介護現場に浸透しつつある生成AIの活用による生産性向上
<小濱道博先生の介護特化塾 vol.13>
本コラムでは、介護経営コンサルタントとして、日本トップクラスの小濱道博先生が、介護業界の「知って得する」トピックスを取り上げて解説します。会計事務所の皆様に、介護マーケットの魅力・重要性のほか、介護特化を進めるためのヒントや戦略などを毎回お届けします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.148(2026.2)に掲載されたものです。
小濱介護経営事務所 代表
C-SR(一社)介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
小濱 道博 先生
介護現場における生産性向上の切り札として、ロボットやセンサーといったハードウェアへの期待が集まっていた。しかし、見守りセンサーが夜勤配置基準の緩和という明確なエビデンスを確立した一方で、介護ロボットなどは単一作業しか行えない「道具」としての限界から、倉庫で眠るケースも少なくない。今、現場の景色を一変させる存在として急速に浸透しつつあるのが生成AIである。
現場を最も疲弊させているのは、月間50時間にも及ぶと言われる膨大な記録業務である。行政の記録主義や加算取得のために書類作成は増え続けているが、ここで威力を発揮するのがAIによる音声入力と高度な整形技術だ。キーボード入力が苦手な職員でも、スマートフォンに向かって友人に話すような砕けた口調で状況を吹き込めば、AIが瞬時に専門的な介護記録の文体へと変換する。これにより、記録に要する時間は劇的に短縮され、手書きメモをパソコンに打ち直すような二度手間も解消される。さらに、Google Workspaceなどのクラウド環境と連携させれば、現場で入力されたバイタルやヒヤリハット情報はリアルタイムで集約され、AIが即座に傾向を分析し、グラフ化まで行う。人間が時間をかけて行っていた単純集計作業は過去のものとなりつつある。
こうした業務効率化の先に、ケアの質を根本から変える「予測ケア」という新たな概念が生まれている。これは、蓄積された利用者のデータをAIに分析させ、将来の状態変化をシミュレーションする手法である。具体的には、インターネット上の情報を学習しないクローズドな環境を持つNotebookLMなどが活用される。ここに利用者の過去数年分のLIFEデータやアセスメント記録を読み込ませ、「このままリハビリを行わなかった場合の1年後のADLを予測せよ」と指示を出す。するとAIは、過去の推移に基づき、機能低下のリスクや介護度の悪化予測を具体的なシナリオとして提示する。経験と勘に頼っていたケア方針決定のプロセスに、データに基づく科学的な予見性が加わるのである。
一方で、「ハルシネーション」と呼ばれる、もっともらしい嘘をつくリスクへの対策が不可欠である。AIが出力した情報を鵜呑みにせず、必ず人間が最終確認を行うことは大前提だが、精度の向上には複数のAIを戦わせる相互検証も有効だ。あるAIが作成した計画案を、性格の異なる別のAIに批判的に検証させることで、より妥当性の高い成果物を練り上げることができる。また、個人情報保護の観点から、業務利用にあたっては学習機能がオフに設定された有料版や、セキュアな環境を選定し、個人名を仮名化するなどの配慮も求められる。
AIという新たな知能をパートナーとすることで、介護現場は「記録のための業務」から脱却し、科学的根拠に基づいた人間味あふれるケアの実践へと進化を遂げようとしている。その先にあるフィジカルAIを含めて、最注目すべきだ。
小濱 道博
こはま・みちひろ/介護経営コンサルタントとして、全国各地で介護事業全般の経営支援、コンプライアンス支援に 特化した活動を行う。2009年にC-MAS 介護事業経営研究会の立ち上げに関与。 税理士、社労士など200を超す専門士業事務所との全国ネットワーク網を構築し、 国内全域の介護事業経営者へのリアルタイムな情報提供と介護事業経営の支援活動を行う。 介護経営セミナーの講演実績は、全国で年間300件以上。 書籍の大部分はAmazonの介護書籍で第一位を獲得。

