カスタマーハラスメント対策が義務化へ<ネット時代に必要な企業防衛の極意vol.34>

昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.138(2025.4)に掲載されたものです。
弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生
近年、顧客からの過度な要求や不当な言動、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)が深刻な社会問題となっています。企業で働く従業員がカスハラに遭遇する事例が増加しており、その精神的・身体的な負担は無視できないものとなっています。
企業として労働者の安全を守るためには、カスハラに対する対応方針の明確化、カスハラ事案発生時の対応方法や手順の策定、担当者が過度に消耗疲弊しないように相談体制の整備、これらを基にした研修の実施などを行い、安全な職場環境を整えることが重要です。企業に対してカスハラ対策を義務化する改正労働施策総合推進法が閣議決定され、今国会で成立予定となっており、同改正法が施行されれば法令上の義務として対策を実施する必要も出てきます。
現状では「カスハラ」を明確に定義する「法律」はないものの、パワハラ対策に関する指針(令和2年6月1日労働施策総合推進法に基づく厚労省指針)の中では、カスハラを「顧客等からの著しい迷惑行為」と表現しています。また、いち早くカスハラ防止条例を策定した東京都の指針では、【顧客等から就業者に対して、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの】という定義がなされています。
しかし、カスハラの定義が何か、カスハラに当たるか否かというのは、それほど重要ではありません。カスハラだから違法になる、カスハラではないから合法といったことではなく、ダメなものはダメであり、問題となる言動が社会通念上許容できる正当なものなのかが法律的には問題です。カスハラ対策を義務付ける法令が適用されなくとも、そもそも企業の側としては、労働契約に基づく安全配慮義務として職場環境を整え顧客等からの迷惑行為から従業員を守る義務があり、法令改正前の現時点で、すでにカスハラ対策の不十分性が問題となって従業員との間で訴訟になった事例も生じています。
さて、カスハラ事案はセクハラやパワハラ等の他のハラスメント事案よりも、正当な要求と違法なハラスメントの判断はなかなか難しい領域も多いと思います。サービス提供側と顧客は本質的に利害の対立があり、顧客が言いたいことを自由に言えば、言われる側としては嫌なこともいっぱいあるでしょう。特に、何らかの不手際があってクレーム対応になっている局面では、どこまでの補償が必要か、顧客の要求は過剰ではないかといった契約上・法律上の判断も必要です。担当者が個人で判断するのには難しい場合もあり、上長を含めた複数人で、カスハラとして拒絶すべき相手なのか、通常の取引上のやり取りなのかを見極めることが重要です。
最後に、自分や自分の会社の従業員が取引先に対してカスハラをしないことも重要ですので、この点も強調しておきたいと思います。

中澤 佑一
なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。