「税理士ではない」からこそ描ける、会計事務所の新たな地平
未経験者採用・給与フルオープンに見る、地方発“プロフェッショナル集団”の組織論 Vol.1

アビーナリーグループ 代表
株式会社アビーナリーマネジメント 代表取締役
株式会社アビーナリーネクスト 代表取締役
齊藤 晴也
税務を起点に領域を広げる
医療分野に深く入り込む税理士グループの戦略
まずは、貴社グループの全体像と成り立ちについて教えてください。
我々の組織はグループ会社3社で構成されているのですが、グループ内に税理士法人があり、そこには代表社員を含め3名の税理士が在籍しています。
私自身は税理士資格を持っていないので、税理士法人の代表は有資格者が務めていますが、グループ全体の戦略の立案・推進は税理士と協力しながら私が行っているという構図です。
当初は、税理士法人の業務は税務中心でしたが、徐々にお客様であるドクターの開業支援や医療系コンサルティングといったニーズが増えてきました。
そのなかで、税理士法人という枠組みでは対応しきれないことも多くなったのです。そこで、株式会社アビーナリーマネジメントを設立し、従来の税務業務を超えた要望に応える受け皿として機能させてきました。

さらに専門特化された別会社も設立されていますね。
はい。業務を行っていく中で、医療の承継案件はもちろん、一般企業の事業承継や、業務拡大に伴うM&Aのお話をいただく機会が増えてきました。こうした案件は非常に専門性が高く、難しい業務になります。だからといって、「M&Aは専門外なので他社を紹介します」と言って、深く関わってきたお客様からフェードアウトしてしまうのは、私たちの目指す姿ではありません。そこで、事業承継やM&Aを専門に対応する「株式会社アビーナリーネクスト」を設立し、グループとして一気通貫でサポートできる体制を整えました。
今まで相談に乗っていた担当者が、そのまま窓口となり、必要に応じて社内の専門リソースやサポートを受けながらも、自分が主体となって最後までやり遂げる。覚えることは多くなり大変ですが、フロントに立つ人間が変わらずにクロスオーバーして全業務に従事できるよう、中で働くメンバーに対しては、会計、税務はもちろん、コンサルティングをはじめ事業承継やM&Aにも、すべてに関われる人材になってほしいと考えています。弊社では、この「ジェネラリスト」としての在り方を大切にしています。
齊藤代表ご自身のバックグラウンドについてお聞かせください。
前職も税理士法人に勤めていました。私は税理士資格を持っていなかったので、組織のトップではありませんでしたが、幹部として経営の一翼を担って働いていました。資格取得を志した時期もありましたが、私が勉強に時間を費やすよりも、自分の強みである実務や経営、マネジメントの部分でパフォーマンスを最大限発揮して、資格のある先生方に税務業務を担ってもらう形をとったほうが、組織全体の成長につながると思ったのです。
税理士事務所を辞めて起業したのは、「青天井で成長したい」という強い思いがあったからです。組織に属していると、どうしても役職や行動領域、エリアなどに制限が加えられます。私にとって働くことは最大の喜びであり、そこに制限がかかることを打開したくて起業しました。
創業から10年以上経過されていますが、特に注力されている分野はありますか?
月並みな表現になりますが、やはり税務会計の顧問契約を結ぶクライアントをしっかりと増やしていくことがベースにあります。ただ、私たちが得意としているのはコンサルティングの領域です。なかでも医療マーケットには最も力を入れていて、現在は仙台市医師会と業務提携を結んでいます。
医師会との提携は非常に強力ですね。どのような業務を行っているのですか?
クリニックの事業承継やM&A、新規開業支援などに注力しており、仙台エリアにおいては、この分野での経験や実績はトップ層にいるのではないかと自負しています。
医師会のような組織に入り込むのはハードルが高いイメージがあります。
どのように信頼を獲得されたのでしょうか?
現在の形になるまでには、12年かかりました。何か特別な魔法があったわけではありません。一言で言えば、「地味で、派手ではなく、誰もやりたがらない面倒くさい仕事」を一つひとつ丁寧に対応し続けた結果だと考えています。例えば、「顧問税理士は別にいるのだけれど、聞いてもわからないからちょっと教えてくれないか?」といった相談対応ですね。仙台市医師会の方と一緒にドクターのもとへ行き、相談に乗り、「すっきりしました、ありがとうございます」と言われて、お金を一銭ももらわずに帰ってくる。そんなボランティアのような仕事です。そうやって、実績を積み重ねていった結果、「相談は齊藤さんにしたい」という状況を作ることができました。
既存の顧問税理士がいらっしゃる中で、先生への相談ニーズが高まるのはなぜだと思われますか?
お客様が従来の顧問税理士に感じている「物足りなさ」や「ギャップ」を弊社が埋めることができているのだと思います。税理士業務の主な独占業務(税務相談・税務書類の作成・税務代理)に加え、弊社ではお客様のニーズに寄り添い、より踏み込んだサポートを提供することで信頼を得てきたと考えています。
定型業務で終わらせない
コンサル型事務所を支える人材育成の考え方
貴社の採用方針について教えてください。
基本的には、異業種からの未経験者をメイン対象にしています。というのも、業界経験者は、良くも悪くも「会計事務所の仕事はこういうものだ」という固定観念、先入観がありがちで、「決算書を作って、税務申告をして終わり」という枠の中で仕事を完結させてしまうことが多いからです。しかし、それではどうしても成長の限界があります。
実際、現在のスタッフの多くは、会計事務所などの実務経験がない未経験者です。業界経験者の採用はほぼゼロで、銀行などの金融機関出身者や、変わったところでは学校の先生など、全員が他業種からの転職組です。
未経験者の方が教育しやすいという話はよく聞きます。
私自身の話ですが、前職の会計事務所時代、あるお客様のために、まだ取引のない金融機関へ出向き、決算書を持って融資取引の開拓営業を行ったことがあります。これは本来、会計事務所の定型業務ではないので、もしかすると余計なお世話かもしれません。しかし、お客様のリスク管理を考えれば、銀行は1行だけでなく複数行と取引を持つべきです。お客様のためを本気で思えば、私として必然的な行動でした。当時、周囲からは「齊藤さんだけ自由に動けてうらやましい」と言われましたが、私からすれば「自由ほど責任の重いことはない」。定型業務をスピーディーかつコンパクトに終わらせて時間を作り、その時間を「お客様のために本当に必要なこと」に費やす。これこそが本来の仕事です。未経験者にはこの「業界の常識」がない分、最初から「お客様に喜ばれることなら何でもやる」というスタンスを受け入れやすく、結果として高付加価値な仕事ができるようになります。
採用において最も重視されているポイントはどこでしょうか?
やはりコミュニケーション能力ですね。面接では、その候補者が「弊社のクライアント(中小企業経営者)と会話している姿」をイメージできるかどうかを見ています。税務や会計の知識がなくても、会話のキャッチボールができるか、話し方の作法はどうか、ストライクゾーンにボールを投げられるか、といった点を重視しています。
私は書類選考を通過した方全員と、必ず1人あたり1時間しっかり面接を行うようにしています。採用倍率は80倍くらいなので、ほとんどの方はお断りすることになってしまうのですが、たとえ面接開始5秒で「あ、合わないな」とわかったとしても、必ず1時間は話をします。
それはなぜでしょうか?
私の面接におけるミッションは、「採用する・しないにかかわらず、この会社に入りたいと思ってもらうこと」だと考えているからです。つまり、アビーナリーのファンを作ることが目的なのです。仙台は狭い街です。不採用になった方が、将来どこでつながるかわかりません。新しいビジネスの局面で当社の名前が出たときに、「あそこは面接の対応が悪かった」と言われるのか、「面接は落ちたけど、すごく良い会社だった」と言われるのかでは雲泥の差があります。実際、エージェント経由で「アビーナリーが第一志望になった」というレポートが上がってくることもあり、それは非常に嬉しいですね。
長期的なスパンで、採用活動を広報活動の一部として考えられているのですね。
そうですね。弊社にとっても意義のある時間ですが、本人にとっても気づきのある時間にしてもらいたいと考えています。そのため、経歴やスキルの確認はもちろんですが、うまく答えられなかった質問に対して「なぜできなかったのか、自分で整理できていますか?」と深掘りし、その理由を一緒に共有したりもします。まるで人材エージェントのような動きですが、これも「人を育てる」という社是に通じているのかもしれません。かつては新規顧客開拓に8割の時間を使っていましたが、現在はその時間はほぼゼロになり、代わりに採用に時間を割いています。経営資源の配分を完全にシフトしました。
面接で必ず聞くことはありますか?
「仕事を通して、あなたはどう成長したいですか?」という質問です。これに対して、用意された優等生的な回答ではなく、自分の言葉でしっかりとビジョンを語れるかどうかが非常に重要です。我々が一緒に働きたいと思うのは、「仕事を通じてどんなキャリアプランを描き、どんな人物になりたいか」という絵を、自分自身の言葉で「白い画用紙」に描ける人です。自分の未来の絵を描けない人は、経営者の未来の絵も描けません。実務作業は1〜2年でできるようになるかもしれませんが、コンサルタントとして経営者に価値を提供し続けるには、自分自身の成長や未来に対しても強い意志を持っている必要がありますから。


印象に残っている採用のエピソードはありますか?
元小学校教員の男性を採用した時の話です。彼は当時27歳くらいで、教員としての評価も高く、仕事に不満があったわけではありませんでした。しかし面接で、「なぜ安定した公務員を辞めてまで?」と聞いた時の答えがとても印象的だったのです。彼は、「学校という限られた世界での評価ではなく、看板も資格もない状態で、自分自身を商品として評価される世界で勝負したい」と語りました。「商品(モノ)を売るのではなく、自分という人間そのものを商品に見立てて勝負できる仕事は、コンサルティングや会計の世界しかない」と、自分のキャリア転換の理由を体系立てて論理的に説明してくれました。このように、自分の人生を深く考え、覚悟を持って飛び込んでくる人材は、入社後の成長スピードが圧倒的に違います。実際、彼は今では大活躍しています。
この経験からわかったのですが、我々の仕事は「お客様に教える、導く」という要素が強いため、「学校の先生」は教育現場での経験が活きることもあり、非常に親和性が高いですね。
Vol.2では人材育成法と給与・業績フルオープンの経営について詳しくお伺いしました。
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