クライアント会社の情報と顧問業務<契約書のポイント 会社と税理士の顧問契約 第8回>

鳥飼総合法律事務所 弁護士
佐藤香織

2021/7/18

第8回 クライアント会社の情報と顧問業務

1 会社に協力してもらうこと

前回のコラムでは、税理士の具体的な義務として、調査・確認義務や、説明・助言義務があると説明しました。
では、クライアントである会社の側には、何か役割はないのでしょうか。

ここで、会社が、顧問税理士に対し、消費税の計算で会社に損害を与えたとして損害賠償を請求した裁判例の、一部分を紹介します(東京地方裁判所平成24年3月30日判決・判例タイムズ1382号152ページ)
この判決文の中には、「クライアントから適切に情報提供がされるなどして、税理士法人において、クライアントが本件届出書を提出して課税事業者となった方が課 税上有利になる特段の事情を有していたことを、具体的に認識し又は容易に認識し得たとはいえないから、税理士法人には助言、指導をする義務があったとはいえな
い。」という内容の裁判所の判断があります。
つまり、税理士がクライアントに対して指導や助言をするきっかけとなる情報を得ておらず、税理士が、課税上の有利不利の判定に必要な特段の事情を具体的に認識 したり、容易に認識し得たとは言えないときには、指導・助言の義務はない、ということを言っているのです。

この裁判例をもとに、視点を変えて見てみましょう。

まず、税理士の側にとっては、調査・確認義務や説明・助言義務をきちんと果たすためには、クライアントからの情報提供が不可欠だということになります。
一方、クライアントの側にとっても、クライアントが税理士に適切な情報を与えていれば、税務上有利な選択肢を取る機会を逸しな いなどのメリットがある、ということになります。

このように、クライアントの協力は、税理士のリスクヘッジにとどまらず、クライアントにとっての適切な業務の遂行のためにも、 必要なのです。
両者の協力が大切ということですね。

そこで、「会社に一定の出来事があったときには、会社から税理士に報告すること」という内容の顧問契約書を作る方法があります。

例えば、次のような条文を見てみましょう。

※甲:委任者(クライアント)、乙:受任者(税理士又は税理士法人)

第〇条 設備投資などの事前の通知
消費税の納付及び還付を受けるについては、課税方法の選択により不利益を受けることがあるので、甲は建物新築または設備の購入など経常的に発生する取引以外の 資産取得及び多額の設備投資を行うときは、事前に乙に通知する。甲が通知をしないことによる不利益について、乙はその責任を負わない。
この条文の例は、クライアントと税理士が情報共有を図ることを目的とするものです。
税理士は、その専門性の高さなどから、「クライアントからわざわざ言わなくても気づいて当然!」というような事柄についての見落としは許されません。
ただ、日常的・経常的に起こることではない事柄は、クライアントから情報をもらわなければ気づけないことも、往々にしてあります。
そうであれば、顧問契約書を作る段階で、一定の場合には税理士に情報を提供することをクライアントの役割として明らかにしてお けばいいのです。

2 情報を集めて活かすには

クライアントからの情報は、税理士業務において宝の山です。
そこで、クライアント側に情報を提供するように通知の義務を課したのが、先に紹介した条文例です。

ただ、税理士とクライアントとの情報共有は、もちろん、この方法に限られません。
そして、情報を共有したことは、記録に残しておくことも重要です。
例えば、クライアント訪問時に、業績の見込みに関連するような話が出たときや、資料の提供を受けたときなどには、そのことを議事録や業務日誌などに残す、資料 を受け取った旨の受領書を出すなど、いろいろ検討してみましょう。

登録後送られる認証用メールをクリックすると、登録完了となります。

「税理士.ch」
メルマガ会員募集!!

会計人のための情報メディア「税理士.ch」。
事務所拡大・売上増の秘訣や、
事務所経営に役立つ選りすぐりの最新情報をお届けします。