「骨太の方針2025」が示す介護経営の未来:税理士が押さえるべき重要ポイント<小濱道博先生の介護特化塾 vol.06>

本コラムでは、介護経営コンサルタントとして、日本トップクラスの小濱道博先生が、介護業界の「知って得する」トピックスを取り上げて解説します。会計事務所の皆様に、介護マーケットの魅力・重要性のほか、介護特化を進めるためのヒントや戦略などを毎回お届けします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.141(2025.7)に掲載されたものです。
小濱介護経営事務所 代表
C-SR(一社)介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
小濱 道博 先生
政府の経済財政運営と改革の基本方針である「骨太の方針2025(原案)」が示された。これは単なる財政指針に留まらず、特に医療・介護分野において、今後の事業環境を大きく左右する重要なメッセージを含んでいる。介護事業を顧問先に持つ税理士にとって、この方針が示す動向を正確に把握し、クライアントへの的確なアドバイスに繋げることは喫緊の課題と言える。
骨太の方針において、特に注目すべきは、令和8年(2026年)に予定されている介護職員のさらなる処遇改善への言及である。これは、2025年末までに結論を得るという具体的なスケジュールが明記されており、単なる理念ではなく、実現に向けて着実に動いていることを示唆している。
「骨太の方針2025」では、医療DX工程表に基づき、医療・介護DXの技術革新の迅速な実装と、それによる質の高い効率的なサービス提供体制の構築が強く打ち出されている。これは、介護事業者が今後、IT投資を避けて通れないことを意味する。税理士としては、DX推進のための設備投資やシステム導入に対する補助金・助成金情報の提供、IT導入による生産性向上効果の見極めと、それによる経営改善への寄与度を算定することが重要である。介護記録のデジタル化による業務効率化は、職員の業務負担軽減に直結し、結果として人件費抑制や離職率低下に繋がる。
高齢化と人口減少が進む日本において、介護人材の確保は喫緊の課題であり、「骨太の方針2025」でも、外国人を含む人材確保対策の推進が明確に示されている。単に国内の人材不足を補うだけでなく、外国人材の受け入れ体制整備や定着支援は、今後ますます重要となるだろう。外国人材の教育訓練費用に対する税務上の取り扱い、さらには住居費支援など、新たな福利厚生施策に関するアドバイスも求められるかもしれない。
介護保険制度の持続可能性を確保するため、利用者負担の判断基準の見直しを含む給付と負担の見直しに関する検討が、2025年末までに結論を得る方向で進められる。これは、介護サービスの利用促進と財源確保のバランスをどう取るかという、極めてデリケートな問題であり、介護事業者の経営にも直接的な影響を与える。制度改正の動向を常に注視し、顧問先に対して、改正内容が事業所の収益構造に与える影響を速やかにシミュレーションし、必要に応じて事業計画の見直しを提案する必要がある。
「骨太の方針2025」では、医療・介護分野における不適切な人材紹介の問題に対し、実効性のある対策が講じられると明記されている。これは、介護事業者が人材紹介会社を利用する際の透明性と信頼性を高め、健全な人材流通を促進するための重要な取り組みである。人材紹介会社を利用する際の契約内容の精査や、紹介手数料の適正性に関するアドバイスを行う必要がある。また、有料老人ホームの運営やサービスの透明性と質の確保も強調されており、介護事業全体のガバナンス強化が求められる時代の到来を示唆している。
これらの動向は、介護事業者の経営に大きな変革を促すものであり、顧問先への支援を通じて、その変革を成功に導く重要な役割を担うことになる。単なる会計処理や税務申告に留まらず、未来を見据えた経営戦略のパートナーとして、積極的に情報収集を行い、専門知識を深化させていくことが不可欠である。

小濱 道博
こはま・みちひろ/介護経営コンサルタントとして、全国各地で介護事業全般の経営支援、コンプライアンス支援に 特化した活動を行う。2009年にC-MAS 介護事業経営研究会の立ち上げに関与。 税理士、社労士など200を超す専門士業事務所との全国ネットワーク網を構築し、 国内全域の介護事業経営者へのリアルタイムな情報提供と介護事業経営の支援活動を行う。 介護経営セミナーの講演実績は、全国で年間300件以上。 書籍の大部分はAmazonの介護書籍で第一位を獲得。