契約書面のタイトルによる誤解

行政書士大森法務事務所 ビジネス法務コーディネーター®
大森 靖之

(2024/5/7)

はじめに

ビジネスシーンにおいて目にすることの多い契約書面。
「契約」は、「相手との約束事」があれば成立します。この約束事が文字起こしされたものが契約書面で、そのタイトルは自由に決めることができます。

その代表格が、取引基本契約書、業務委託契約書、ライセンス契約書といった「○○契約書」というタイトルになります。その他にも、「覚書」をはじめとして、「合意書」、「協定書」、「誓約書」「念書」…と様々なタイトルがあります。ビジネス契約書専門の行政書士として中小・ベンチャー企業の方々と接していますと、上記のように契約書面のタイトルがバラエティに富んでいることによる誤解が以下の2点あるように感じています。

  1. 「契約書>覚書」といった上下関係がある(覚書は契約書よりも法的な効力が弱い)という誤解
  2. 「覚書」「協定書」「念書」といったタイトルにすれば契約書ではないので、紙媒体で契約書面を作成する際には、印紙を貼らなくてよいという誤解

 以下、それぞれについて簡単に解説していきます。

契約書面のタイトルの付け方

契約書面のタイトルの付け方について、ルールのようなものはありません。
例えば、「覚書」は、契約書面に書かれた内容が、元々の契約(原契約)の一部分の変更の場合や、比較的簡易な合意である場合に付されるタイトルです(実務的にはA4用紙1枚程度に収まるボリュームの時に「覚書」というタイトルが付されるケースが多いように見受けられます。

また、契約書のように当事者双方が署名(または記名)押印するのではなく、当事者の一方だけが「相手との約束事」について宣言または確認するような内容を記載し、署名(または記名)押印して、相手に差し出す場合には、「誓約書」「念書」といったタイトルが付されることもあります。

最終的には、契約書面に記載されている内容・ボリューム、相手との関係性等から鑑み、ケースバイケースでタイトルを検討していくこととなります。

「契約書」、「覚書」、「念書」などに上下関係はない

ここで、「相手との約束事」が記載された書面に「覚書は契約書よりも法的な効力が弱い(契約書>覚書)」といったような上下関係はありません。

確かに、一見「覚書」とあると「契約書」というタイトルに比べ、軽そうなイメージがありますが、実際はそうではありません。この軽そうなイメージを逆手にとって、簡単に署名(記名)押印してもらえるよう、意図的に「覚書」などの契約書以外のタイトルにしているケースも実務上はしばしば見受けられます。

タイトルや先入観で判断せず、「中身をよく読んでよく精査してから署名(記名)押印する」という姿勢が何より重要となってきます。

印紙貼付の要否の判断は契約書面の内容で判断

国税庁発行の『印紙税の手引(令和5年5月)』では、印紙税の課税の対象となる「契約書」について、以下の通り定義されています。

契約書…契約証書、協定書、約定書、覚書その他名称のいかんを問わず、契約の当事者の間において、契約(その予約を含みます。)の成立、更改、内容の変更や補充の事実(以下、これらを「契約の成立等」といいます。)を証明する目的で作成される文書をいいます。
(中略)
なお、念書、請書など契約の当事者の一方のみが作成する文書や契約の当事者の全部あるいは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解や商慣習に基づき契約の成立等を証明する目的で作成されるものも契約書に含まれます。

こちらの定義をご参照いただくと、冒頭で申し上げた、「『覚書』『協定書』『念書』といったタイトルにすれば契約書ではないので、紙媒体で契約書面を作成する際には、印紙を貼らなくてよい」というのは単なる誤解であることがよくお分かりになるかと思われます。

さいごに

契約書面は一度取り交わすと相手との関係性の中で長く影響を及ぼします。タイトルや先入観で判断せず、契約条件と体裁を整えてから、署名(記名)押印する業務フローを確立していくことがのぞまれます。

【参考文献】
『契約書式実務全書1(第3版)』大村多聞、佐瀬正俊、良永和隆 編(ぎょうせい)
『印紙税の手引(令和5年5月)』国税庁

大森 靖之

行政書士大森法務事務所 ビジネス法務コーディネーター®
法学部卒業後、電機メーカー(東証一部上場)入社、法務部配属。 11年間にわたり月間100件以上の契約書作成、審査の実務にたずさわった経験を持つ。 また、株主総会や取締役会、従業員持株会の運営、BCP構築、ISOシリーズ認証更新プロジェクトリーダー等を務め、法務分野での社内のエキスパートとなる。 2013年より行政書士として独立。

企業から個人まで幅広く契約書の作成、審査のサポートを行いながら、複数の企業の顧問に就任し、契約法務を中心に経営のアドバイスを行っている。 また、ビジネス法務、コンプライアンス、契約書の書き方に関する企業研修や商工会議所等の公的支援機関におけるセミナー講演活動も精力的に行っており、 企業実務をベースにした専門的観点からの講義とワークショップは「すぐに使える現場知識」「法務に対する新たな気づきを与える」として多くの受講者から高い評価を得ている。

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