契約と関係する日付と契約解除<契約書のポイント 会社と税理士の顧問契約 第9回>

鳥飼総合法律事務所 弁護士
佐藤香織

2021/7/18

第9回 契約と関係する日付と契約解除

1 契約締結日とは?有効期間とは?

「契約締結日」は、契約書の署名欄の前後あたりに記載されることが多いですが、契約書のどこに記載するかについて、法律上の決まりはありません。
契約締結日とは、当事者間でその契約を締結した日のことです。
したがって、会社と税理士の顧問契約の場合、次のような日が契約締結日となります。例えば、最初に当事者の一方が署名押印をした日、当事者両方の署名押印がそ ろった日、当事者間で契約の内容に合意をした日(署名押印の日にかかわりません)、などを契約締結日とするのが通常です。
いつこの契約をしたのかという実態に即して、日付を記載することが大切です。

次に、有効期間の定めについてお話しします。
例えば、顧問契約書で、次のような条文を定めることがあります。

※甲:委任者(クライアント)、乙:受任者(税理士又は税理士法人)

第〇条 有効期間
本契約の有効期間は令和2年11月1日から1年間とする。ただし、有効期間満了の1か月前までに、甲及び乙のいずれからも特段の意思表示のない限り、本契約は 同一条件で1年間更新されるものとし、以後も同様とする。
上記によれば、この顧問契約の有効期間は、令和2年11月1日から1年間です。なお、ただし書きで、自動更新を定めています。
そして、この顧問契約書の契約締結日が、「令和2年10月15日」と記載されていた場合、この契約書は、「令和2年11月1日から効力が発生する顧問契約を、 令和2年10月15日に締結した」ということを証明するものになります。
「有効期間」ではなく、「契約期間」という言葉で定めている場合もあります。契約書の全体からその意味を考えなければなりませんが、通常は、同じ意味で使われ ることが多いです。

このように、契約締結日が令和2年11月1日より前の日になっている場合もありますが、令和2年11月1日より後の日とする場合もあります。
それはどういう場合かというと、例えば、当事者間では令和2年11月1日から契約の効力を発生させる合意ができていましたが、契約書の作成が何らかの理由によ って、「令和2年11月15日」になった、というような場合です。
前にこのコラムで解説したとおり、顧問契約は口頭でも有効に成立します。そのため、契約書を作成する前に口頭で契約が成立し、後から契約書という書面を作る場 合には、その日付である「令和2年11月15日」を契約締結日として記載し、有効期間として記載した令和2年11月1日に遡って適用すればいいわけです。これ は、実態に合致した契約書を作成したと言えます。

問題なのは、実際の契約締結日よりも前の日を契約締結日として契約書に記載することです。これは、いわゆる「バックデート」と言われるものです。
なぜバックデートが問題かというと、実態に合わない契約書を作成することになるからです。バックデートで契約書に記載した過去の日には、その契約書を作成する という当事者の合意は存在していなかったわけですから、契約書全体が偽造であるなどと疑われかねません。上記のとおり、契約書の有効期間を遡らせることで、す でにスタートした取引にも契約書の効力を及ぼすことができますので、バックデートはすべきではないのです。

2 契約の解除を定めることの意味

会社と税理士の顧問契約は、通常は委任契約です。
委任契約は、両者の間に信頼関係があることが前提です。
そのため、民法は、「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。」(民法651条1項)として、信頼関係がなくなるようなことがあった場合に、 いつでも契約を解除できることにしています。
民法でこのように定められているので、契約書に記載しなくても問題ないはずです。しかし、実際に契約の解除を申し入れたとき、相手方が容易に承知しないことな ども想定できます。
そこで、例えば、次のような条文を入れておく場合があります。契約の有効期間の途中でも、解除は可能です。

第〇条
甲乙間の信頼関係が損なわれたと認められるときは、甲または乙において本契約を解除することができる。ただし、甲は乙に対して既に支払った顧問料の返還を請求することはできない。
これはあくまで一例で、契約書の作り方も解釈もケースごとに千差万別です。契約書に署名押印する前に、あいまいで気になったりしたら、専門家に聞いてみてくだ さい。目指す契約の方向が見えてくるはずです。

登録後送られる認証用メールをクリックすると、登録完了となります。

「税理士.ch」
メルマガ会員募集!!

会計人のための情報メディア「税理士.ch」。
事務所拡大・売上増の秘訣や、
事務所経営に役立つ選りすぐりの最新情報をお届けします。