遺産分割協議と本人確認義務<所有者不明土地の解消に向けた実務ノウハウ Vol.26>

全国公共嘱託登記司法書士協会協議会
名誉会長・司法書士 山田 猛司

2022/6/1

所有者不明土地をめぐる施策が相次いで法制化されるのに伴い、登記をはじめとする実務の需要が爆発的に増加することが予想されます。そこで、この問題に精通している山田猛司先生が実務的な知識やノウハウについて解説します。 
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.103(2022.5)に掲載されたものです。

遺産分割協議と本人確認義務


遺産分割協議をし、特定の不動産に関し相続人中一部の者が相続するという協議がされた場合には、当該相続人から委任を受けて相続登記を申請することになります。

その際に、複数人が相続人である場合に、そのうちの一部の者から委任を受けて、相続登記を申請することは民法252条(令和5年4月1日施行の今回の民法改正では同条5項に変更されています)における保存行為としてすることができますが、その場合、相続登記の申請をしない人に対しては登記識別情報が通知されないこととなりますので(不動産登記法21条)、一般的には他の持分を有する相続人からも委任を促すこととしています。

ところで、司法書士の本人確認義務については犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯収法」という。)における本人確認義務と司法書士の基本的職責としての本人確認義務があります。

司法書士は犯収法上特定事業者となっていますので(犯収法2条2項46号)、顧客等との間で、特定業務のうち特定取引を行う場合には、本人確認をしなければならないこととされています(犯収法4条)。従って、当該業務が犯収法上の特定取引に該当するかどうかがポイントになりますが、不動産登記に関連しては「宅地又は建物の売買に関する行為又は手続」が特定取引とされているので、相続手続きに関しては本人確認義務は無いということになります。

次に、司法書士の職責としての本人確認義務については、依頼者が申請人本人であるかの確認が本人確認義務の基本ですから、委任を受けていない人について確認する義務はありません。もちろん、遺産分割協議において不動産を相続しないとされた者についても、依頼者ではないので本人を確認する義務は無いということになります。

なお、遺産分割協議において不動産を相続する者が相続しない者に対して反対給付の義務を負担する場合があります。その代償金が入金されないので、相続登記を待ってくれと言う相続人がいますが、相続登記についても対抗要件であるとすることが令和2年4月1日施行の改正民法において明定されましたので、受任司法書士は速やかに登記申請すべき義務があるものと解されます。ちなみに、上記代償金が支払われない場合であっても、その債権を有する相続人は、民法541条によって、遺産分割協議を解除できないとの判例があります(最判平成元年2月9日)。

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