言ったことを守ることが信用の大前提(小宮一慶先生 経営コラムVol.83)
コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.133(2024.11)に掲載されたものです。
株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO 小宮 一慶 先生
新しい内閣が発足しました。石破首相は、自民党総裁選時には、じっくり議論をしたうえで衆議院を解散すると言っていましたが、首相になったとたんに前言を翻し、国会を早期に解散して、「国民に信を問う」と言いだしました。
「信」という字は「人」の「言」と書きます。言ったことを守るということが、信の源泉なのです。「信」を守れない人が「信を問う」など言語道断だと思います。
もちろん、政権を確固としたものとするためには、スキャンダルが出ず、国会でパーティー券の裏金問題で野党から厳しく突っ込まれないで、まだ新鮮感があるうちに選挙をしたいという戦術的な思惑があることは理解できますが、選挙に勝つためには、言ったことを守らなくてもかまわないと思っているのなら問題です。重要な言動をコロコロ変える人がトップでは今後の期待など持てるはずもありません。
金融政策も同様です。石破氏が自民党総裁に選ばれた直後は、有力なライバルだった高市早苗氏が金利上げに反対していたことから円安傾向だったのが、石破氏は以前から利上げに反対ではなかったので、一転大幅な円高株安に市場は反応しました。「石破ショック」とまで言われました。しかし、その後石破氏は、「緩和」を強調しており、日銀総裁との面談でも「今は利上げの時期とは思わない」と発言しています。
松下幸之助さんは『道をひらく』の中で、「いかに強い力士でも、その勝ち方が正々堂々としていなかったら、ファンは失望するし、人気も去る。つまり、勝負であるからには勝たなければならないが、どんな汚いやり方でも勝ちさえすればいいんだということでは、ほんとうの勝負とはいえないし、立派な力士ともいえない。(中略)事業の経営においても、これと全く同じこと。その事業が、どんなに大きくとも、また小さくとも、それが事業であるかぎり何らかの成果を上げなければならず、そのためにみんなが懸命な努力をつづけるわけであるけれども、ただ成果を上げさえすればいいんだというわけで、他の迷惑をかえりみず、しゃにむに進むということであれば、その事業は社会的に何らの存在意義も持たないことになる。だから、事業の場合も、やっぱりその成果の内容、つまり、いかに正しい方法で成果を上げるかということが、大きな問題になるわけである。」(「大事なこと」より)
首相が本当に信頼に足るのかとても心配です。今後の言動に注目です。
小宮 一慶
こみや・かずよし/京都大学法学部卒業。 米国ダートマス大学タック経営大学院留学(MBA)、東京銀行、岡本アソシエイツ、 日本福祉サービス(現: セントケア)を経て独立。名古屋大学客員教授。 企業規模、業種を超えた「経営の原理原則」をもとに幅広く経営コンサルティング活動を 展開する一方で、年100回以上講演を行っている。 『稲盛和夫の遺した教訓』(致知出版社)など著書は150冊以上で、経済紙等にも連載を抱える。