親族外承継をパーフェクトに達成した好事例
職員から代表まで上り詰めた小嶋純一が明かす事業承継の真実 Vol.1

税理士法人中山会計 代表社員税理士社長 小嶋 純一
未経験から会計業界に飛び込み、親族外承継を経て中山会計の代表へ就任した小嶋純一先生。職員時代に培った現場感覚を活かし、主体性を持って業務に取り組む人材の育成に力を注いでいる。また、M&Aの支援にも積極的に取り組み、初めて試みた自事務所のM&Aでは失敗を経験したものの、そこから得た学びも多い。金沢という土地柄にフィットした経営姿勢とともに、“自然体”での持続的な成長を目指している。今回は、これまでの経験や人材育成への想い、M&A支援の取り組みや実体験についてお話を伺った。
未経験・資格なしで飛び込んだ会計の世界
独立よりも次世代の育成を選んだわけ
小嶋先生は中山会計に職員として入所し、親族外承継の形で代表へと昇進されました。
まずは入所のきっかけと、入所当時の印象を教えてください。

中山会計に入ったのは偶然でした。当時は会計事務所の中途採用といえば経験者か有資格者が主流で、私はそのどちらでもありませんでした。税理士資格取得を目指してはいたものの、それだけでは応募できる事務所がほとんどなかったのです。
そんな中、未経験でも、資格を持っていなくても応募できる求人を出していたのが中山会計でした。
入所してからは毎日が楽しかったですね。
税理士資格の取得を目指して勉強しつつ、現場での経験も積めたため、毎日が非常に充実していました。周囲の人も優しく、雰囲気の良い職場だと感じられました。
会計事務所の仕事に想像とのギャップはありませんでしたか?
仕事は大変でしたが、不満はなく、夜遅くまで働くことも気になりませんでした。未熟だったからこそ、働けば働くほどできることが増えて、楽しく感じられたのです。もともと好奇心の強いタイプだったので、新しいことにどんどん挑戦していける環境が向いていたのかもしれません。成長の波に乗っている感覚がありました。
代表になるまでのキャリアの中で、印象的な経験はありますか?
経験とは少し違うかもしれませんが、入所後に働きながら税理士資格を取得して、その後辞めてしまう職員がたびたび出るのは非常に気になっていました。資格がない中で、働きながらも事務所の支援を受けて資格を取ったのだから、その恩を事務所に返すのが筋ではないかと感じていたのです。
だからこそ、私自身が税理士資格を取得した時は「この事務所に貢献していこう」と強く決心しました。独立して一国一城の主になるよりも、この事務所の礎となり、次の世代が育つ環境を作るほうが大切だと考えるようになっていったのです。
先生ご自身が資格を持たない状態で職員として採用されたからこその視点かもしれません。
その通りです。もしも資格取得後に採用されていたらこの考えには至らなかったでしょう。
例えば私は、働きながら資格を取るため何度もお休みをもらいました。その間はメンバーに負担をかけますが、そうして協力してもらっても試験に落ちてしまうこともありました。それを何年も繰り返してやっと資格を取得できたので、事務所やメンバーには感謝しきれません。だからこそ、そのような場を立ち去る選択に違和感を持ったのです。
もちろん、これは私個人の考えであり、職員に押し付けるつもりはありません。ただし職員教育においては、ここで得たものを次の世代につなげてほしいという思いはしっかりと伝えています。

顧客対応の信条・教育方針
税理士は「侍」──独自の武器を持つ重要性
職員時代に心がけていたことを教えてください。
お客様に決して「ノー」と言わない姿勢です。頼まれたことには必ず応えようと決めていました。まずは引き受けて、試行錯誤して何とか結果を出す。とにかく「わかりません」「できません」などは言わないことを徹底していましたね。
この姿勢は現在の職員にも意識して伝えていますし、もちろん時と場合にもよりますが、できる状況で、もしも「ノー」を出してしまっているのを見たら注意をしています。完全に浸透させるのは難しいですが、果敢に取り組む姿勢は引き続き伝えていきたいと考えています。
依頼には必ず応える姿勢を指導しているのですね。他に職員教育で意識していることはありますか?
最後まで自分でやり遂げさせることです。近年では誰かが業務に手を焼いている時、周囲がすぐに手を貸す傾向がありますが、それでは本人の成長につながりません。そのため、あえて様子を見る時間を作り、結果が出るまで自分で取り組んでもらうようにしています。
また、細かいマニュアル化もしません。各々が試行錯誤の中で自分なりのやり方を見つけ、責任を持って進めることを大切にしています。失敗や悔しさを経験しながら、独自の武器や戦い方を身につけてもらいたいのです。そういった実践が、会計業界で戦える「侍」のような存在を育てる鍵だと思っています。
士業を「侍」と例えるお話が印象的ですが、その意図について詳しく教えてください。
税理士などの士業の仕事は、組織化や仕組み化だけでは成立しない部分が多いと感じています。各々が独自の武器を持ち、それを駆使して現場で戦う必要があります。その意味で、「侍」のような独立心やある種“戦闘力”が求められるのだと思います。
私自身、侍をテーマにしたドラマや漫画が好きで、自分を重ねて見てしまうこともあります(笑)。戦いの中で傷ついたり、失敗したりする経験は、侍にとっても士業にとっても欠かせません。それを乗り越えた先に、本当の強さがあると思うのです。成長するためには、あえて厳しい場面に挑むことも必要だと考えています。


代表就任時の決意
築き上げた信頼の維持を最優先
代表に就任された時の心境について教えてください。
また先生ご自身のやり方を取り入れたりしたのでしょうか。
承継の話が出た当初は、中山雅人前代表から「好きなようにやればよい」とも言われていたため、自分流に変えていくつもりでした。しかし、すぐに方針を大きく変えることは、職員やお客様に大きなストレスや混乱を招くリスクがあります。ですので、これまで築き上げられた信頼や業務の流れを守ることが何よりも重要だと考えるようになり、中山前代表のやり方をしっかり継承することを決意しました。その結果、職員やクライアントの安心感につながり、スムーズな承継を実現することができました。
代表就任から2年が経ちますが、今も大きな変化はさせていません。今後徐々に変わっていく部分はあると思いますが、それは私一人によるものではなく、一緒にやってきた仲間たちと作り上げていくものだと思っています。
職員のモチベーションを維持するために意識していることはありますか?
正直なところ、モチベーションは各々が自分で管理するべきで、私が関与することではないと考えています。ですから、職員のモチベーションを上げるために話を聞いたり、何か取り計らったりといったことはしていません。もし仮に、職員側が私の対応を「寄り添ってくれている」と感じることがあったとしても、私自身は「寄り添おう」という意図を持って行動しているわけではありません。
私自身が楽しそうに仕事をしている姿や、業界の最前線に立って本気で取り組む姿を見せることで、彼らの刺激になればいいなとは思いますが、モチベーションが上がるかどうかは本人次第だと考えています。
それでは、職員教育における成功とはどのようなものと考えていますか?
仕事に主体的に取り組む職員の姿が私にとっての教育の成功です。
かつて職員から、「中山会計は自分に何を求めているのですか?」と聞かれることが何度かありました。私はこの質問が好きではなく、毎回「何も求めていない」と答えてきました。それは、「自分のやりたいことをやってほしい」というメッセージでもあります。やりたいことをやれるか、それで結果を出せるかは各々の努力や成長にかかっています。今いる職員は、「事務所に言われたから」ではなく、自分がやりたいことに取り組めているからこそ、勤め続けてくれているのだと思います。

主体的に働き、やりたいことに挑戦できる環境が整っているのですね。新卒採用は行っていますか?
新卒採用には非常に力を入れています。なぜなら若手の成長が持続的な発展に不可欠だからです。新卒職員が長く働き、経験を積むことで、所内の文化や価値観がしっかりと根付き、次世代のリーダーへと育っていきます。ありがたいことに、ほとんどの新卒職員が辞めずに成長してくれており、彼らがこれからどのように事務所を支えてくれるのか、とても楽しみにしています。今20代の職員が40代になった時、きっと中山会計はさらに成長し、組織としての一体感も高まっているだろうと感じます。その頃には私は引退しているかもしれませんが、それでも、そういった未来を想像するだけでワクワクします。
職員教育における今後の目標はありますか?
私としては、何よりも弊所を辞めてほしくないという思いがあります。そのため、多数を採用するよりも、入所してくれた人たちが長く働ける事務所を作ることに注力したいです。
具体的には、職員一人ひとりが掲げる「やりたいこと」を尊重し、それに向き合う組織を目指しています。私が何かを用意するのではなく、彼らが発案したことを実行するサポートをしていく、というスタンスです。実際、若い職員をリーダーとするプロジェクトがいくつも動いており、発案や企画する文化がしっかり根付いていると思います。
プロフィール |
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税理士法人中山会計 代表社員税理士社長 小嶋 純一
横浜国立大学卒業。現在税理士法人中山会計にて三代目代表社員税理士社長を務める。相談しやすさ№1 を体現する税理士として自社の経営の実践並びにお客様の経営のサポートを兼務。 M&Aスペシャリスト及びM&Aシニアエキスパートの資格を有し、事業承継の出口をサポートするコンサルティングを 18 年来推進。税理士ならではの組織再編支援も積極的に行っている。 中小零細企業のM&Aに特化。中小零細企業特有の課題を熟知しており教科書には載っていない勘所を武器に年間5-6件をコンスタントに成約している。 現在、日本経営管理協会北陸支会副支会長及び石川県支部支部長、日本M&A協会北陸支部副支部長、石川県サッカー協会監事を務める。北陸学院大学非常勤講師。 |