中小企業の採用成功法則2:媒体選びから始める採用活動の落とし穴

人事の扉株式会社 代表取締役
桜井 透
はじめに
多くの企業が現在、「採用コストの高騰」と「採用目標の未達」という深刻な課題に直面しています。その打開策として注力されがちなのが、「どの採用媒体ならうまくいくか?」という“媒体選び”です。
しかし、本当に重要なのはそこではありません。むしろ、媒体選定から始める採用プロセスそのものを見直すことが、採用成功への最短ルートなのです。
本稿では、「入社後の定着・活躍」というゴールから逆算し、採用プロセスを“後ろから”設計するという新しいアプローチを提案します。この視点を持つことで、採用戦略全体を最適化し、コスト削減と成果の最大化が可能になります。
採用プロセスの見落としがちな罠
多くの企業は、次のような流れで採用計画を立てています。
たとえば、3年後に10名の定着人材を確保したいと考えた場合──
「3年以内の離職率が30%なら、15名採用しよう」
「内定承諾率が50%なら、30名に内定を出そう」
「最終面接の合格率が70%なら、43名を残そう」
「1次選考の合格率が70%なら、62名に受験してもらおう」
「受験率が50%なら、エントリーは124名必要」
こうして、「エントリー124名」がKPIになり、その数を集めるための“媒体選び”が最優先課題になるのです。
しかし現在、中小企業における応募単価は年々上昇しており、こうした手法を続ける限り、コストばかりが増え、成果が伴わないリスクが高まります。
“後ろから”見直す採用プロセス改善アプローチ
採用成功率を高め、かつコストを抑えるには、プロセスを後ろから逆算して設計することが有効です。
たとえば、離職率を30%から10%に改善できれば、必要なエントリー数は124名から100名にまで減少します。
プロセス | 現状(離職率30%) | 改善後(離職率10%) |
3年後の定着人材 | 10名 | 10名 |
入社人数 | 10 ÷ 0.7 ≒ 15名 | 10 ÷ 0.9 ≒ 12名 |
内定者数 | 15 ÷ 0.5 = 30名 | 12 ÷ 0.5 = 24名 |
最終面接受験者数 | 30 ÷ 0.7 ≒ 43名 | 24 ÷ 0.7 ≒ 35名 |
1次選考受験者数 | 43 ÷ 0.7 ≒ 62名 | 35 ÷ 0.7 = 50名 |
エントリー数 | 62 ÷ 0.5 = 124名 | 50 ÷ 0.5 = 100名 |
さらに、内定承諾率と受験率を80%に改善できれば、必要なエントリーはわずか40名になります。
項目 | 現状(離職率30% 承諾率50%/受験率50%) | 改善後(離職率10% 承諾率/受験率80%) |
3年後の定着人材 | 10名 | 10名 |
入社人数 | 10 ÷ 0.7 ≒ 15名 | 10 ÷ 0.9 ≒ 12名 |
内定者数 | 15 ÷ 0.5 = 30名 | 12 ÷ 0.8 = 15名 |
最終面接受験者数 | 30 ÷ 0.7 ≒ 43名 | 15 ÷ 0.7 ≒ 22名 |
必要な1次選考受験者数 | 43 ÷ 0.7 ≒ 62名 | 22 ÷ 0.7 ≒ 32名 |
必要なエントリー数 | 62 ÷ 0.5 = 124名 | 32 ÷ 0.8 = 40名 |
エントリーが40名で済むなら、有料媒体に頼らずとも実現可能な数値です。
たとえば、ハローワーク、無料求人検索サイト(求人ボックス、エンゲージ等 ※indeedの無課金は難易度高め)、リファラル採用、アルムナイ採用、自治体主催の説明会などを活用することで、十分な応募を集められる可能性があります。
このように、「エントリー数」ではなく、「各プロセスの通過率」にKPIを置くべきなのです。
セールストークに惑わされない
求人媒体に掲載すると、営業電話やキャンペーン提案が頻繁に届きます。しかし、プロセス改善が伴わないまま媒体に費用を投じても、十分な効果は得られません。
媒体はアクセスを集める手段にすぎず、受け皿である採用プロセスが整っていなければ、せっかくのアクセスも無駄になってしまいます。
つまり、媒体の効果を最大限に活かすには、先にプロセスを改善する必要があるのです。
採用活動は「出口」から設計する
たとえば──
• 定着率の向上
• 面接での伝え方の改善
• 求職者目線の情報設計(求人コピー)
こうした「出口=定着・活躍」から各フェーズを見直すことで、自社が伝えるべきリアルな魅力や、適切なコミュニケーション手段が明確になります。
この戦略が定まって初めて、「どの媒体で」「どのように」アプローチするかが判断できるのです。
媒体(求人サイト、ダイレクトリクルーティング、リファラル、SNS、エージェントなど)の選定は、採用戦略の最終ステップであり、それ以前のプロセス最適化があってこそ、効果を最大限に引き出せます。
結論
採用コストを抑え、採用目標を達成するには、「媒体選び」から始めるのではなく、「定着・活躍」から逆算する視点が不可欠です。
• 内定辞退の防止
• 面接の質の向上
• 採用情報の魅力づけ
これら各プロセスを見直すことで、有料媒体の費用だけでなく、面接や選考にかかる間接的なコストも削減できます。
つまり、採用活動は“入口”からではなく、“出口”から始めるべきなのです。
この視点の転換こそが、中小企業が採用競争を勝ち抜くための確実な一歩です。

桜井 透
人事の扉株式会社 代表取締役
新卒から20年間、人材・採用業界に従事し、地方の中小企業700社以上の採用を支援。「母集団いらない」「志望動機を聞かない」「エントリーシート廃止」など、大手就活ナビや大手企業が提唱する成功セオリーを否定し、地方の中小企業独自の採用戦略と手法を構築。採用の本質と最新トレンドを組み合わせ、最適な解決策を提案し採用成功をサポート。新卒・中途・アルバイト・パートの採用支援実績あり。自治体、商工会議所などが主催する300回以上のセミナーを通じて、中小企業が即実践できる採用成功事例やノウハウを提供している。