会社の解散と清算<税理士事務所 四方山話vol.08>

本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生が、これらの話題をわかりやすく、そして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.136(2025.2)に掲載されたものです。
江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
江﨑 光行 先生
「会社をたたもうと思います。」
立て続けに2件の法人のお客様から告げられました。どちらの法人も業況が厳しく、経営者は高齢で後継者が不在の状態でした。法人の規模や内情を考慮するとM&Aも難しい状況であることから、会社清算を行うこととなりました。
両社とも長年業況が厳しい状態が続いていたことから、経営者から多額の借り入れがあり、債務超過となっていました。債務が残ったままでは解散、清算ができないことから、経営者が債権放棄をして、会社は債務免除を受けることとしました。
ここで税務上において検討すべきポイントがあります。それは、期限切れ欠損金の損金算入の活用です。清算事業年度末、又は残余財産確定事業年度末において、残余財産がないと見込まれるときは、期限切れ欠損金の損金算入が認められます。
債務超過会社の場合、弁済できない債務について債務免除を受けることによって、残余財産が確定します。すると債務免除益は所得金額となることから、債務免除金額によっては繰越欠損金があった場合でも、その繰越欠損金額を超え、多額の納税が発生する可能性があります。このような場合において、期限切れの欠損金を活用することで、残余財産が無い状況で課税所得が生じるという状況を回避することが可能となります。
上記のお客様は、役員借入金の債務免除益が、期限切れの欠損金の範囲であったことから納税を行う結果とはなりませんでした。なお、債務免除にあたっては、他の株主が存在する場合にはみなし贈与となる場合がありますので検討が必要です。
債務超過とは反対に、資産超過の状態で清算を行う場合、以下の税務上のポイントが考えられます。
1点目は、みなし配当です。会社の清算後の残余財産の分配にあたり、個人株主に分配を行う場合で、その残余財産が清算法人の資本金等の金額を超える金額であるときは、みなし配当とされ所得税が源泉徴収されます。(場合によっては、みなし譲渡が発生します)
2点目は、役員退職金の支給を検討することです。 上記で記載したように、資本金等を超える残余財産の分配があった場合にはみなし配当とされ、配当所得として総合課税されます。そのため、役員退職金を支給し、退職所得とすることにより、退職所得控除や1/2課税など、税制上の優遇を受けることが可能となります。もちろん財務状況や勤続年数などを考慮して、支給可能な金額を慎重に検討する必要があります。
人件費や物価の上昇という厳しい環境に加え、経営者の高齢化が進み後継者も不在という状況においては、会社清算を選択する中小企業は増加するものと考えられます。廃業を行うにあたり、税務面から最後の支えとなれればと考えます。

江﨑 光行
えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。
現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、
ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。