税理士が相続手続きで関与できる場面と強み

相続が発生した際は、相続税の申告と納付だけではなく、様々な手続きが必要になります。
また、相続手続きに係る専門家も、税理士だけでなく、弁護士、司法書士、行政書士、金融機関など多種多様です。
この記事では、相続手続きの流れをおさらいしつつ、それぞれの手続きにおいて、どの士業が関わるのか、税理士の優位性について確認していきます。
目次
相続手続きの流れ

相続税がかからなければ相続手続きをしなくてよいというわけではありません。
相続手続きと言ってもやるべきことは多岐にわたります。相続手続きの流れと、どの士業が担うのか確認しましょう。
遺言書の有無の確認と検認
被相続人が遺言書を残している場合は遺言書に基づいて相続手続きを行います。
遺言書には、主に次の2種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
公正証書遺言については、家庭裁判所での検認と呼ばれる遺言書の内容を確認して確定する手続きを受ける必要はありません。自筆証書遺言は、検認の手続きが必要ですが、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は、検認が不要になります。
検認については家庭裁判所での手続きになるため、弁護士または司法書士が手続きを行います。遺言書は、被相続人が所在を明らかにしていない場合は、探さなければなりません。被相続人の家に物が多くて、遺言書がどこにあるかわからない場合は、専門業者に依頼して、家の片付けを行いながら探すこともあるため、発見が遅れることもあります。
相続手続きを終えた後で、遺言書を見つけたらどうしたら良いのかという形で相談されることもあるので対処方法を確認しておきましょう。
相続人の調査
相続人は誰なのか、特に子が何人いるかは、相続税の基礎控除額を計算するために重要なので、念入りにチェックする必要があります。
具体的には、被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本等を取り寄せて調べます。現在では、戸籍の広域交付制度が導入されているため、相続人でも戸籍の収集が容易になりました。
ただ、戸籍を読み解くことは、一般の方では難しいこともあります。前婚の子どもには、法定相続分はないと勘違いしているケースも想定されるので、依頼を受けた専門職がしっかり調べたうえで、法定相続情報一覧図の形でまとめましょう。
法務局の法定相続情報証明制度を利用することで、各種の相続手続きで戸籍謄本の束の代わりに利用できます。法定相続情報証明制度の利用は、司法書士だけでなく、税理士も代理人として法務局で申し出ることができます。
相続財産の調査
被相続人の遺産をすべて調査し、遺産総額を確定します。
相続財産の調査は、一般の方でもできますが、取りこぼしがある可能性があるため、専門職のサポートが必要です。
また、生前贈与がある場合は相続時精算課税制度の利用の有無を確認する必要がありますし、特別受益として持ち戻しが必要になることもあります。被相続人が亡くなった時点での遺産総額が基礎控除額を下回っていたとしても注意が必要です。
相続財産の調査は、誰でもできますが、不動産の相続税評価額の算出も必要になりますから、明らかに遺産総額が基礎控除額を下回っている場合以外は、税理士に相談すべきだと案内しましょう。
相続放棄か限定承認の選択
相続方法は、単純承認、限定承認、相続放棄の3通りがあります。
プラスの資産が多い場合は、単純承認。
負債が多い場合は、相続放棄。
どちらかわからない場合は、限定承認を選ぶケースが多いです。
相続財産の調査を行ったうえで、相続人が判断することになりますから、税理士等の専門職としては判断資料を相続人に提供する必要があります。
3つのいずれを選択するかは、相続があったことを知った日から3カ月以内に行う必要があるため、相続財産の調査もその前に終わらせておく必要があります。なお、限定承認、相続放棄の申立は家庭裁判所で行いますが、相続人本人以外の人が手続きするには、弁護士や司法書士に依頼する必要があります。
遺産分割協議・遺産分割協議書の作成
遺言書がない場合は遺産分割協議が必要です。遺産分割協議は、基本的に相続人同士で行うものです。
遺産分割で相続人同士が揉めている場合は、調停や裁判になりますので弁護士に相談すべき事案になります。
税理士としては、相続税対策や二次相続を考慮した遺産分割方法を提案するという形で関与することができます。相続人同士で話し合いがまとまったら、遺産分割協議書にまとめます。
相続手続きや相続登記
遺産分割協議がまとまったら相続手続きを行います。相続手続き自体は難しくないので、相続人自身でも行うことができます。不動産の相続登記も、相続人自身で行うことが可能ですが、難しい場合は、司法書士に依頼するように案内しましょう。
相続税の申告・納付
相続税の申告・納付は、相続税に詳しい税理士が関与します。被相続人が死亡したことを知った日(一般的には被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内に行わなければならないため、相続人の方に早めに依頼してもらうようにしましょう。
税理士が相続人の方にアピールすべきポイント

相続において税理士が関わるのは、相続税が発生する場合です。税理士に依頼しないとどのようなリスクがあるのか、税理士に依頼した場合のメリットをアピールしましょう。また、生前贈与による相続税対策もあることも紹介しましょう。
基礎控除を超えるかどうかわからない場合はリスクがあること
遺産総額が「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」の基礎控除額を超えている場合は、相続税がかかるため、税理士に相談すべきであることは、広く知られています。
税理士としてはまずその点をアピールすべきことは言うまでもありません。それだけでなく、基礎控除額を超えるかどうかわからない場合や微妙な場合も税理士に相談すべきであることもアピールすべきです。
一般の方には、相続財産の総額の正確な計算は難しいです。そのため、微妙なケースでは、相続税が発生することを知らないままに相続税の申告・納付期限が過ぎてしまい、延滞税などの余計な税金を支払わなければならない事態になることもあります。
相続税を払う必要があるのかどうか分からないままに放置することはこうしたリスクがあることを説明すべきです。
相続税の申告がスムーズにできること
相続税の額が僅かであっても、一般の方で相続税の計算や申告書の作成に慣れている方はほとんどいませんから、やはり、税理士に相談依頼するよう促すべきです。また、税理士が関与していない相続税の申告書は、税務署の審査が厳しくなりがちで、税務調査の対象になりやすいことも説明すべきです。
相続税の節税が可能であること
相続税の計算では、相続財産の評価額を算出したうえで、税金を計算します。
評価額は、様々な特例を適用することによって下げることができますが、特例には様々なものがあり、一般の方は、どの特例を適用したら良いのかわからないことが多いです。特例を利用できることを知らずに、相続税の申告を行っても、税務署は特例が適用できる旨を教えてくれるとは限りません。そのため、本来は支払わなくて良い相続税を支払ってしまうケースもあります。
そこで、税理士に依頼すれば、様々な特例を適切に適用して、相続税の節税が可能になることをアピールすべきです。
二次相続対策も踏まえた計画を立案できること
二次相続対策とは、次に起こり得る相続を想定した相続対策のことです。
代表例が、父親が亡くなり、母親が生存しているケースです。順番からすると次に亡くなるのは母親なので、母親が亡くなった際の相続(二次相続)も考慮して、父親の相続(一次相続)を行う必要があります。
例えば、父親が亡くなった際に「配偶者の税額軽減」を利用して、母親に多額の遺産を相続させた場合、一次相続では相続税の節税に繋がりますが、母親が多額の遺産を所有する状態になると二次相続でも、多額の相続税がかかってしまいます。
そのため、一次相続と二次相続を合わせた相続税の額を予測したうえで、トータルの相続税額が多額になる場合は、一次相続の際に配偶者の相続分を少なくしておく事も考えられます。
このように、税理士ならば、二次相続対策も踏まえた計画を立案できることをアピールすべきです。
生前贈与による相続税対策も提案できること
生前贈与を行うことにより、相続税を節税できることは広く知られています。
そのため、多額の財産を有している方は、生前贈与を検討している方も少なくありません。他の士業が相続の生前対策として関わる場合は、相続争いを避けるための遺言書作成がメインになりますが、税理士の場合は、生前贈与による相続税対策を提案できることが強みです。
相続が発生する前から、関わることにより、実際に相続が発生した際に、相続手続きにも関与しやすくなります。2024年1月から相続時精算課税制度が改正され、年間110万円の基礎控除が創設されるなど、新たな動きも出ています。
関心も高まっていますので、生前贈与による相続税対策について積極的にアピールすべきです。
まとめ
相続税が発生する相続手続きでは税理士が関与すべき場面が多くなります。相続手続きに係る専門家は多数いることから、争奪戦の様相を呈しているように見えるかもしれませんが、税理士の強みとアピールポイントを押さえれば、相続手続きに関する業務の依頼を受けることができます。
相続税専門の税理士として相続手続きに関与したい方は参考にしてください。

税理士.ch 編集部
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