税制改正とは何か?いつ発表されるのか、その流れをわかりやすく解説

税制改正とは、日本の税制を、経済社会の変化に柔軟に対応させるために、毎年度行われる法改正の取り組みです。例年、各省庁や各種団体から寄せられる税制改正の要望や、政府が掲げる経済対策などを踏まえ、予算編成と並行して進められます。

目次

税制改正はいつ行われる?流れとスケジュールを解説

税制改正は、以下のスケジュールに沿って進められます。

出来事時期
・各省庁、各種団体から改正要望の提出
・税制調査会による税制の審議
・与党税制調査会による取りまとめ
4月~12月
税制改正大綱の決定・発表12月中旬
改正法案の閣議決定・通常国会へ提出1月末~2月初め
衆議院本会議で可決
(衆院通過)
2月末~3月初め
参議院本会議で可決
(法案成立)
3月末
改正法の公布成立からおおむね2日後
改正法の施行4月1日

(※)上記は、改正法案が衆議院に先に提出された場合のスケジュールとなります。

4月から年末にかけて、政府税制調査会による審議や、各省庁や業界団体等からの改正要望の提出が行われます。各省庁の改正要望は、例年8月末までにまとめられます。

これらの要望等を与党税制調査会が取りまとめ、12月中旬に「税制改正大綱」を発表します。「税制改正大綱」とほぼ同じ内容の改正法案が年明けの通常国会に提出され、4月1日の施行を目指して両議院で審議されます。

最近の税制改正大綱はいつ決まるのか

税制改正大綱が発表される時期は、例年12月の中旬です。

具体的な日付は毎年異なりますが、過去5年間では12月10日から16日の間に発表されています。以下に具体的な日付をまとめました。

 税制改正大綱
令和6年度税制改正令和5年(2023年)12月14日(木)
令和5年度税制改正令和4年(2022年)12月16日(金)
令和4年度税制改正令和3年(2021年)12月10日(金)
令和3年度税制改正令和2年(2020年)12月10日(木)
令和2年度税制改正令和元年(2019年)12月12日(木)
平成31年度税制改正平成30年(2018年)12月14日(金)

税制改正の内容は誰が決めている?

税制改正は、改正法案を国会に提出し、その法案が両議院で可決されることで成立します。

つまり最終的には国民に選ばれた国会議員の賛成により税制改正が行われるのですが、例年、国会に提出された改正法案は大きな変更なく可決されています。

このことから、税制改正では改正法案や税制改正大綱をとりまとめるまでのプロセスが特に重要とされています。このプロセスで重要な役割を担うのが、政府税制調査会と与党税制調査会です。それぞれの役割を簡単に見てみましょう。

政府税制調査会(税制調査会)とは

政府税制調査会は、内閣総理大臣の諮問機関であり、学識経験者(大学教授や各界の代表者など)によって構成されています。この機関では、中長期的な視点から税制のあり方を審議し、その結果が税制改正に反映されています。

例えば、令和5年度税制改正では、相続税の生前贈与加算期間の延長や相続時精算課税の利便性向上改正といった大きな改正がありました。この改正は、海外の税制を参考にした「相続税と贈与税の一体化」の観点から、中立的な相続税制の実現を目指し、数年にわたり政府税制調査会において審議された改正内容になります。

近年は、長寿社会における年金課税や退職所得課税のあり方などが盛んに議論されています。こうした政府税制調査会の会議資料から、今後の改正の方向性を予想するヒントが得られるでしょう。

(参考)内閣府:税制調査会

与党税制調査会(与党税調)とは

与党税制調査会は、与党の政務調査会に属する機関です。

政府税制調査会の審議結果や、各省庁、業界団体等から寄せられた要望、さらに物価高対策など政府の経済対策に伴う税制の見直しなどを、年末に「税制改正大綱」として取りまとめています。

例年、税制改正大綱に示された内容と同様の改正法案が国会に提出され、ほぼそのまま可決される流れが一般的です。

このことから、与党税制調査会の活動が、税制改正を実質的に決めているといわれています。

税制改正を確認するなら「税制改正大綱」

税制改正の内容を確認したい時は、税制改正大綱を読みましょう。

12月中旬に公表される税制改正大綱は、その年度の税制改正のほとんどを網羅しており、各改正の概要や主な適用要件、施行日などの定量的な情報を入手できます。

与党税制改正大綱を活用しよう

税制改正大綱は、財務省のホームページと与党のホームページに掲載されます。

どちらも内容は同じですが、与党の税制改正大綱には具体的な改正内容の前に、「税制改正大綱の基本的な考え方」が掲載されています。

ここには改正の趣旨や、現在検討中の事項(まだ改正には至っていないもの)など、いわば「税制改正の予告」ともいえる情報が記載されています。こうした改正動向も把握することで、翌年以降の税制改正の内容を理解する手助けとなるでしょう。

改正の目玉だけ知りたい時は「税制改正の大綱の概要」

税制改正大綱は非常に長く、単調な文章が続くため、目玉となる改正を先にざっくり把握したい場合もあります。その際は、重要な改正のみをピックアップしてまとめた「税制改正の大綱の概要」を活用することがおすすめです。

「税制改正大綱に目を通す時間がすぐには作れない」という多忙な実務家にとって、便利な資料となるでしょう。

「税制改正の大綱の概要」は、財務省のホームページに税制改正大綱と一緒に掲載されます。

(参考)財務省HP:税制改正の概要

税制改正大綱の発表前に改正情報を知りたい場合

税制改正大綱の発表前に改正の動向を知りたい場合、各省庁が提出する税制改正要望を確認する方法があります。これらの要望は例年8月末までにまとめられ、9月ころに財務省の税制改正のWebページ上に定型フォーマットで掲載されます。

さらに、省庁によっては各自のホームページで、財務省よりも詳しい説明資料を公開している場合があります。

公開されている改正要望が必ずしも実現するわけではありませんが、改正動向が気になる特定の事項については参考情報として活用できます。

税制改正大綱でわからない場合の対処法

税制改正大綱は、その年度に行われる税制改正の内容を網羅的に把握することには向いていますが、各改正の詳細な適用要件までは掲載されていませんし、すべて文章であるため読みづらさもあるでしょう。

気になる税制改正をより詳しく知りたい場合は、別の資料を確認する必要があります。

各省庁の税制改正の解説資料

税制改正大綱の中で、各省庁が要望した内容については、該当する省庁のホームページに独自の解説資料が掲載されることがあります。

特に、経済産業省、中小企業庁、国土交通省の解説資料は図表を活用して工夫されており、税制改正大綱よりもわかりやすく、内容も詳しいものとなっています。

例えば、国土交通省は、住宅関係の改正(例:所得税の住宅ローン控除や贈与税の住宅取得等資金の非課税特例など)を確認する際に有用です。

これらの資料は税制改正大綱が決定した後、法案成立前の段階で公開されることが多く、実務に役立つ情報源として活用できます。

財務省の「税制改正の解説」

法案成立後の6月から7月ころには、財務省のホームページで「税制改正の解説」が公開されます。という資料。

特に、各改正項目の「改正の趣旨」では、どういった要望や世論があって改正に至ったのか、場合によってはこれまでの制度の変遷にも触れられていたりと、なかなか正確に収集しづらい情報がまとまっています。

税制改正の趣旨について、各メディアでは例えば「こういう悪質な節税スキームがあったから改正された」という説明などがなされますが、公的な改正理由は意外とそれだけではなかったりします。もし、セミナーや講演など公の場で正確に説明する必要があるときは、この解説資料を確認しておくと安心です。

国税庁のホームページ

税制改正の内容は、国税庁のホームページにも反映されます。

ただし、改正要望を出している各省庁とは異なり、こちらは法案可決後の対応となります。場合によっては年末近くになる場合もあるため、利用時には、各ページの冒頭に記載された「令和◯年4月1日現在法令等」の年次部分を必ず確認しましょう。

また、国税庁が作成する資料には、納税者向けのパンフレットや確定申告用のチェックシートなど、顧客への説明にそのまま使えるような有用な資料がありますので、時々チェックしてみるとよいでしょう。

国税庁の通達改正

こちらも国税庁ホームページの情報になりますが、税制改正後のおおむね6月から年末にかけて、各税法の通達改正が行われます。特に、改正通達の「趣旨説明」は、改正の意図や国税庁の対応方針を理解することができる、税理士にとって重要な資料です。

国税庁ホームページの「新着情報」の「法令等」タブで、最新の通達改正情報や改正の趣旨説明の一覧が確認できますので、気になる改正がある時は定期的にチェックするとよいでしょう。

(参考)国税庁HP:新着情報(国税庁のトップページに掲載)

まとめ

この記事では、税制改正の全体像を把握するために、税制改正大綱の役割や改正法案の成立までのプロセス、各省庁や財務省による補足資料の活用方法、さらには国税庁の通達改正や資料の確認ポイントについて解説しました。特に、改正趣旨や今後の動向を説明できるよう準備しておくことは顧問先からの信頼向上にも役立ちますので、参考になれば幸いです。

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