他の共同相続人の相続放棄と相続登記義務<所有者不明土地の解消に向けた実務ノウハウ Vol.23>
全国公共嘱託登記司法書士協会協議会
名誉会長・司法書士 山田 猛司
2022/3/2
所有者不明土地をめぐる施策が相次いで法制化されるのに伴い、登記をはじめとする実務の需要が爆発的に増加することが予想されます。そこで、この問題に精通している山田猛司先生が実務的な知識やノウハウについて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.100(2022.2)に掲載されたものです。
他の共同相続人の相続放棄と相続登記義務
相続登記の義務化が令和6年4月1日から施行されることが決まりましたが、相続人申告登記という新しい制度を活用することにより、登記義務を免れることもできます 。
しかし、いったん相続人となっても相続放棄をすれば初めから相続人ではなかったこととなるので(民法939条)、相続放棄者は相続登記の義務を負う事はありません。
他の相続人が相続放棄をしたことにより、新たな相続人となった者については、相続放棄を知ってから相続登記義務が進行するのは当然ですが、当初から共同相続人であった者の相続登記の義務についても同様と解されています。例えば長男と次男が相続をし、次男がその後相続放棄をした場合においては、長男は次男の相続放棄を知った日から相続登記の義務が発生し、当初の相続登記義務は履行不能により消滅します。
奇異に感じるかもしれませんが、法制審議会民法・不動産登記法部会資料60の補足説明によれば、「相続放棄をした者を含めた上で算定される法定相続分での相続登記は客観的な権利状態と異なるものであるため、これが登記手続上許容されるとはいえないものである(相続放棄申述受理証明書が添付されなければ、実際上、当該相続登記は実行されてしまうが、これは病理状態というべきである)。したがって、相続開始時を基本的に基準時とする相続登記の申請義務は既に客観的に履行不能となっているから、その義務違反を問う余地はないというべきである」と説明しており、この考え方によれば、一度発生した相続登記申請義務が他者の相続放棄により消滅するというものです。
面白いのは、相続放棄申述受理証明書を添付せずにされた相続放棄者を含めた登記を病理状態と表現している点ですが、相続放棄に限定した表現と考えられます。
登記官の形式的審査権の限界を病理現象としてしまうと、対抗要件との問題が没却されてしまうからです。
令和元年4月1日施行の改正民法により、相続による権利承継も登記が対抗要件とされ、相続人が取得する権利と、第三者が主張する権利(多くは法定相続分に対する差押え)のような異種の相続関係が、登記という対抗要件取得の前後により決することとなります。
しかし、相続放棄の効果は絶対的であり、相続放棄者に対する差押えは初めから無効なので(最判昭和42年1月20日)、対抗要件の範囲外と解されるからです。