会計業界に女性活躍のムーブメントを! 女性の活躍を支援する女性税理士が描く 支援コミュニティのかたちとは? Vol.2

税理士川崎涼子事務所 所長 川崎 涼子
経営に必要な知識や情報を女性起業家向けに発信するコミュニティを運営する川崎涼子先生。自らの税理士としてのスキルを駆使しつつ、他士業の先生とも連携しながら起業家支援に力を入れてきた。川崎先生の活動の原点には、学生時代・就職活動でかけられた“叱咤”の言葉があった。その言葉を原動力にしてきた川崎先生は、支援の対象を「起業家」から「女性士業」へと拡大し、活動の場を広げている。女性が活躍できる環境づくりに注力する川崎先生に、取り組みの狙いと今後の展望などについて伺った。
かつての叱咤が後押しに 女性支援のきっかけとは?
先生が、女性起業家の支援に力を入れることになったきっかけのようなことはあったのですか?

振り返ってみると、学生時代に原点がある気がします。
1990年代の後半、私は大学に通いながら、他の学生と同じく就職活動を行っていました。当時はバブル崩壊のあおりを受けて、日本経済は惨憺たる状況でした。いわゆる、「就職氷河期」と呼ばれる時代です。ただ、就職難の中、私は運よく働き口を得ることができました。でも、一生懸命、頑張って活動したにもかかわらず、結局、就職はしませんでした。今の夫と結婚する道を選んだのです。
私が今でも忘れないのは、内定の辞退を先方に伝えに行ったときのことです。対応してくださったのが副社長の女性だったのですが、そのとき「結婚おめでとう。でも、あなたのような人がいるから女性の社会進出が阻まれるのよ。覚えておきなさい」といわれてしまいました。
はなむけの言葉としては、厳しいですね。
当時はその言葉の意味が分からず、正直申し上げて反発しました。ただ、時が経つにつれて、この女性副社長の言葉が理解できるようになってきました。当時の私の行動は、「だから女性は採用しにくい」「女性には、責任ある仕事を任せられない」といった考えを助長させてしまう側面もあったのではないかと考えるようになりました。もちろん、「絶対に見返してやる」という思いも抱きました。一方で、そんな風にあの頃の自分を冷静に見られるようになってからは、働く女性を応援する取り組みを自らのライフワークにしていきたいと、漠然とですが考えるようになりました。
ご結婚されたときは、税理士の資格はお持ちだったのですか?
持っていませんでした。税理士試験の勉強を始めたのは、結婚した後です。
私の母は、建築士の資格を持っていて、バリバリ働いていました。そんな母の姿を見て、「自分もいつか母のように資格を取り、社会で働きたい」と、昔から考えてはいました。
それが具体化したのは、専業主婦になってからでした。実は、商学部の学生時代に公認会計士の資格試験の勉強していたこともあったのですが、そのときは合格できず脱落してしまいました。就職せず、専業主婦になった当初は、家事をこなしながら、手が空いたら大好きなサスペンスドラマなどを見て毎日を過ごしていました。それはそれで楽しかったのですが、一方で、「このままでいいのかな」という思いが消えることはありませんでした。そんな思いが頭をもたげたとき常にちらついていたのが、内定辞退を伝えた際の副社長の女性と、懸命に働いている母親の姿でした。
簿記や税法の基礎については学習していたので、せっかく学んできた知識をいかせる道はないかと思い、夫からも「もう一度勉強してみたら?」と背中を押してもらえたので税理士を目指すことにしたのです。
資格の取得まで、どのくらいの期間がかかったのですか?
5年ほどかかりました。基礎知識はあっても、難関資格であることに変わりはありませんでした。
ただ、主婦だったからこそ税理士試験に挑めた、という面は間違いなくあったと思います。1科目ずつ勉強することで資格の取得を目指せるという制度は、長期間にわたって勉強を継続できる環境にある主婦には有利でしょう。さらに、特に私の場合は、1日の時間の使い方にも融通が利いたので勉強はし易かったと思います。
繰り返しですが、もちろん、それでも簡単な試験ではありません。私自身、「諦めなければ必ず受かる」という先輩税理士からの繰り返しの励ましがなければ、合格まで辿り着くことはできなかったでしょう。一方で、主婦だったり、例えば出産や子育てで家にいる時間が長かったりする女性にとっては、税理士は目指し易い資格だと思います。会計業界で活躍する女性はまだまだ決して多いとはいえない水準ですので、是非、多くの女性の方々にチャレンジして欲しいです。
「女性士業」の支援にも着手
連携深め 新たな「つながり」を模索
先生が仰る通り、女性税理士が少ないという現状も否めません。女性起業家の支援とともに、
女性税理士が働き易い環境を整えるという発想も必要だと思いますが、どう考えますか?
女性が少ない、というのは、会計業界だけではなく士業全体の傾向だと思います。
士業では、独立して1人で事務所を経営していたり、小規模な事務所に所属していたりする方も珍しくありません。そうした先生方の中には、仕事の悩みを抱えているにもかかわらず、相談できる相手がなかなか見つからないという方も少なからずいらっしゃいます。逆にいえば、他の士業の方も含めて、心を許せる士業の女性の仲間がいるということが、仕事をしていく上で大きな支えになるのではないかと思いました。その思いを形にしたのが、今年7月から新たに始めた「士業MUSE GUILD(士業ミューズギルド)」というネット上のコミュニティです。士業の女性の方々10名ほどと、定期的に、ざっくばらんにお話しする場を設けています。
ただ、「士業MUSE GUILD」は、単なるよろず相談所ではありません。女性が士業でどう自分をアピールしていけばいいのか、いわゆるブランディングのアドバイスも行っています。
具体的にはどんなアドバイスをされているのですか?
SNSで情報発信する際のあらゆるスキルについてお話ししています。フォントの種類や色の選び方、写真の撮り方など必要なことについてお伝えしています。
私は、士業にとってSNSというのは、顧客との信頼関係を築く最も大切なツールだと考えています。もちろん、多くの士業の方がウェブサイトなどを通じて情報発信されていますが、それだけでは、自分の特長や考え方を顧客に理解してもらうのは難しいのではないでしょうか。
メンバーには、Facebookでもインスタグラムでも構わないので、SNSでしっかり情報発信した方がいいとアドバイスしています。SNSの利点は、ウェブサイトよりも詳しく自分自身の情報を発信し、表現できる点にあります。集客の観点から、この点は非常に重要です。そのツールを有効に活用するためには、「なぜ士業という仕事を選んだのか」などといった中身の部分ももちろん大事ですが、「どう見せるか」というブランディングについても極めて重要なのです。
「士業MUSE GUILD」の集まりは月に一回ほどオンラインで行っています。始まるのは、毎回、仕事や家事が一段落する夜9時頃になってしまうのですが、皆さん、積極的に参加してくださっています。
その時間から始めても参加されるというのは、皆さんとても熱心なのですね。
10名ほどの集まりなので話し易いですし、和気あいあいとした雰囲気が心地いいのかもしれません。一方で、士業でどう立ち振る舞っていけばいいのか不安に思っている女性がまだまだいるのだということも感じています。
私は、引き続きそうした女性士業の方々の相談にできる限り応じていきたいと思いますし、そういう場の存在をより多くの人に知って欲しいと考えています。
将来的には、「士業MUSE GUILD」で知り合った士業の女性を「わたしのコモンSEN」の女性起業家に紹介する、といったようなこともできればとも考えています。「働く女性を応援する」という原点を忘れず、これからも様々な取り組みにチャレンジしていくつもりです。

プロフィール |
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税理士/起業家育成コミュニティ「わたしのコモン SEN」運営 川崎 涼子
世界最大級のKPMG税理士法人など18年勤務を経て、2020年4月に独立。延べ1000社超の確定申告や決算に携わる。2023年より士業10人で起業家を育成するコミュニティ「わたしのコモン SEN」の運営を開始。2025年は74名の開業・副業・法人設立を支援。複数の大手キャリアスクールや行政にて、確定申告講座や起業伴走プログラム、士業向けSNSマーケティング講座など登壇多数。2025年9月きずな出版「年収の壁辞典」監修。2026年にはビューティーワールド ジャパン名古屋にて経営者向けセミナー登壇予定。Instagram(@ryoko_tax_zeirishi)とX(@ryoko_tax)では、難しい専門用語を使わず確定申告を優しく解説する投稿が800を超える。 |