令和6年度税制改正による賃上げ促進税制の変更点を解説

令和6年度税制改正後の賃上げ促進税制は、令和4年度から行われていた制度を強化する制度です。大企業、中堅企業は最大で、全雇用者の給与等支給額の増加額の35%を税額控除できますし、中小企業なら最大45%を税額控除できます。

令和6年度からどのような点が変わったのか、まとめておきましょう。

目次

賃上げ促進税制とは

賃上げ促進税制とは、中小企業向けの制度では雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて1.5%以上増加した場合に、控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額又は所得税額から控除できるという制度です。増加率が2.5%以上となるなどの上乗せ要件を満たした場合は、さらに、税額控除率を15%上乗せできることになっています。

つまり、従業員の給料を引き上げたら、その分、法人税額を控除できるようにして、賃上げの促進を図ることが目的です。

賃上げ促進税制は、令和4年度税制改正で創設されました。令和6年度の税制改正ではさらに制度が拡充されています。

令和6年度の税制改正前の賃上げ促進税制

まず、令和4年4月1日から令和6年3月31日までの期間内に開始する各事業年度(個人では令和5年度から令和6年度までの各年度)に適用された賃上げ促進税制について確認しておきましょう。

賃上げ促進税制は、中小企業向けと全企業向け(大企業向け)の制度の2種類から成り立っています。

中小企業向け制度賃上げ促進税制

中小企業向け制度は次のとおりです

雇用者給与等支給額が増加した場合

雇用者給与等支給増加割合税額控除割合
1.5%以上15%
2.5%以上30%

なお、雇用者給与等支給増加割合の正確な計算は次の式に当てはめます。

(雇用者給与等支給額(適用年度)-比較雇用者給与等支給額(前事業年度))÷比較雇用者給与等支給額(前事業年度) ≧  1.5%

また、税額控除額は次のように計算します。

税額控除額 = 控除対象雇用者給与等支給増加額 × 15%

教育訓練費額が増加した場合の上乗せ措置

教育訓練費の額が前事業年度と比べて10%以上増加した場合は、上記からさらに上乗せすることができます。具体的には次の計算式に当てはまる場合です。

(教育訓練費の額(適用年度)-比較教育訓練費の額(前事業年度))÷比較教育訓練費の額(前事業年度)≧ 10%

この場合、税額控除率を10%上乗せすることができます。雇用者給与等支給額の増加と教育訓練費額の増加による税額控除は併用することができます。

例えば、

  • 雇用者給与等支給増加割合1.5%以上で教育訓練費額が10%以上増加した場合は、25%の税額控除。
  • 雇用者給与等支給増加割合2.5%以上で教育訓練費額が10%以上増加した場合は、40%の税額控除。

このようにそれぞれ税額控除できるということです。

全企業向け賃上げ促進税制

賃上げ促進税制は、中小企業だけではなく、大企業にも適用されます。仕組みは、中小企業と同様ですが、要件が高めに設定されています。

継続雇用者給与等支給割合が増加した場合

全企業向け賃上げ促進税制で対象となるのは、単純な「雇用者」ではなく、「継続雇用者」です。具体的には、次の2つの要件を満たす雇用者を意味します。

  • 前事業年度及び適用年度の全ての月分の給与等の支給を受けた国内雇用者
  • 前事業年度及び適用年度の全ての期間において雇用保険の一般被保険者であり、かつ前事業年度及び適用年度の全てまたは一部の期間において高年齢者雇用安定法に定める継続雇用制度の対象となっていない者
継続雇用者給与等支給増加割合税額控除割合
3%以上15%
4%以上25%

教育訓練費額が増加した場合の上乗せ措置

教育訓練費額増加割合税額控除割合
20%以上5%

中小企業に該当しない企業の場合は、最大で30%まで税額控除できるということです。

令和6年度の税制改正後の賃上げ促進税制

令和6年度の税制改正後の賃上げ促進税制は、旧制度の骨格を維持しつつ、追加の支援措置が講じられています。

中小企業向けについては、基本的に変わりはなく、追加措置が講じられただけですが、全企業向け賃上げ促進税制は、細かい制度になっているので整理する必要があります。

中小企業向け賃上げ促進税制の改正点

中小企業向け賃上げ促進税制の改正点は次のとおりです。

教育訓練費額が増加した場合の上乗せ措置の要件緩和

改正前は、教育訓練費の額が前事業年度と比べて10%以上増加した場合に、税額控除率を10%上乗せできました。改正後は、増加率が「5%以上」に緩和されています。

ただ、もう一つ要件が加わっているため、注意が必要です。教育訓練費の額が雇用者給与等支給額の0.05%という要件です。そのため、教育訓練費額が増加した場合の上乗せ措置は、次の2つの計算式に当てはまる場合に適用されます。

(教育訓練費の額-比較教育訓練費の額)÷ 比較教育訓練費の額 ≧ 5%

教育訓練費の額 ÷ 雇用者給与等支給額 ≧ 0.05%

子育てとの両立支援・女性活躍支援に関する要件の追加

賃上げ促進税制を利用する中小企業が子育てとの両立支援か、女性活躍支援に関する要件のいずれかを満たしている場合は、税額控除率を5%上乗せできるようになりました。

子育てとの両立支援の要件とは、「くるみん」以上の認定を受けている場合です。男性育休取得率10%以上、女性育休取得率75%以上といった要件を満たした上で認定を受けているかどうかがポイントです。

女性活躍支援に関する要件とは、「えるぼし(2段階目)」以上の認定を受けている場合です。具体的には、以下の要件を3つ以上満たしていることが求められます。

  • 採用……男女の競争倍率が同程度、正社員に占める女性比率が産業平均以上等
  • 継続就業……女性の平均勤続年数が男性の7割以上等
  • 労働時間等の働き方……平均残業45時間/月未満等
  • 管理職比率……女性の管理職比率が産業平均以上
  • 多様なキャリアコース……女性の正社員への転換等

控除しきれなかった額の繰越し制度の追加

賃上げを実施した年度に控除しきれなかった税額については、5年間の繰越しが可能になりました。

なお、繰越し控除を行うためには、未控除額が発生した年度の申告で、「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」を提出する必要があります。

また、繰越税額控除をする事業年度でも、全雇用者の給与等支給額が前年度より増加しているといった要件を満たす必要があります。

全企業向け賃上げ促進税制の改正点

全企業向け賃上げ促進税制も、旧制度の骨格を維持しつつ、さらに細分化された制度になっています。

継続雇用者給与等支給割合が増加した場合

継続雇用者給与等支給増加割合税額控除割合
3%以上10%
4%以上15%
5%以上20%
7%以上25%

教育訓練費額が増加した場合の上乗せ措置

教育訓練費額増加割合税額控除割合
10%以上5%

税額控除割合が引き下げられましたが、新たに増加割合5%以上の場合が追加されています。一方で、教育訓練費に関する要件は、10%に緩和されています。

子育てとの両立支援・女性活躍支援に関する要件の追加

全企業向け賃上げ促進税制でも、子育てとの両立支援・女性活躍支援に関する要件が追加されました。次のいずれかの要件を満たしている場合、税額控除率を5%上乗せできるようになりました。

  • 子育てとの両立支援の要件……「プラチナくるみん」以上の認定を受けている場合です。
  • 女性活躍支援に関する要件……「プラチナえるぼし」以上の認定を受けている場合です。

控除しきれなかった額の繰越し制度の追加

賃上げを実施した年度に控除しきれなかった税額については、5年間の繰越しが可能になりました。中小企業向けと同様の制度です。

特定法人(中堅企業)向け賃上げ促進税制の新設

全企業(大企業)向け制度と中小企業向け賃上げ制度の中間に位置する制度として、中堅企業向け賃上げ促進税制が導入されました。

全企業向け制度との大きな違いは、継続雇用者給与等支給割合が増加した場合の控除割合です。また、子育てとの両立支援・女性活躍支援に関する要件も緩和されています。

継続雇用者給与等支給割合が増加した場合

継続雇用者給与等支給増加割合税額控除割合
3%以上10%
4%以上25%

継続雇用者給与等支給増加割合が4%以上で、税額控除割合が25%になる点で有利になっています。

子育てとの両立支援・女性活躍支援に関する要件

次のいずれかの要件を満たしている場合、税額控除率を5%上乗せできます。

  • 子育てとの両立支援の要件……「プラチナくるみん」以上の認定を受けている場合です。
  • 女性活躍支援に関する要件……「えるぼし(3段階目)」以上の認定を受けている場合です。

子育てとの両立支援の要件は、全企業向けと同じですが、女性活躍支援に関する要件は緩和されています。

令和6年度の税制改正後の賃上げ促進税制の対象企業

賃上げ促進税制の対象企業は、中小企業、中堅企業、全企業ですが、具体的には次の要件を満たしている必要があります。

  • 中小企業……中小企業者等(資本金1億円以下の法人、農業協同組合等)又は従業員数1,000人以下の個人事業主で、青色申告書を提出していること。
  • 中堅企業……従業員数2,000人以下の企業又は個人事業主であり、青色申告書を提出していること。
  • 全企業……青色申告書を提出していること。(「資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上の企業」、「従業員数2,000人超の企業」、「従業員数2,000人超の個人」は、マルチステークホルダー方針の公表及びその旨の届出も必要。)

令和6年度の税制改正後の賃上げ促進税制の適用期間

令和6年度の税制改正後の賃上げ促進税制の適用期間は、次のとおりです。

  • 法人の場合は、令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度
  • 個人の場合は、令和7年度から令和9年度までの各年度

まとめ

令和6年度に改正された賃上げ促進税制は、令和4年度から適用されていた制度を拡充したものです。骨格は大きく変わっていませんが、細かい数字は変わっているため、再確認が必要です。

また、制度の適用を受けるためには、様々な要件を満たす必要があり、混乱しがちな企業担当者も多いと思います。税理士・会計事務所としては、賃上げ促進税制に関する正確な情報の提供と丁寧なサポートが求められます。

【まとめ記事】令和6年度 税制改正について、仕組みや変更点を紹介

税理士.ch 編集部

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