最先端DX化が目指すのは「効率経営」ではない!?
徹底的な製販分離が可能にする「一人あたり年間売上400万円戦略」とは? Vol.2

目黒雅和税理士事務所

目黒雅和 税理士・行政書士事務所 目黒 雅和

経理のクラウド化・DX化に大きな強みを持つ、目黒雅和税理士・行政書士事務所。 今回は最先端DX化を実現に導いた徹底した仕組み作りと人間的なコミュニケーションの共存、事務所の今後の展望について、代表の目黒雅和氏に話を聞いた。

さりげない工夫を大切に
計画的な仕組みづくりで完璧を目指す

独立の際に苦労された分、その後のシステム化は目黒先生の
「とことん追求する性格」も加わって細部まで徹底されたのですね。
バックヤードに関しては、デジタル化・効率化はすでに完成の域にある程度近づいているのではないでしょうか。

下の図表を見ていただくとわかりやすいと思いますが、MyKomonの「進捗管理表」機能で事務所内の月次業務を工程ごとに書き出したものです。これで所内の月次業務をすべて管理できるようになっています。さらに、毎月の源泉所得税集計、電子申告、納付完了確認などの給与業務は、この管理表とは別に切り出して管理しています。同様に、法人税の確定申告業務、所得税の確定申告業務、決算検討などについてもそれぞれの「進捗管理表」を作成し、管理者を選定して管理している状況です。

この月次業務の管理により、例えば前月分の資料が未着の場合、管理者から担当者に連絡がいき、顧問先に催促依頼をするという流れとなっています。担当者が対応した結果もこちらの表内に記載するように指導しているので、どのような理由で資料回収が遅れているかという点も把握しています。このように資料が未着の状況から、担当者の繁忙による連絡不足か、顧問先が繁忙による未対応かまで把握できるようなところまできました。ちょっとしたことかもしれませんが、こういうきめ細かい管理を私は大切にしています。革新的なシステムを利用しているわけでもないのですが、日々の漏れをなくすことを目指している感じでしょうか。

細部にわたって徹底してできる事務所は限られていますよね。
特に事務所が大きければ全員に徹底できずに運用を挫折してしまうことも多いと思います。
その点では、先生が一から仕組みづくりに携わったうえで、先頭に立って進めることができたからこそ上手くいったともいえるでしょうか。

私は「自分らしく」というのを常にモットーにしています。当然、税務会計はしっかりと行ったうえで、経営面まで首を突っ込んでサポートすることが好きなんです。そのうえで、経営者との信頼関係を深めていき、本当に困ったときに最初にご相談を頂ける関係を目指しています。ただ、そんな自分らしさに軸足を置きすぎると、所内管理がおろそかになってしまいます。そこを補うという点で、バックヤードを担う管理の必要性があると感じ、管理サポートチームを立ち上げました。その際、会計事務所は未経験ですが異業種で長く働いていた経験のあるパートの方々と一緒になって作り上げたことが大きいと思っています。

それと業務の仕組みづくりについては、タイミングが良かっただけだと思います。メインの会計システムであるマネーフォワード社が会社創立6、7年目くらいだったと思いますが、ユーザーを増やすため創業間もない税理士に対して廉価にサービス提供をしてくれていました。それが利用しやすい環境であったこととMykomonの「進捗管理表」機能をうまく活用できた結果、現在の業務フローが確立されたということです。

あとは、私は開業する際、営業活動をせずに家でずっと業務のフォルダ構成を考えていました。税理士である妻にも「開業前に何やっているの!?」と言われたことがありました。当初より業務効率やペーパーレス、在宅を視野に入れる事務所の仕組みづくりをイメージしていたので、所内での情報管理=フォルダ管理が肝になるだろうと思いました。特にフォルダは業務の流れに沿ったもので、かつファイル名も明瞭であることが大事なんです。今になって思えば、業務効率化は当時の狙い通りに進んでいるのかなと思います。

「デジタルありき」ではなく、大事にすべきものに注力するために考えた結果が、
デジタル化や効率化なのですね。

「自分らしく」事務所経営を行うために「デジタル化」という手段を用いています。「進捗管理表」の業務工程も大分細かい印象があると思いますが、経験上ここまでやれば必ずお客様に喜んで頂けるというレベル感で作りました。ただ、細かく決めたすべての項目を必ずチェックして欲しいのではなく、顧問先に合わせて強弱をつけている状況です。全部の工程を埋めるくらい手厚さを求める場合もあれば、そうではなく「この工程は端折ってもいいな」とシンプルになることもあり、そこは顧問先のカラーに合わせて柔軟に対応しています。また、会計事務所未経験者スタッフもいて、教育という点でも知識・経験のない人へ業務工程を示す道筋としては有益です。

運送業の顧問先が多く、物流業界では届け先との最後の接点を大切にするという考え方から「ラストワンマイル」という言葉が使われます。私もその言葉を意識しておりまして、会計事務所の「ラストワンマイル」、つまり最後に試算表や確定申告書を報告した時が大事だと思っています。単純な計算結果の報告にとどまらず、経営者の気持ちに寄り添い、経営上の課題等が改善されているかなども触れています。その場面で何を伝えられるかという意識は大事にしています。

「自分らしさ」を無理なく実現できる事務所づくり

経営に関して、一人当たりの売り上げ目標について教えてください。

会計事務所業界では、一人あたりの年間売上目標が1,000万円くらいで、だいたい400万円のお給料というのをよく耳にします。しかし弊所の場合はそういうモデルとは違って、パート勤務の主婦の方も含めたすべての社員数に応じて、一人あたり売上目標を400~500万円と置くイメージです。創業10年で20人規模くらいまでの事業計画をしていますが、仮に20人だとすると8,000万円~1億円、30人だとすると1.2~1.5億円くらいが目標値になってくると思います。私は売り上げ10億円をめざすとか、地域一番になりたいといった売上目標を掲げるつもりがありません。ただ、「自分らしさ」を大事に経営していければ結果的に売り上げが少しずつ増え、事務所の規模も大きくなるだろうと考えています。

将来的には拠点を増やしていくことも考えていますが、税理士法人化という方向ではなく独立したスタッフとアライアンスパートナーになってもらいながら合同事務所という方法も模索してもよいと思っています。在宅で地方勤務スタッフもいますので、そのスタッフの意思を尊重しながら柔軟に事務所を変容していくつもりです。やみくもに拡大路線ではなく、信頼のおけるスタッフと既存の顧問先へのサービスがきちんと行き届いている中で、社会に評価をしていただきながら成長していく事務所を目指しています。

一人当たり売上目標400~500万円という数字が出てきましたが、
実際の売り上げもおおよそそのくらいになっているのですか。

今期は全体で見ると近い数字になる見込みです。もちろん、税務担当の一人当たり売上を考えるとそれ以上でなければなりませんが、管理サポートも含めて考えるとそれに近い感じになります。業務委託の場合は個別に業務依頼するので異なる部分はありますが、基本的に管理スタッフは全顧問先に各担当部分では責任を持つという意味で、事務所と一蓮托生だと思っています。そのため、自分の仕事ではないといって無責任になるのではなく、困っていたらお互い様という精神で各スタッフがフォローに入れる組織を目指しています。この一人当たり売上目標400~500万円は私なりに考え抜いた基準ではありますが、全員が無理をすることなく、スタッフが自分らしく長く働ける環境を維持できるラインだと思います。今後はより効率化によりこの基準を高めていくつもりではあります。
なお、未経験者の方がこの考えは受け入れやすい傾向にある気がします。今の体制が確立できるまでは、この価値観を浸透させると退職者が出たりと不和が起きたりと大変な時期もありましたが、そのような経験から私自身が現場だけでなく経営にも向き合う必要があることも学びました。

スタッフの方のやる気アップにつながるように取り組まれていることはありますか。

スタッフは主婦パートが大半ですが、定期的に旬な野菜を関与先でもある生産者様から福利厚生として配付したりしています。今のシーズンですと千葉名産の落花生ですね。これは塩ゆですると最高で、皆さん喜んでくれています。また、主婦スタッフは夜の会食は基本的にNGなので、ランチ会やワインの試飲会を行ったりしています。試飲会は6月に初めて試みましたが、私の友人のソムリエに来てもらってワイワイやりました。日ごろオンラインで接することが多いせいか、リアルで会って美味しい食事やお酒を飲みながら会話が弾んだようです。あとは、私も健康面には気をつかわないといけない歳になりましたし、スタッフも同世代が多いので産業医にお願いしてスタッフの健康管理をお願いするようになりました。

また、業務で欠かせない情報共有のツールは様々な取り組みをしています。10時半に朝礼を行うのですが、その際に業務の進捗報告、所内ルール変更なども発表することがあり、「Notta」というクラウドツールでAIにて自動的に議事録を残しています。シフトの関係で朝礼に出られないスタッフは議事録に目を通して業務に入るなど、情報共有漏れを起こさないようにしています。
顧問先とのミーティングもオンラインが中心ですが、あえて一部ハイブリッド化も進めています。私は会議室で顧問先とリアル面談をしながら、裏側で担当者2名は在宅で会議に参加し、議事・ヒアリング・会計システムの編集を同時に行ったりと、効率な方法を模索しているところです。

運送業特化、士業同士の勉強会が
高付加価値の紹介案件につながる

運送業のお客様が増えてきていると伺ったのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

そこまで急激に伸びているわけではないのですが割と大きな割合を占めています。今まではありがたいことに「自分らしく」やってきたことが功を奏し、顧問先からのご紹介でやってくることができました。ただ、同時に「自分らしく」を貫くことで視野が狭くなっていくことも感じていました。

運送業の経営者の悩みを聞けば聞くほど、税務・財務では片づけられないほど許認可・労務が密接に絡み合う奥深い世界ということがわかりました。運送業に強い税理士を謳っている人も調べるとそんなに多くなかったこともあり、どうせなら得意分野にしてしまえと思い立ち、運送業に強い行政書士、社労士の勉強会に頭を下げて参加させてもらうことになりました。そこは、運送業の許認可申請を得意とする行政書士の先生方が中心なので、勉強内容が許認可目線となり税務顧問を中心としていた私にとってはすべてが新鮮でした。

一方で、勉強会で財務やキャッシュフローを学ぶ機会がないので講師をして欲しいと言われまして、講師の機会を頂いたところです。今レジュメの作成をしていますが、皆さんの反応が楽しみなところです。

経営面のサポートをしていると税務会計以外にも提案できることが多くあることに気づきます。融資や保険の提案などが分かりやすいと思いますが、我々の商品は税務会計だけでなくて良いのです。また、運送業の経験値が高まると、他では対応ができない深度ある相談にも乗ることができますし、許認可にかかわる問題で行政書士の先生にお願いしたい案件が出てくれば、その際、勉強会にいる「あの先生にお願いしよう」と仕事をお任せできるのです。そうすると、今度は逆にご紹介をいただけるような関係を作れると思っています。

運送業に特化することでの口コミ紹介、他士業との連携による紹介案件は、Web集客型の単価のように安売りする必要もなく、そして、経営サポートまで求められていることも多いので、そこは付加価値分を上乗せさせて頂くこともあります。

経営サポートまで含まれているとは言え、高単価の受注というのはすごいですね!

税務会計の範疇で行う場合には顧問料に内包した料金体系としていますが、経営サポートとして別業務として依頼される場合には、別途コンサル料をお願いすることになります。運送業の顧問先だけで現在40~45社ほどありますが、強みのある特化分野の顧問先を今後増やしていければ、スタッフのレベルも上がり高付加価値業務でも私以外でも対応ができていくようになりますし、何よりも行政書士・社労士のような連携している士業の皆さんにご紹介ができ、その先にご恩返しも見込めます。
年商売上2~10億円くらいの運送業の経営者の方々には「私らしく」がとても響くところでもあり、高単価であっても価値を見出していただけますので、今後はこの層を重点的に増やしていきたいと思っています。

一方で、運送業のような特化型という点で言いますと弁護士、司法書士、行政書士の先生など「士業の税務顧問」も少しずつ増えてきている状況です。士業の方々は忙しくて経理に手も回らずに日々の業務をこなすことに追われがちです。マネーフォワードクラウド会計で効率的に集計をすすめ、「私らしく」一緒に経営に携わらせていただくことでも喜ばれています。運送業と同様に特化をしてみて、今後の事業の柱にしていきたいと思っています。

今回は貴重なお話をありがとうございました。

プロフィール
目黒雅和 税理士・行政書士事務所 目黒 雅和

東京都内の小規模な会計事務所、大規模事務所に勤務し、さまざまな業務を経験。
2018年8月千葉県浦安市で開業。
一般的な税務会計から組織再編や経営者の相続・事業承継対策のほか、経営コンサルティング、行政への各種許認可申請手続など幅広くサポート。
MF会計を基盤とする業務効率化・クラウドツール活用の最先端事例として事務所見学会も実施。

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