契約書を作った後にすべきこと<契約書のポイント 会社と税理士の顧問契約 第10回>
鳥飼総合法律事務所 弁護士
佐藤香織
2021/7/18
第10回 【最終回】契約書を作った後にすべきこと
1 契約書の見直しのタイミング
「契約書のポイント」のコラムは、今回の第10回が最終回となります。
最後に、契約書を作った後に気を付けることをお話します。
「契約書を作ってしまえば、もう問題ないのでは?」と考える方もおられるかもしれません。
確かに、「クライアントとの間でトラブルが起きたので、作った契約書を何年かぶりに見た」ということも、実際にはあることです。
ただ、“保管している契約書を取り出して見直してみた方がよいとき”というタイミングがあります。
主な例をあげれば、次のようなときです。
✓顧問業務(委任業務)に新しい業務が増えるとき
✓顧問契約の報酬(顧問料)の額が変わるとき
✓顧問契約の有効期間の満了日が近くなったとき
✓民法など法令が変わるとき
✓会計事務所で担当者の変更があり、あるクライアントの担当が新しい担当者に変わるとき
上記のうち、例えば、「顧問業務(委任業務)に新しい業務が増えるとき」については、新しく増える業務が、現在の顧問契約書に書かれている業務にすでに含まれ ていたのであれば、顧問契約書の変更の必要はないかもしれません。しかし、顧問契約書に書かれていた業務に含まれないのであれば、新しい業務も含めて契約書に 記載すべきことは明らかです。
また、上記のうち、「顧問契約の有効期間の満了日が近くなったとき」には、契約が自動更新かどうかをまず確認します。さらに、契約更新の時期は、実務上の不都 合について契約内容を見直すチャンスでもありますので、このタイミングで契約内容の変更を申し入れることも検討します。
契約書は作って終わりではなく、“作った後も定期的なメンテナンスが必要”と考えておきましょう。
問題は、“どのように顧問契約書を変更するか”です。
まず1つ目の方法は、「新しい顧問契約書を作って締結し直す」というものです。つまり、現在の顧問契約書の効力を失わせて、新しい顧問契約書に切り替えるのです。
これはわかりやすいのですが、変更箇所が1か所だけというようなときにも契約書全体を作り直すことになってしまいます。
そこで、2つ目の方法は、「現在の顧問契約書から変更する箇所を特定した「覚書」などを作り、変更する部分だけを合意し直す」というものです。「覚書」というタイトルでなくても、「合意書」などのタイトルでも構いません。重要なのは内容です。
例えば、先ほどの例で、契約が自動更新かどうかの確認をしたとき、自動更新でなければ、有効期間満了後の契約書を別途作る方法もありますが、従前の契約の更新 をすることだけを合意した「覚書」を作成することもできます。
他の例として、報酬の額を変更することになったときは、「甲乙間の〇年〇月〇日付け顧問契約書の第〇条の報酬について、以下のとおり変更する。」などと報酬の ことだけ明記した「覚書」を作り、元の契約書を特定して、そのどの条項をどのように変えるのかを明らかにするという方法もあります。
2 クライアントとの信頼関係を築くために
このコラムの第1回で、契約書を作る理由としては、「トラブル回避のため」、「“言った言わない”の争いを避けるため」、「証拠として残すため」などがあげられ ると説明しました。
これらの理由を見ると、契約書を作る目的は、「トラブルが起こったときや揉めたときのため」と思ってしまいそうです。
もちろんそのためでもあるのですが、私はそれ以外にも、契約書を作ることの究極の目的があると思っています。
それは、「トラブルの未然防止のため」であり、「クライアントとの信頼関係を築くため」という目的で す。
トラブルは一度起きてしまうと、その解決には膨大な時間と労力がかかることがあります。精神的にも辛く、本業に集中・専念できなくなってしまうこともあるので す。
だからこそ、クライアントとのお付き合いの最初のステップである顧問契約書の作成を、おろそかにしてはいけません。
契約内容を当事者双方でよく確認し、信頼関係を持った長いお付き合いができるためのツールとして、契約書の効用を見直していただければ幸いです。