「ザイム真理教」の衝撃~税務を仕事とする我々が取るべき対応とは~

近年、「ザイム真理教」という言葉がメディアやSNSで注目を集めています。財務省を揶揄した言葉ですが、どのような意味が含まれているのでしょうか。

この言葉を広めたのは、経済アナリストの森永卓郎氏です。氏は、その著書『ザイム真理教 それは信者8000万人の巨大カルト』で「財務省は財政均衡を絶対視し、国民の負担を重視するあまり経済成長を軽視している」と批判しました。

本記事では、「ザイム真理教」という言葉の意味や背景、財務省の組織構造や政策がなぜ批判を受けるのかを詳しく解説し、税務に携わる者はどのように対応すべきかを考えます。

目次

ザイム真理教とはなにか

引用:ザイム真理教 それは信者8000万人の巨大カルト

「ザイム真理教」とは、財務省の財政政策や税制運営が、まるで宗教の教義のように絶対視されている現象を揶揄したものです。

ザイム真理教の「信者」は政治家をはじめマスコミや多くの国民です。「信者」は財務省が吹聴する考え方を信じ込んでしまっており、自分たちの得にならない政策にもあまり反論を唱えてこなかったのです。

財務省という役所は予算を作成し、各省庁の財布を握る立場です。それゆえ財務省の方針に対し他の省庁はひれ伏して付き従い、時の政権や野党の政治家も耳元で財政再建の重要さと増税の必要性を説かれて信じ込むという状況が続いているといいます。

景気が減速する側面では消費を喚起しなければならず、税負担を軽くするのが財政政策のセオリーです。ところが財務省は景気回復より自分たちが管理する財政収支のバランスを大事にしました。

そして膨れ上がった国債発行残高を何とかしようとするあまり、消費を拡大すべき局面で真逆の消費税増税を推し進めるために政治を動かすあらゆる動きをとりました。これこそが、30年の長きにわたりに日本の景気を低迷した原因だと経済評論家や一部政党からも声が上がっています。

ところが、多くの人はその説に耳を貸す様子が全く見られません。「財政赤字のつけを子供たちに押し付けられない」、「このままでは日本は破綻する」といった言説を信じているのです。

財務省が40年間布教を続けてきた「財政均衡主義」という教義が、(中略)深く浸透してしまったためだと考えている。国民全体が財務省に洗脳されてしまったのだ。

(ザイム真理教 それは信者8000万人の巨大カルト まえがき6Pより引用)

国会議員もマスコミも国民にも自説が最も正しいと信じ込ませ、すべてを排除しておしすすめることになってしまっている姿は、まさに某カルト教団に似ているとし、その名をもじった「ザイム真理教」と呼んでいるのです。

著者・森永卓郎氏の経歴

森永卓郎氏は、経済アナリストとして広く知られ、数多くの著書を執筆しています。東京大学経済学部を卒業後、日本専売公社(現・日本たばこ産業株式会社)に入社し、その後経済企画庁総合計画局や三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)の研究員などを歴任しました。2006年以降、獨協大学経済学部教授を務めています。

本記事で取り上げている『ザイム真理教 それは信者8000万人の巨大カルト』は、2023年5月に三五館シンシャから発行されました。

発売から2週間で5刷、3万1000部を突破し、その後も増刷を重ね、18刷で11万7000部に達しています。一部報道によれば、最終的な発行部数は19万部を超えたといいます。

三五館シンシャは個人でやっている出版社です。森永氏が大手出版社に持ち込んだところこのようなテーマの本は出せないと断られた、という話があとがきに出ています。

財務省という役所について

財務省は、日本の財政と税制を統括する官庁であり、予算の編成、税制の企画、国債管理、国際金融政策の調整、税務行政の監督など、広範な権限を持つ強大な組織です。その影響力は極めて大きく、政府の財政政策を実質的に決定する立場にあるため、「霞が関最強の官庁」とも称されます。

ここでは、財務省の主要な組織とその役割について説明します。

財務省の機構

財務省は、本省と外局とに分かれます。本省の中心は内部部局と呼ばれ、それは次の6つの主要な局によって構成されています。外局は国税庁の機構によって構成されています。

主計局

主計局は国家予算の編成と管理を担当する部門で、各省庁が提出する予算要求を精査し、財源の配分を決定します。

主税局

主税局は税制全般の企画・立案を担当する部門で、どのような税をどれくらいの税率で課すのかを決める役割を担います。

理財局

理財局は国債の発行・管理や財政投融資を担当する部門で、国の資金調達を担っています。

国際局

国際局は国際金融政策や通貨政策を担当する部門で、主に為替市場の安定、国際通貨基金(IMF)や世界銀行との連携、外国政府との経済交渉を行います。

関税局

関税局は、輸出入に関わる関税政策の立案・実施を担当する部門です。特に、貿易摩擦の調整や関税率の設定、不正輸出入の取り締まりを行う役割を担っています。

大臣官房

大臣官房は、財務省全体の管理・運営を担う部門です。人事、総務、広報、情報システム、法令整備などを担当し、各局の調整役も果たします。

国税庁

国税庁は財務省の外局であり、国税の徴収・管理、税務調査、納税指導を担当する機関です。国税庁の組織はおおまかにわけると以下のような構成になります。

  • 本庁(税務行政全般の方針を策定:長官官房・課税部・徴収部・調査査察部)
  • 国税局(全国11局と1所、524署の税務署を管轄)
  • 税務大学校・国税不服審判所

国税庁は実質的には財務省の統制下にあるといえます。また、税務調査を通じて企業や個人の税務状況をチェックする権限を持ち、その影響力は非常に大きいといえます。

このように財務省の官僚たちは国の命運を握る重要な仕事をしており、関係者を従属関係に置きがちです。それゆえ弊害も起こります。

ずっとまわりからチヤホヤされて、自分の一言で、思い通りに人が動く経験を重ねていくと、やがて人間は、自分が全知全能の神であると勘違いしてしまう。そこにザイム真理教の源流があるのだ。

(ザイム真理教 それは信者8000万人の巨大カルト 第1章ザイム真理教の誕生23Pより引用)

森永卓郎氏の主張とは

森永卓郎氏は、財務省が推し進める財政均衡至上主義を強く批判し、日本経済の成長を阻害していると主張しています。

森永氏によると、財務省は税収増=増税によるものという発想に固執し、景気を拡大させることで税収を増やすという視点が欠如しているというのです。歴史的に見ても、消費税を増税した後には景気の低迷や実質賃金の低下が続き、結果的に国民の負担が増しているにもかかわらず、財務省は増税方針を改めることなく推進し続けていると批判しています。

また、財務省が公表する「日本の財政危機」論についても疑問を呈しています。政府の資産と負債のバランスを無視し、負債だけを強調し、財政再建の必要性を過度に煽っていると指摘しています。

亡くなった安倍晋三元首相は、『安倍晋三回顧録』の中で次のように語っていたことが書籍中に出てきます。これが奇しくも森永氏の主張と一致しています。

デフレをまだ脱却できていないのに、消費税を上げたら一気に景気が冷え込んでしまう。だから何とか増税を回避したかった。しかし予算編成を担う財務省の力は強大です。彼らは自分たちの意向に従わない政権を平気で倒しに来ますから。

(ザイム真理教 それは信者8000万人の巨大カルト 第4章アベノミクスはなぜ失敗したのか105Pより引用)

税務を仕事とする我々の持つべき視点

「ザイム真理教」という言葉の考え方を知ったうえで、税務関係の仕事をするものや税務関係者はどのような視点を持って日々の業務に臨むべきなのか考えてみましょう。

納税者にとって最善の選択肢を提供する

税務関係の仕事をする者は、顧客や会社の適切な納税を支援するだけでなく、可能な範囲で税負担を抑えるなど、成長の支援も含まれると考えられます。そのためには、税法の中で認められている選択肢を最大限に活用する視点が重要です。

税務調査においても、財務省や国税庁の方針に盲従することなく、納税者の正当な権利を守る姿勢が重要です。税務調査官が指摘する内容がすべて正しいとは限らず、税法の解釈に幅がある場合には、納税者側としての正当な主張も必要です。

公権力と適切な距離を保つ

財務省や国税庁の影響力は非常に大きく、税務関係の業務においては脅威の対象です。税法はどのように判断すべきかグレーな部分が多く、強大な権力を持つ税務署の思惑でどうにでもなります。

しかし、税務関係の仕事をする人が公権力を恐れ、過度に従うと、時として納税者の利益よりも財務省や国税庁の意向を優先してしまうかもしれません。

忖度から財務省や国税庁の指導に従い過ぎ、本来であれば適用可能な節税策を顧客に提案しない、といったケースが考えられます。税務関係の仕事をするものは公正な立場を維持しつつも、納税者の権利を最大限に守る姿勢を貫くことが重要です。

まとめ

財務省の財政政策が宗教のように絶対視される現象を揶揄した「ザイム真理教」という言葉は、税務を仕事とする我々にとっても無視できない視点を提供してきました。

税務の実務において、税務当局の方針は財務省の方針と深く結びついています。そのため、これを理解した上で、一つの指針として参考にしつつも、必要に応じて冷静に判断することが大切です。

公権力と適切な距離を保ちながら、柔軟かつ公平な視点を持つことが、今後の税務実務においてより重要になってくるでしょう。

税理士.ch 編集部

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