インボイス制度開始後の消費税調査について<気になる税務トピックVol.16>

白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生

2023/9/25
『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。

ジャニーズ問題と特例事業承継税制
意外なところで事業承継税制のニュースが出てきた。ジャニーズの藤島ジュリー景子氏は「事業承継税制」による納税猶予の打ち切りを避けるために代表取締役に留まる必要があるというものだ。

事業承継税制を利用すると5年間の経営継続と相続した全株の保有が必要だ。納税猶予額は数百億円にのぼるという。担当税理士であれば事業承継税制をアドバイスするのは当然だろう。
納税猶予打ち切りのリスクは業績悪化だけでない。お家騒動による内紛や会社が事件を起こすなどのトラブルで後継者が辞任せざるを得ないことは珍しくない。外部環境よりも内部環境にこそ打切りリスクはあるのだ。

納税猶予が打ち切られたとしても、事業承継税制を利用していなければ本来払うべき相続税なのだから仕方ないととらえることもできる。とは言え今回の騒動で毀損した株式の評価下落について相続税額そのものが減じられることはない。ただし、業績悪化による株式譲渡については納税猶予額の一部免除の特例があるから、いずれこれを申請する必要に迫られるのかもしれない。

インボイス制度開始後の消費税調査について
国税庁長官はインボイス制度の税務調査について、従来と変わらず大口で悪質な事例に限定して実施すると明言しており「軽微な記載のミスを確認するための調査はこれまでしてきていない。記載事項(の不備)をあげつらうような調査はしない」とコメントしている。
また、適格請求書として必要な記載事項は、1つの書類にすべてが記載されている必要はなく、複数の書類で記載事項を満たせばそれらの書類全体で適格請求書の形式要件を満たすことになっている。

そもそもインボイス制度は軽減税率の把握と課税事業者からの仕入れであることを明瞭にするための制度だ。課税事業者と10%課税の取引をすることについて神経質になる必要はない。

社長が同族会社に有する貸付金債権の評価
社長が同族会社に有する貸付金債権。相続税の申告においては額面評価が実務だが、会社が債務超過であるときは相続税の申告期限までに解散すれば、貸付金についてはゼロ評価もしくは回収額での評価を認める。このような実務は肯定されるべきだと思うが、それが否認された判例が「税のしるべ」9月18日号で紹介されている(令和5年8月31日東京地裁)。

同族会社への貸付金6,036万円を亡兄から遺贈で取得した弟は、この貸付金を1,405万円と評価して相続税を申告。債務超過だった会社は相続税の申告期限までに清算結了しており、貸付不動産を売却して弟に1,405万円を返済している。回収額をもって貸付金の評価としたわけだ。

税務署は額面評価すべきと更正処分し、東京地裁もこれを支持した。同族会社には不動産の賃貸収入があったため経済的に破たんしているとは認められないとし、貸付金は額面で評価すべきと判断している。また、相続税の申告期限までに解散している場合には、相続開始時の事情として貸付金債権は回収不能だったと認める実務を裏付ける的確な証拠はないとも判断している。

厳しい判断だと思えるがこの種の処理の射程を判断する教材になると思う。

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