SDGsの本質を表す「バックキャスト」<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.3>
金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎
2021/7/17
Vol.3 SDGsの本質:2つ目のキーワード「バックキャスト」
SDGsの本質を表す2つ目のキーワードは、「バックキャスト」です。「バックキャスト」とは理想の未来を描いたうえで今やるべきことを考えていく方法です。相対する言葉で「フォアキャスト」があり、現状の延長上を推測する方法を指します。現在既に地球は限界に来ており、現状の延長上には持続可能な社会は存在しません。 そのため、イノベーションを起こして現状とはかけ離れた野心的な目標の達成を目指すことが必要です。こうした理由から、SDGsでは最初に理想の未来を描き、それ から現在のことを考える「バックキャスト」がより重視されているのです。
「バックキャスト」は、人々の行動を大きく変えていきます。Goal7「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」に関する動向を紹介しましょう。現在、フランス政府とイギリス政府を始めとする複数の国が、2040年までに国内でのガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止する 方針を決めています。
自動車の部品等を作っている中小企業の視点から考えると、「フォアキャスト」の視点から電気自動車の話を聞いても、いまはガソリン車等の部品が事業の中心なの だから、余裕が出来たら取り掛かろうという考えに陥りがちです。しかし、「バックキャスト」の視点だと、2040年にはガソリン車等の部品事業は売上がゼロになる ので、そこまでに代わりの事業を立ち上げないと大変なことになる、いまから少しずつ始めておこう、という考えが生まれます。「バックキャスト」は社会の急激な 変化に対応する能力を身につけることが出来る考え方でもあるのです。
新型コロナウイルス感染拡大下でも「バックキャスト」の重要性が改めて示されています。2030 ~40年を見据えて活動していた人たちは、多くの経済活動がいきなりオンライン中心になっても積極的に対応しています。なぜならば、いつか来ると考えていた社会がこのタイミングで来た、と受け止められるからです。しかしながら 、「フォアキャスト」で考えると、いつ元のような社会に戻れるのかと考え、新しい活動になかなか足を踏み出すことが出来ません。
持続可能な社会を実現するためには、大きく社会を変革しないといけません。そのためには、まずは皆が望む未来を描き、共有し、それを実現するために変化に応じ て行動を変える力を身につけなくてはいけません。だからこそ「バックキャスト」はSDGsの本質の一つなのです。