所得の帰属の判断<元国税調査官の告白 税務調査㊙ノートVol.27>

元国税調査官 税理士
松嶋 洋

2022/5/6

元国税調査官であり、現在は税務調査に特化したコンサルタントとして活躍する松嶋洋先生が、調査の論点となりやすい税法上の論点、税務調査への効果的な対応等について、法律、実務の両面から解説します。 
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.102(2022.4)に掲載されたものです。

所得の帰属の判断


近年、法人の所得になるか個人の所得になるか、その論点が問題になる税務調査が増えたように思います。法人に帰属するか、個人に帰属するかの判断基準として、押さえておくべきは以下の点です。

令和元年5月16日裁決(J115–3–10)
本件J取引による落札代金が請求人に帰属するか否かについては、法人税法第11条及び消費税法第13条の規定に鑑み、本件J取引の態様と請求人の事業内容との関係、本件J取引を行った本件元従業員の地位及び権限、本件J取引の相手方である落札者の認識、落札代金の費消状況等を総合的に考慮し、実質的には請求人が本件J取引の主体であり、その落札代金を享受していたとみることができるか否かを検討することが相当である

すなわち、①取引の態様と法人の事業内容との関係、②取引を行った者の地位及び権限、③取引の相手方である落札者の認識、これらの要素を前提に判断されることになります。
①について。上記の裁決においては、元従業員が会社の商品を横領してネットオークションで売った取引が問題になりましたが、この点、以下のように判断されています。

令和元年5月16日裁決(J115–3–10)
請求人は、もともとインターネットオークションによる商品の販売を行っておらず~本件J取引に際しても請求人が関与することをうかがわせる事情のない本件各アカウントが用いられたことからして、本件J取引は、請求人が行ったとみられるような外観を有してはいなかった。

法人の事業内容としてネットオークションをしていない場合、その収益が法人に帰属するという事実認定には無理があります。このため、所得の帰属が問題になった場合には、どの程度の関連性があるかを検討しなければなりません。
②について。問題になる取引について、個人がそれを行う権限を会社から付されていたのであれば、法人帰属と見る余地が生じます。一方で、そのような権限が付与されていなければ、このような判断にはならないはずです。

仙台地裁平成24年2月29日判決(Z888–1640)
本件食材の仕入れに関しては入札制度が設けられていることや、仕入課仕入係に発注権限が存在しており、調理課に所属する訴外乙らには本件食材の発注権限がないこと~からすれば、訴外乙らが、本件食材の仕入れに関する決定権限を原告から与えられていたとは認められない~訴外乙らが、本件食材の仕入れに関して授受されていた本件手数料~(注:は原告に帰属しない)

ただし、問題となる取引を行った個人が役員であれば、役員は法人の経営を行う者ですので、法人帰属と認定される可能性も大きいでしょう。
③について。税務調査においては、これが一番重視されるのですが、取引先が法人と個人、どちらと取引していると認識しているかです。

平成21年9月9日裁決(J78–3–20)
本件紙取引は、F元課長が、請求人から窃取した本件余剰紙を、「J社」の名義を使用してG社に売却したもの~上記イの(ホ)のとおり(注:G社の代表取締役の答述によれば、G社は「どこかの紙屋さん」が在庫処分する紙を現金取引するものと認識し、本件紙取引が請求人との取引であるとは認識していなかったと認定されている)、G社は、本件紙取引が請求人との取引であるとは認識していなかったことがそれぞれ認められるところ、以上のことを総合考慮すれば、本件紙取引に係る収益は、請求人の売上げとはいえない。

このため、一人会社など、個人帰属とされる可能性が高い法人については、取引先との契約関係を整えた上で、法人が主体であることを取引先にも周知させておく必要があります。

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