

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