開業8年で在籍税理士17名! 独立よりも選ばれる組織
『資産税日本一』を目指す成長戦略とは Vol.2

円満相続税理士法人 統括代表社員税理士 橘 慶太
2017年の設立から8年。急激な成長を遂げ、売上はついに4億円超。この急成長を遂げたのが、港区南青山に本社を構える円満相続税理士法人だ。大阪・名古屋・大宮にも支店を構え、幅広いエリアをカバー。顧客一人ひとりの状況に寄り添った、高度なサービスを提供している。 「日本一の相続専門税理士法人」を目指す同法人には、総勢26名のうち17名もの税理士が在籍しており、第一線で活躍している。独立開業する税理士が全体の7割と言われる中で、業界内でも類を見ない高い有資格者率を誇っている。「急激な成長」と「優秀な人材の確保」という、共に難度の高いミッションをどのようにクリアしたのか。その秘密について、統括代表社員税理士の橘慶太先生にお伺いした。
どうすれば税理士が「ここで働き続けたい」と考えるか
その中から生まれた、最低保証額つき歩合制度
橘先生は設立から8年で売上4億円を超えたわけですが、
売上1億円前後からその先にブレイクスルーしていく際、気を付けたことや心がけたことなどありましたか。
私自身、売上1億円くらいまでは、自ら現場でお客様対応をしていました。ですが今は、基本的に一歩下がった位置から全体を見て、スタッフの相談に乗ったり、現場がうまく回る仕組みを作ったりというポジションに変えました。私の好きなサッカーで言えば、選手から監督に変わったという感じでしょうか。今でもお客様を担当し、直接お話しする機会がゼロになったわけではありません。ですが基本スタンスとして、スタッフと情報を共有し、一緒に最適な提案を考えるスタイルに移行しました。

東京以外にも大阪(税理士3名/秘書1名)・名古屋(税理士2名/秘書1名)・大宮(税理士1名/秘書1名)と複数拠点を展開されていますね。
各拠点の税理士さんは、その地域に元々基盤をお持ちの方が入所される形で支店展開が進んだのでしょうか。
いえ、実はそうではないのです。2017年1月に東京で当法人を開業したのですが、2019年ごろに前職の後輩税理士が結婚を機に退職し、地元の大阪に帰ると耳にしました。ちょうどその頃、私自身も「大阪に住んでみたい」という願望があったので、「じゃあ大阪事務所をオープンするから一緒に働こう」と後輩に声をかけたのです。そうして大阪に住んで働いていたら、また仲間が周囲にたくさん集まってきて、その中の一人が片道2時間かけて通勤していたのです。「名古屋に事務所があれば1時間で通えます」と聞いたので、働きやすい環境整備の一環として名古屋への進出を決断しました。大宮事務所の展開も、似たような理由からでした。
その決断のスピードはすごいですね!背景には、やはり人材への想いがあったのでしょうか
手前味噌ですが、名古屋の税理士も大宮の税理士も、大阪の代表を任せている税理士たちも本当に優秀で、お客様からの評判も大変良い人材ばかりです。彼らに仲間として長く活躍してほしいと思っていますし、彼らだからこそ今も安心して各拠点を任せられています。私自身至らないところが多いので、創業当時から残ってくれているメンバーや長く働いてくれているスタッフの存在は、本当にありがたい限りですね。
現実的には離職率をゼロにすることはできていませんが、できる限り離職率を下げて、スタッフたちに長く活躍してもらうことを一番大事なポイントにしています。
そのためにも、密なコミュニケーションは欠かせないと思うのですが、
各拠点の連携などは、どのように行われているのでしょうか。
月2回ずつ、隔週で「全体会議」と「税理士勉強会」を行っています。結果として、週1回程度の頻度で、オンラインではありますが顔を合わせる機会があります。そうした場を活用しながら、連携を深めることができていると考えています。また、当法人では「相談chat」と呼ばれるチャット機能を日常的に使用しています。わからないことがあれば、お互いにチャットで気軽に質問し合い、誰かわかる人が回答する、という形式で知識や知恵を互いに補い合う体制を整えました。
結果、物理的に離れてはいますが、濃密なコミュニケーションを図れていますので、不安や寂しさはあまりないのではないでしょうか。
人材を大切にする風土がある職場だと感じましたが、
長く勤めてもらうためは、どんなことが大切だとお考えですか。
現在は税理士全体の70%が独立開業をしており、残りの30%が社員税理士、所属税理士として勤務しています。もともと独立志向の強い税理士の人たちに、「独立するよりも、円満相続税理士法人で働き続けた方がいい」と考えてもらえる環境づくりができるか。それがポイントだと考えています。
恐らく、日々の仕事の目的が組織貢献に偏りすぎると、やりがいを感じづらくなってしまい、独立したほうがいいと考えてしまう方が多いのではないでしょうか。ですから、当法人ではむしろ集客や採用、運営に関わることは代表が責任を持ってやる。だから、税理士の皆さんは専門性を高めて、お客様を喜ばせることにコミットしてください、という環境づくりを進めています。
給与を歩合制にされているのも、そうした「長く働き続けたい」と考えてもらう施策のひとつでしょうか。

そうですね。当法人では担当のお客様を持つ税理士は歩合制に移行します。一年の中で自らが責任者として計上した売上の3割から5割が給与となるシステムです。また、売上がどれだけ少なくても、年俸500万円は必ず支給しています。
この最低保証額・500万円という金額も、働きがいと安心のバランスを考えた金額です。個人事業の税理士より給与水準を高めに設定し、当法人に所属するインセンティブを感じてもらえるよう気を配っています。
一方で、急激に案件が増えたりすると、
先ほどお話しされていた品質を守る面に不安が生じませんか。
「もっと稼ぎたい」とスタッフ本人が思って伝えてもらえれば、任せる業務を増やします。ですが同時に、「これ以上担当が増えると、対応品質に問題が出る」とスタッフ自身が判断したときは、自らの案件増加にストップを宣言し、担当数の調整が可能です。当法人では直接集客によるお問い合わせ対応については、ローテーションで担当を決めています。誰かがそのローテーションで自らにストップをかけると、当然他の人のローテーションは早まりますよね。それで担当を持てる税理士全員がストップということになれば、事務所として受注を停止するという措置を取っています。
ご依頼が増えるのはやはり嬉しいものですが、同時にお客様への信頼にお応えできる品質を担保することは並大抵のことではありません。ですから今は、受注停止といった状況にならぬよう採用も強化しています。
将来を見据えた採用戦略
そして円満相続税理士法人が描く、次なる飛躍とは
採用戦略は、どのような形で進める予定ですか。
最近ではTikTokやYouTubeショートなど、短尺動画を活用した採用施策にも挑戦しています。自社リクルートサイトのブラッシュアップも検討中です。媒体やエージェントにお金をかけるよりも、資産性のあるものに注力したいと考えています。
どんな人材を迎えたいと考えているのでしょうか。
先ほどもお話ししたように、当法人では「相続未経験」で入所して活躍している人材が多数在籍しています。もちろん、業務経験があるに越したことはありませんが、技術的なことは入所後でも十分に何とかなるものだと考えています。
それよりはやはり、腰を据えて相続分野に取り組みたいと考える方を歓迎します。一通りの税務は見てきたけれど、その中でも相続案件に腰を据えて取り組んでみたい。そんな風にお考えの方がマッチするのではないかと思っています。 ただ、意欲を大事にするとはいえ、高品質なサービスを守るため、面談は有資格者に限定。さらに所定の試験をクリアした方のみが顧客対応にあたります。お客様を守る観点から、このルールは今後も徹底していきたいです。
組織として、今後の展開をどのようにお考えでしょうか。
他の相続特化事務所のように、自ら不動産業を始めるつもりはありません。しかし、不動産に強いコンサルタントとの連携を強めたり、IFAのような資産運用アドバイスなどを行ったりするのは面白そうだと所内で話しています。事業承継支援についても、経営者の方から直接ご相談いただければ、というルールの下で今後も対応していきたいですね。そのためにも事業承継支援サービスの情報発信も強化しなくてはと考えています。
また、今後はもっと、国際的な相続業務に注力したいですね。その第一歩として日米の相続に関するサービスについて、自信を持って提供できる所内態勢を整えたいと考えています。それは新たな人材の採用もですが、今いる「日本の税務ができる人材」を米国資産や居住者が関わる相続に対応できるよう育成することも大切です。
まずは、私自身が米国税理士の勉強を始めたところで、まだまだ学ぶべきことが多いですが、並行して行動も始めています。昨年はハワイへ行き、現地の公認会計士や金融機関の方と面談してきました。連携できる仕組みづくりができないか、これからも意見交換を続けていきます。
私が独立開業をした際、相続税だけで税理士事務所を経営するというのは「普通では考えられない選択だ」と言われました。しかし、例えその選択が少数派であったとしても、自分の決めた道を貫き通す。そして将来的な大きな目標も大事ですが、目の前の一歩を大切にしたいと考えています。

その一歩はとても小さいかもしれませんが、その積み重ねこそが、未来を切り拓く力になると信じています。これは税理士受験生のころから、税理士法人経営者となった今も変わらない、私の信念です。この先にきっと、私たちの目標である「日本一の相続専門税理士法人」を実現できると信じています。
プロフィール |
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円満相続税理士法人 統括代表社員税理士 橘 慶太
大学在学中に税理士試験の4科目に合格し、税理士法人山田&パートナーズに入社。相続担当の部署で6年間勤務し、2017年1月に円満相続税理士法人を開業。現在では東京のほか、大阪、名古屋、大宮にも拠点を構える。著書に『ぶっちゃけ相続 増補改訂版』(ダイヤモンド社)など。相続関連の複雑な制度などを平易に解説するYouTubeのチャンネル『円満相続ちゃんねる』の登録者数は15万人を超える。 |