「税理士ではない」からこそ描ける、会計事務所の新たな地平
未経験者採用・給与フルオープンに見る、地方発“プロフェッショナル集団”の組織論 Vol.2

アビーナリーグループ 代表 齊藤 晴也

アビーナリーグループ 代表
株式会社アビーナリーマネジメント 代表取締役
株式会社アビーナリーネクスト 代表取締役
齊藤 晴也

AIやDXの進展により、会計事務所に求められる役割は大きく変化している。定型業務の効率化が進む一方で、事務所の価値は「誰が、どのような思想で組織を率いているのか」によって、より明確に分かれる時代になった。こうした環境下で、資格や肩書きにとらわれない組織づくりを掲げ、「税理士ではない」代表が率いるアビーナリーグループ。未経験者育成を前提とした人材戦略や、給与・業績のフルオープンといった独自の経営スタイルを通じて、将来的な事業拡大も視野に入れている。同社が貫く組織づくりの思想と、これからの会計事務所経営の在り方について、代表の齊藤氏にお話を伺った。

教えるのではなく気づかせる
現場体験でコンサル思考を身につける人材育成

具体的にどのような流れで未経験者を育成していくのでしょうか?

まず、採用後は新人一人に対して専属の「トレーナー(メンター)」を一人つけます。これは「誰がその新人の成長に責任を持つのか」を明確にするためです。入社後最初の1〜2か月は、基礎知識の習得期間です。会計、税務、関連する法律、そして会計ソフトの使い方など、実務に必要な知識をインプットしてもらいます。これに関しては、外部の研修プログラムやビデオ教材を活用し、体系立てられたカリキュラムを履修してもらいます。

基礎知識を学んだ後は、どのように実務に入っていくのですか?

ここからが我々の特徴的な部分ですが、基本的にはOJTです。トレーナーが現場に行く際に新人も一緒に同行し、実際の仕事の現場を見せながら仕事を覚えてもらいます。もちろん、単純な記帳業務などを切り分けて教えることもしますが、それよりも「仕事の動機づけ」を現場で行うことを重視しています。


「仕事の動機づけ」とは、具体的にどのようなことでしょうか?

我々の仕事が、お客様にとってどれほど重要なものかを感じてもらうことです。

例えば、経営者の方から深く頼られているシーンを目の当たりにすること。「この重要な局面について、齊藤さんはどう思いますか?」と相談される場面や、我々が作成した資料や切り口によって経営者の目の色が変わり、「なるほど、そういう見方があったか」と感謝される瞬間を共有するのです。単に「決算書を作りました」ではなく、我々が得意とする「収益分析」などを通じて、なぜ会社が伸びているのか、あるいはなぜ課題が解決しないのかを、数字の組み合わせやトレンド分析で解き明かしていく。

その説明の仕方や資料の作り方ひとつで、相手へのインパクトが劇的に変わるということを、理屈ではなく「体験」として見せます。「自分もいつかあんな風に頼られる存在になりたい」という強烈なモチベーションを最初に持ってもらうことが、その後の成長スピードに大きく左右します。

トレーナーとなる方は、どのくらいのキャリアの方が多いのですか?

キャリア10年以上のベテランもいますが、平均すると6〜7年目の社員が多いですね。年齢差でいうと5〜6歳上くらいの先輩が直属の指導役になるイメージです。また、専属トレーナーだけに任せきりにするのではなく、3割程度は私やマネージャークラスに同行させます。トレーナーにも「教え方の癖」や「得意な顧客層」がありますから、それを補完する意味でも、キャリア20年クラスの私たちが違う景色を見せるようにしています。

 同行中、新人の方はどのような動きを求められるのでしょうか? 隣でメモを取るような形ですか?

もちろん記録は取ってもらいます。ただ、私の場合は少し意地悪かもしれませんが(笑)、聞かれなければあえて指示を出しません。例えば、お客様のところへ向かう車中などで、いきなり質問を投げかけます。「今日会う社長のことだけど、会社のホームページは見てきた?」「前期の業績はどうだった?」「今の課題は何だと思う?」と。これを聞くと、ドキッとする新人もいます。中には下調べをせずに同行してしまう社員もゼロではありません。そこで「これから経営者に会うのに、相手のことを何も調べずに臨むのはどうなんだろう?」と自分自身で気づかせます。これが教育のスタートです。

最初から「調べておけ」と指示するのではなく、気づかせるのですね。

そうです。我々の仕事は「無形商材」であり、決まった形がありません。極端な話、お客様に興味を持たず、一般的な知識だけで体裁を整えて仕事をやり過ごすこともできてしまいます。しかし、それではプロフェッショナルとは言えません。「コンサルティングを行う会計事務所の人間として、どこまで相手に興味を持ち、どこまで準備をして臨むべきか」というスタンスの部分は、失敗や恥ずかしさを通じて自ら気づいてもらうことが一番の勉強になります。

資料作成スキルなどはどのように磨いていくのでしょうか?

資料作成において重要なのは「PowerPointで綺麗に作ること」ではありません。お客様からの相談に対して、可視化できる答えを即座に提示できるかどうかが勝負です。Excelで数字を羅列しただけの表でも、「社長が悩んでいるのはA案ですが、数字で比較すると、B案の方がリスクは低く利益も出ます」ということが一目でわかれば、それで十分なのです。高額な報酬をいただいて行うプレゼンなら作り込みますが、日常のコンサルティングでは、その場ですぐに「数字に落とし込んで判断材料を提供する」スピードと的確さが求められます。この「どんな様式でアウトプットすべきか」の判断力も、日々の鍛錬で差がつきます。

その判断力やセンスは、どうやって養うのですか?

ここで生きてくるのが、先ほども触れた「同行時の車中の会話」です。仕事の移動は車メインになるので、行き帰りの車内は、実は最高の会議室なのです。「さっきの社長の話、どう思った?」「あの発言の裏にはこういう意図があったんじゃないか?」とディスカッションし、「じゃあ次回は、その懸念を払拭するために、こういう切り口の比較資料を持っていったら喜ばれるんじゃないか」と作戦を立てます。誰かに指示されて作るのではなく、このラリーを通じて「次の一手」を自分で考え、次回訪問までのスケジュールを自分で組む。この繰り返しが、思考力と提案力を養っていきます。

独り立ちするまでには、どのくらいの期間を想定されていますか?

個人差はありますが、一人でお客様を担当できるようになるまでは、大体2年から3年を見ています。育成期間としては長いと感じられるかもしれませんが、中には1年くらいで「一人で行かせてください」と手を挙げる積極的なスタッフもいます。実は、そう言ってくるのを待っている部分もあります。上司と一緒にいると、お客様はどうしても上司の方を見て話します。たとえ隣に新人がいても、目線が来ない。これは新人本人にとっては非常に悔しいし、もどかしい経験です。「自分を見てもらいたい」「自分で主導権を持って話したい」という欲求が芽生えてくればしめたものです。多少の失敗があっても、一人で矢面に立ってプレッシャーの中で仕事をすることが、成長を加速させる一番の要因になりますから。


給与も業績もすべて公開
フルオープン経営が生む納得感と自走する組織

貴社の大きな特徴の一つに「給与のフルオープン」があります。
これにはどのような狙いがあるのでしょうか?

きっかけは前職時代、私だけが年俸制で、他の社員と給与体系が違ったことへの違和感から始まりました。独立して会社を作る際、「隠すことにメリットはない」と考え、全員の給与を公開することにしました。さらに言えば、会社の試算表(財務状況)も全てフルオープンにしています。社内の共有フォルダを見れば、誰がいくらもらっているか、私の役員報酬も含めて全員分がわかるようになっています。また、会社の月次試算表も全員が見られる状態にしており、会社の業績、収支、人件費の総額まで全てガラス張りです。

社員の方々の反応や、組織への効果はいかがですか?

非常にポジティブに機能しています。誰がどのくらいのレベルの仕事をしていて、いくら貰っているかが可視化されているので、「あの人はあのレベルだからこの金額なんだ」と納得感がありますし、「自分もあそこまで行けばこれくらい貰える」という明確な目標になります。また、変な噂話や詮索が生まれません。社長である私が会社の数字も全てさらけ出しているので、「なぜ給与が上がらないんだ」といった不満が出ることもありません。「利益がこれだけだから、分配はこのくらい」というのが数字として見えていますから。まさに「正論をぶちまけて経営している」状態です。嘘がないので、私としても非常に経営がやりやすいですね。
それもあって、コンサル部門のスタッフが自分たちの賞与の一部をバックオフィスのスタッフに配分してほしいと申し出たこともありました。インセンティブは本来プレイヤー(コンサルタント)のものですが、彼らから「自分たちが稼げるのはバックオフィスが支えてくれているから、その分を配分してほしい」という発案があったのです。会社が強制したわけではなく、社員自らが考えて行動してくれたことが嬉しかったですね。これにより、部門間の感謝の循環が生まれ、関係性がより強固になりました。

給与額はどのように決定されているのですか?

基本的にはマネージャーが部下の評価を行い、昇給額を決めて上げてきます。私はそれに判を押すだけです。特徴的なのは、実力よりも「少し多め」に払っているという点です。期待値を込めた「先払い」の感覚ですね。社員も「自分の実力以上に貰っているな」という感覚があるはずなので、それが「もっと頑張らなければ」という健全なプレッシャーとモチベーションになっています。もちろん、マネージャーが提示してきた昇給額が、その部門の収益構造と見合っていない場合は厳しく指摘します。「これだけ上げるなら、どういうマネジメントをして、どう収益を上げるつもりなのか」と。そこはシビアに見ています。

オフィス環境についても拝見しましたが、
カフェが併設されていたりして、非常にオシャレですね。

内装の発案の9割は私です。会計事務所らしくないオフィスかつ、自分の職場を家族に見せたくなるオフィスを目指して、設計会社に形にしてもらいました。改装の目的の一つは、働くスタッフに「プライド」を持ってほしいからです。お父さんが子供や奥さんに「いつもここで働いているんだよ」と自慢できるような環境であれば、仕事へのモチベーションも上がります。もう一つは、対外的なメッセージです。弊社のクライアントは意識が高く、明確な目標意識と高い向上心をお持ちです。弊社では、そうした皆様の課題解決と成長を最大化するための最適なソリューションを提供しており、いただく顧問料も相場より高めに設定させていただく場合があります。そういったお客様をお迎えするのにふさわしい空間、我々が目指すベクトルを示すための空間として、オフィスを作り込んでいます。


「スーツのフルオーダー」という制度も拝見しました。これも珍しいですね。

はい。以前から付き合いのあるテーラーさんにお願いして、スタッフがスーツを作る際に会社で利用できるようにしています。基本は各人の負担ですが、若いスタッフには安くしてもらうよう交渉したりもしています。これも「身だしなみ」への教育の一環です。稼ぎがまだ少なくても、それなりのスーツをビシッと着て仕事をすることの重要性を、若いうちから覚えてほしいという思いがあります。最初は私だけが作っていましたが、「私たちも作りたい」という声が上がり、制度化しました。


AI時代こそFace to Face
東北の強みを武器に東京へ挑む理由

今後の展望についてお聞かせください。

中長期計画として、2030年には組織を50名規模にしたいと考えています。これは単に人数を増やしたいわけではなく、我々が描く質の高い仕事を網羅的に提供し、組織として上昇していくために必要な最低ラインの規模感が50名だと捉えているからです。現在、グループ全体で22名ですので、今後4〜5年で倍増させる必要があり、かなりのスピード感を持って採用と育成を進めていかなければなりません。


東京への拠点展開なども計画されていますか。

5年、長くても7年以内には東京進出を果たしたいです。東北には、ドライではなく、長く付き合う「人情」という素晴らしい文化があります。しかし、それに甘えてしまうと、スキルや感度が鈍化してしまうリスクもあります。東京の情報スピード、特にドクターマーケットなどにおける情報の質は、地方とは桁違いです。東京で5年前に流行った手法が、ようやく今、地方に入ってくるようなタイムラグがあります。我々のお客様である経営者の中には、東京の水準で物事を考えている方も多くいらっしゃいます。そうした方々と対等に渡り合い、最新のタックスプランニングや商品を提供し続けるには、我々自身が東京の風を浴び、最前線の荒波に揉まれる必要があります。また、リクルートの面でも、東京に拠点を持ち、優秀な人材にアクセスできる環境を作ることは不可欠だと感じています。


東京に拠点を構えた場合、御社の強みはどのように活かせるとお考えですか。

東京は効率化が進んでおり、対面せずに郵送やメールで済ませることも多いと聞きます。だからこそ、我々が大切にしている「Face to Face」の泥臭い対応、人間味のある関わり方は、逆に差別化になると考えています。「わざわざ会って話を聞いてくれる」「そこまでやってくれる」というアナログな価値は、AIやDXが進む時代だからこそ、より一層輝くはずです。東北で培った「人を大切にする心」と、東京で得る「最先端の知見」。この二つを融合させながら、2030年に向けて、より高付加価値なサービスを提供できる集団へと成長していきたいと考えています。

プロフィール
アビーナリーグループ 代表
株式会社アビーナリーマネジメント 代表取締役
株式会社アビーナリーネクスト 代表取締役
齊藤 晴也
株式会社アビーナリーマネジメント、税理士法人アビーナリーマネジメント、株式会社アビーナリーネクストを統括するアビーナリーグループの代表として、税務会計を基軸に多様な経営コンサルティングサービスを提供。企業の成長支援、医業経営・医院開業支援、相続、そして金融支援コンサルティングなど、幅広いサービスを提供し、これらの分野で豊富な実績を誇る。
宮城県内の税理士法人で17年間勤務し、その経験を活かして2014年に株式会社アビーナリーマネジメントを設立。翌2015年には税理士法人アビーナリーマネジメントを立ち上げ、医業や一般法人のコンサルティングにおいて、会計データに基づいた生命保険提案など、理論的なアプローチを実践。
事業承継ニーズの高まりと各方面からの強い要請に応え、2020年には株式会社アビーナリーネクストを設立。M&A支援機関として登録されており、事業承継コンサルティングを中心にM&Aも手掛け、顧客企業の未来を支援している。

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