評価通達総則6項を巡り最高裁が上告棄却<事業承継レポートVol.29>

白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬

2022/7/13

このコラムでは、『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』など多数の著書を持つ白井一馬先生が、事業承継に関する話題のトピックスなどを取り上げ、皆様にご紹介します。 
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.104(2022.6)に掲載されたものです。

評価通達総則6項を巡り最高裁が上告棄却


評価通達6項について最高裁が上告を棄却した今回の事例では、取得から3年を経過してから生じた相続でも相続評価が否認されたことに注目が集まりました。被相続人は2つの物件を購入しており、都内のマンションは相続開始の3年5か月前、川崎市内のマンションは2年6か月前に取得しています。うち川崎市内のマンションは相続開始から9か月後に5億1,500万円で売却しました。



被相続人は90歳を過ぎてからこれらの不動産を銀行借入で購入しています。また、銀行の貸出稟議書の理由欄には「相続対策のため」との記載がありました。本来6億円の課税価格が生じるところ評価額を圧縮し相続税をゼロにしました。したがって納税資金は必要ないわけですが、相続後すぐに相続人が売却しています。

課税庁は相続評価を否認し6項の適用による鑑定評価に基づき更正処分を行いました。売却していない都内のマンションも鑑定評価額で更正処分されています。

令和4年3月15日に最高裁の口頭弁論が開催されました。このことから6項の適用を巡る今後の実務が変更される可能性がありましたが結論は変わらず。東京高裁の判断を支持し上告を棄却、納税者の敗訴が確定することになりました。

最高裁が原審を是認する判決をする為に事件を引き取ったのも不思議です。そこはこの事例を過去の一事例で終わらせないという意図があるのかもしれません。それが、提案をする側の金融機関を意識したものなのか、6項の適用について無制限ではないことを側の課税庁側に意識させる意図があるのかは分かりませんが。

その後さらに、本件とは別の評価通達6項を巡る事例も納税者の上告が棄却されていたことが分かりました。こちらも売却していない不動産について6項が適用されています。89歳で余命宣告された被相続人が銀行の相続税対策の提案を受け、平成25年8月に銀行借入で15億円の高級賃貸マンションを購入。直後の9月に死亡しています。相続人は相続税の申告にあたり当該マンションを約4億7,000万円と評価。これに対し課税庁は6項を適用、鑑定評価額10億4,000万円を時価と認定して更正処分を行っていました。評価通達を否定した東京高裁令和3年4月27日判決を最高裁は支持しました。

2つともよく似た事例であり、節税以外に購入動機が見受けられない極端事例です。税法の形式に従えば節税が動機になるのは認められるべきだ、そのような意見があります。事業や居住用にしているなど購入動機が認められる場合、あるいは節税目的が色濃いが購入する動機も見受けられる場合、こういった場合であれば節税効果があったとしても否認は難しいでしょう。少なくとも節税以外に目的が説明できないのが今回の2つの事例です。

今回の訴訟に関しては実務家からさまざまな議論が起きると思いますが、今後、実務の理論が進化することが期待できると思います。

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