2025年の日本経済(小宮一慶先生 経営コラムVol.86)

本コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.136(2025.2)に掲載されたものです。
株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO 小宮 一慶 先生
今年の日本経済ですが、賃上げにかかっている部分が大きいと考えます。もちろん1月に誕生したトランプ新政権が関税などで今年の日本経済に影響を与える可能性があることは間違いありません。
そのこととは別に、賃上げの動向が今後の日本経済に大きく影響を及ぼします。このところの消費者物価上昇率(生鮮除く総合)は2%台半ばから後半ですが、現状の給与の伸びは、それとほぼ同等程度です。実際、インフレを加味した「実質賃金」は11月までの4か月連続でマイナスです。
ですからGDPの5割強を支える家計の消費支出は、2024年はふた月を除いてマイナスの状況が続きました。ただ、インバウンドが過去最高だったコロナ前の2019年を超える勢いで、家計の支出の低迷をカバーしているという現状です。
こうした中、大企業では人手不足もあり、5%程度の賃上げを表明しているところも多くありますが、働く人の7割を抱える中小企業の賃上げがひとつのカギを握ると考えられます。
今年は、企業経営、とくに中小企業には結構厳しい側面もあります。金利が上昇するからです。昨年、日銀はマイナス金利を解除し、7月には政策金利(短期金利)の上限を0.25%まで上げました。長期金利(10年国債利回り)は1.2%近くの水準まで上がっています。そして、今年はさらにそれが上がると予想されます。
日本のインフレ率は11月で前年比2.7%ですが、この先も企業の多くは値上げを考えています。事実、日経新聞が主要企業100社の社長に行ったアンケートでも90.8%の企業が検討中も含めて値上げをする意向とのことです(1月9日付朝刊)。今年は消費者物価が大きく下げることはなかなか考えにくい状況です。
短期的に景気を下支えしそうなことがあります。それは政権基盤がぜい弱なことです。「政権基盤がぜい弱」なら経済には悪い影響が出そうですが、少数与党なので、野党の意見を多く聞かなければならない状況となっています。今は予算案などを通すために石破内閣は多くの妥協を行っています。この妥協はかなりの確率でバラマキです。これは短期的には景気はある程度下支えすると考えられます。
しかし、先進国中最悪の対名目GDP比の財政赤字を抱えるこの国の財務体質は、バラマキによってさらに悪化することは明らかです。人口減少や財政赤字の拡大など、中長期的な問題の解決には政権は当面目を向ける余裕がないことがとても残念です。

小宮 一慶
こみや・かずよし/京都大学法学部卒業。 米国ダートマス大学タック経営大学院留学(MBA)、東京銀行、岡本アソシエイツ、 日本福祉サービス(現: セントケア)を経て独立。名古屋大学客員教授。 企業規模、業種を超えた「経営の原理原則」をもとに幅広く経営コンサルティング活動を 展開する一方で、年100回以上講演を行っている。 『稲盛和夫の遺した教訓』(致知出版社)など著書は150冊以上で、経済紙等にも連載を抱える。