「助成金コンサルタント」を知ろう!利用の際に気を付けるべきこととは?

「御社でも助成金、使えますよ」。
ある日突然、そんな営業電話を受けたことはありませんか?補助金や助成金を使って経費を浮かせる──経営者にとっては魅力的な話です。実際、雇用や設備投資、働き方改革などを支援する制度は年々増えています。
ところが、いざ申請となると、書類は多い、条件は複雑、期限も短いと、途端にハードルが高くなります。しかも、制度ごとに提出先や運用ルールが異なるため、「どこから手をつけたらよいかわからない」という声もよく聞きます。
そんな現場に登場するのが「助成金コンサルタント」という存在です。この記事では、助成金制度の基本から、コンサルタントを利用する際のメリット・デメリット、そして注意点までを一つひとつ解説していきます。
目次
- 助成金とはなにか?
- 助成金コンサルタントという職業について
- 助成金の申請は自分でするか、コンサルに頼むか。
- こんな業者には要注意
- 信頼できるコンサルタントの見極め方
- 助成金コンサルを利用する際の注意点
- 助成金を活用する企業の事例
- 助成金活用の落とし穴とは?
- まとめ:助成金は“経営戦略の一環”として活用を
助成金とはなにか?
助成金とは、国や自治体が一定の政策目標に向けた取り組みを促すために、企業に交付する返済不要の資金のことです。よく似たものに補助金がありますが、補助金は公募制で審査・選考があるのに対し、助成金は「要件を満たしていれば原則支給される」ことが特徴です。
たとえば、厚生労働省が管轄する「キャリアアップ助成金」は、非正規社員を正社員に登用した企業に支給されます。また、「両立支援等助成金」は、育児や介護との両立を支援する制度を整えた企業が対象です。
ただし、支給対象になるためには、事前に計画書を提出したり、就業規則を変更したりと、一定の手続きが求められます。さらに、受給後も報告義務があるため、単に「お金がもらえる制度」ではなく、「制度に沿った取り組みをした結果、支援が受けられるもの」と考えるのが正確でしょう。
助成金コンサルタントという職業について

助成金の手続きは複雑で手間がかかるため、企業が単独で対応するのは容易ではありません。そこで登場するのが、助成金申請を支援する「助成金コンサルタント」です。
とはいえ、「助成金コンサルタント」という資格が存在するわけではなく、誰でも名乗れてしまうのが実情です。そのため、業界には経験豊富なプロフェッショナルもいれば、知識が浅いまま営業活動を行っている人も混在しています。
助成金コンサルタントの業務には、以下のような内容があります。
- 自社の取り組みに合致する助成金の洗い出し
- 要件に合うよう社内制度の整備をアドバイス
- 申請までのスケジュール設計と提出サポート
- 社労士との連携による正式な申請業務の段取り
注意すべき点は、厚生労働省が提供する助成金の申請書類の作成や提出は社会保険労務士の独占業務であるということです。つまり、社労士でない者がこれらの業務を請け負うことは法律違反になります。信頼できるコンサルタントは、社労士とチームを組むか、社労士資格を自ら持って業務を行っています。
なお、補助金や厚生労働省以外が支給する助成金の申請には社労士の資格を持つ者以外の人でも申請はできます。
助成金の申請は自分でするか、コンサルに頼むか。
ここで、助成金を自分で申請した場合とコンサルタントに頼んだ場合についてメリットとデメリットを整理してみましょう。
自分で申請する場合のメリットとデメリット
メリット:
- 外注コストがかからず費用を抑えられる
- 自社で知識を蓄積でき、今後の申請にも応用可能
- 業務フローや労務体制を見直すきっかけになる
デメリット:
- 制度の理解に時間がかかり、実務に支障が出る恐れがある
- 書類の不備で受給できないリスクがある
- 社内人員に大きな負担がかかる
たとえば、助成金の中には「雇用契約書の形式」「就業規則の内容」「労働時間管理の方法」など、細かな点での要件が設定されています。これらをすべて読み解いて準備するのは、慣れていない方にとっては相当な労力になります。
コンサルに依頼した場合のメリットとデメリット
メリット:
- 制度の選定から書類の準備、提出までを一貫してサポートしてくれる
- 最新の制度改正にも対応してくれるため、要件漏れのリスクが少ない
- 成功報酬型なら、助成金が出たときだけ費用が発生する仕組みもある
デメリット:
- 成功報酬が高額に設定されているケースもある
- 不誠実な業者に依頼するとトラブルにつながる
- 書類は外注で通ったが、社内にノウハウが残らないこともある
また、助成金は基本的に「後払い」のため、コンサル報酬の支払いタイミングにも注意が必要です。中には、助成金が支給される前に手数料だけ請求してくる業者もいます。契約時には報酬体系を細かく確認するようにしましょう。
こんな業者には要注意
- 「うちのノウハウなら絶対に通ります」と言い切る
- 契約前に報酬額や支払い条件を提示しない
- 社内体制の実態を確認せずに「申請できます」と断定する
- 質問に対してはぐらかす、制度名をはっきり言わない
また、なかには「助成金だけが目的」で、改善のアドバイスはおざなりな業者も見られます。本来、助成金は制度趣旨に合った企業努力に対して支給されるものです。見せかけだけ整えて申請するような提案をする業者には要注意ですが、大変にハードルの高い改善を無理やりやらされるのも問題です。
信頼できるコンサルタントの見極め方
- 実績(申請件数や対応業種)をきちんと提示してくれる
- 契約書の内容が明確で、不明点にも丁寧に答える
- 社労士との関係性や申請責任者の資格を明記している
- アフター対応(受給後の報告や修正対応)についても説明がある
できれば、事前に「過去に支援した企業の業種」や「具体的にどの助成金を支援してきたのか」を確認しておきましょう。また、単発ではなく、継続的な労務支援もできるパートナーを選ぶと、より安心です。
助成金の受給は真の目的ではないはずです。真の目的とは改善してステップアップすることであり、コンサルタントは自社の力になれるかどうかがポイントです。
見せかけの事実を書類に書くのもダメですし、実行困難な改善をやらされるのも無理があります。「これならばできそうだ」というちょうどいい方法を提案するのもコンサルタントの仕事なので、これができる業者を選びましょう。
助成金コンサルを利用する際の注意点
- 申請手続きに資格が必要な場合は資格を持った人が行うことを確認すること
- 着手金や成功報酬の比率、返金規定など契約内容を文書で残す
- 受給後の実績報告や不備対応まで支援範囲に含まれるか確認する
- 制度の趣旨に合った申請を行うこと。脱法スレスレの提案には乗らない
特に、助成金には「雇用継続の義務」や「研修報告の提出」など、アフター対応が必要なケースが多くあります。「受け取った後は知りません」というスタンスのコンサルタントは避けましょう。
助成金を活用する企業の事例
実際に助成金を上手に活用している企業はどのように進めているのでしょうか。ここでは、2つの具体例をご紹介します。
事例①:社員の正社員化に「キャリアアップ助成金」を活用した製造業
埼玉県のとある金属加工業者では、パート社員3名を正社員登用する際に「キャリアアップ助成金」を活用しました。社内の就業規則を見直し、評価制度を導入することで要件を満たし、1人あたり57万円、計171万円の助成金を受給。その資金をもとに新しい作業服を支給し、職場の士気向上にもつながったそうです。
助成金の申請自体は社会保険労務士に依頼しましたが、制度の選定やスケジュール設計は助成金コンサルタントが丁寧に対応。社内では人事担当者も申請手順を学び、以後の申請にも役立てています。
事例②:在宅勤務導入で「働き方改革推進支援助成金」を活用したIT企業
東京都内の中規模IT企業では、コロナ禍を機にテレワーク制度を導入しました。その際、就業規則や勤怠管理方法を変更し、「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」を活用。オンライン勤怠システムやチャットツールの導入費用として70万円近い助成金を受け取りました。
コンサルタントのサポートにより、書類作成や変更手続きもスムーズに進み、従業員からも「働きやすくなった」と好評だったとのことです。
助成金活用の落とし穴とは?

助成金は便利な制度ですが、「制度の目的」を理解せずに使おうとすると、思わぬトラブルの元となります。以下はよくある誤解や失敗例です。
「形式だけ整えれば受給できる」は危険
たとえば、正社員登用助成金の要件を満たすために「契約書だけ正社員に変更」しても、実態が伴っていなければ不支給となる可能性があります。現場での労働時間や賃金、業務内容の変化が伴っていなければ、「見かけだけ」の対策と見なされてしまうのです。
また、助成金によっては「一定期間の雇用継続」が支給条件になっているものもあります。要件を満たした直後に退職者が出た場合、支給が取り消されたり、返還を求められたりすることもあります。
書類の保管・提出ミスが命取りに
助成金の申請には、「申請前の準備」が極めて重要です。たとえば「申請日よりも前に契約書を結んでいた」など、ほんのわずかなタイミングのズレで不支給になるケースも珍しくありません。
さらに、受給後にも数年間の書類保管義務があります。実地調査が入る可能性もあり、「もらって終わり」では済まされないのです。
まとめ:助成金は“経営戦略の一環”として活用を
助成金は、単なる一時的な資金補填ではなく、「中長期的な経営の質を高めるための支援」と捉えるのが正しい姿勢です。
コンサルタントの力を借りることは悪いことではありませんが、重要なのは「制度の目的に沿った形で活用」し「その後の継続的な運用体制も含めて設計する」ことです。
目先の利益だけにとらわれず、制度の意図を理解し、自社にとって本当に意味のある助成金活用を目指していきましょう。そのためには、信頼できるパートナー選びと、経営者自身の理解が欠かせません。

税理士.ch 編集部
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