令和7年税制改正|退職所得控除の調整規定等の見直しの内容と背景

日本人の平均寿命は長くなり、「人生100年」ともいわれています。そのため、老後の資金確保は年齢を問わず重要なテーマとなっています。働く人の多くは、老後の資金は退職金と年金が中心となるでしょう。そのなかで、令和7年税制改正による退職所得控除の調整規定等の見直しに大きな疑問や不安を抱く方も多いのではないでしょうか。
老後資金の確保として重要な退職金と確定拠出年金に関しては、受け取り方によって税金が大幅に変わるため、受け取るタイミングで間違いがないよう、税金の変動について事前に確認しておくことが大切です。そこで、令和7年税制改正、退職所得控除の調整規定等の見直しはどのようになったのかや、受け取り方について詳しく解説します。
目次
- 令和7年税制改正と退職所得控除の調整規定等の見直し
- 退職金課税制度を活用した節税対策への影響
- 退職金や確定拠出年金に関する税金について
- 退職所得を受け取るための具体的な方法
- 令和7年税制改正と退職所得控除を理解して計画を立てよう
令和7年税制改正と退職所得控除の調整規定等の見直し
令和7年度税制改正で、政府・与党は「長期間勤務をすればするほど所得税の負担が軽減される現行の退職金課税制度の見直し」に結論を出すことを見送りました。しかし、令和7年税制改正ではiDeCoといった確定拠出年金(DC)を一時金で受け取るケースについて見直しを行うことが盛り込まれました。最初に、 退職所得控除の調整規定等の見直しが検討された背景、その内容を解説します。
見直しが検討された背景
定年が延長され、先にDC一時金を受け取り、その後5年以上経過して退職金を受け取る方が増加しました。この場合、勤続年数の重複排除は適用されず、退職所得控除を満額使用できます。令和7年税制改正の退職所得控除の調整規定等の見直しでは、課税の公平性を確保するために、重複排除について調整期間を延ばすことが提案されました。
退職金を受け取った年の前年以前4年内に他の退職金を受け取っていた場合、退職所得控除の計算をする際に勤続年数の重複を排除して計算されます。また、確定拠出年金の老齢一時金(DC一時金)を受け取った年の前年以前19年内に他の退職金を受け取っていた方にも、勤続年数の重複排除が適用されます。
退職所得控除の調整規定等の見直し内容
退職金よりも先に企業型DCやiDeCoを老齢一時金として受け取った場合、4年の期間を空けたうえで退職金を受け取ると、退職所得控除を重複して算出可能です。しかし、退職所得控除の調整規定等の見直しでは、9年の期間を空けることが盛り込まれており、退職一時金のほか他の企業年金の一時金を受け取る際には、退職所得控除の計算において勤続年数の重複が除外されるシステムを取り入れることになります。
また、DC一時金に関係する「退職所得の受給に関する申告書」を保存する期間は10年に延長されます(改正前は7年)。
ほかにも、退職所得の源泉徴収票を税務署長に提出する義務については、改正前は居住者の役員のみでした。しかし、令和7年税制改正では、退職手当等を受け取る全ての居住者に提出することを義務付けます。
退職金課税制度を活用した節税対策への影響

従来、役員はもちろん従業員が短期間の勤務の給与の代わりとして退職金を受け取るケースがありました。節税効果を得て、租税回避を行う事例です。そのため、法人の役員のほか従業員に対しても、勤続年数が5年以下の短期間の退職金については2分の1課税の適用を除外することが決定されました。
ただし、雇用の循環を考慮して、退職所得控除後の金額のうち300万円までは、改正前と同様に2分の1の課税が適用されることになっています。特に、中小企業においては、社長が経営者となり、親族が役員を務めるケースが少なくありません。
今後、退職金課税制度が見直される場合、従業員や役員の退職に関連する節税対策にも少なからず影響が及ぶことになります。
退職金や確定拠出年金に関する税金について
退職金や企業型、個人型(iDeCo)の確定拠出年金を受け取る方法にはいくつかの選択肢があります。主に、「一時金」「年金」「一時金と年金のセット」という方法がありますが、受け取り方ごとに税金の扱いが異なるため、十分に理解しておくことが重要です。ここでは、一時金で受け取る場合と、年金で受け取る場合の計算方法、注意点を紹介します。
なお、退職金や企業型確定拠出年金については、規約や会社の規則によって受け取り方法が定められているケースがあるため、合わせて確認しましょう。
一時金で受け取る場合
一時金として退職金や確定拠出年金を受け取る場合、「退職所得控除」の対象です。退職所得の税額計算は、原則として他の所得と分けて計算する分離課税になります。また、収入金額を大幅に減らす仕組みで計算が行われるため、退職所得にかかる税金は他の所得と比較して軽い方法です。しかし、他に退職所得に当てはまるものがある場合、それらも合わせて計算される点に注意しましょう。
一時金で受け取る場合の退職所得の計算式は「(収入金額-退職所得控除額)×2分の1」以下のとおりです。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
退職金を受け取る際、通常は退職前に「退職所得の受給に関する申告書」を提出します。申告書を作成すると「退職所得控除」が適用され、税額は大幅に軽減されます。ただし、申告書を提出しない場合、退職所得控除が利用できなくなり、所得税と復興特別所得税は一律で退職金の20.42%の税率で源泉徴収されるため注意しましょう。
年金で受け取る場合
年金として退職金や確定拠出年金を受け取る場合、「雑所得」に分類されます。さらに、老齢基礎年金や老齢厚生年金などの公的年金と合算した収入金額に対して、「公的年金等控除額」が適用され、税額を算出します。
金額によるものの、基本的に退職金や確定拠出年金は一時金で受け取った方が所得金額が減額されます。
しかし、退職金や確定拠出年金の一時金が退職所得控除額を大幅に上回るのであれば、税額も高くなることがある点に注意しましょう。そのため、どちらが良い選択なのかを専門家に相談のうえで決めることが重要です。
退職所得を受け取るための具体的な方法

申告書を作成したら、可能な限り早めに提出する必要があります。申請者によっては、必要な添付書類も求められる場合があります。最後に、申告書の提出先や提出時期、提出時に用意すべき書類を確認しておきましょう。
書類の提出先
退職金の支払い主に対して、書類の提出をします。
退職金の場合は会社、共済組合の場合は該当の組合に提出しましょう。
提出する時期
退職前のタイミングで、会社や組合に対して提出します。
支払い主は申告書を受け取った後に源泉徴収額を計算するため、退職金の支払い処理が開始される日までに提出しましょう。なお、共済組合の場合、他の書類と一緒に提出し、その後に支払い処理が開始されることが多いです。
申告書以外に必要な書類
申請者によっては、必要書類を添付しなければなりません。
例えば、同年に他の退職手当を受け取っている場合は、該当する退職手当の「退職所得の源泉徴収票」を一緒に提出する必要があります。
ほかにも、「退職所得の受給に関する申告書」のA欄で「障害」に当てはまる場合は、障害者手帳のコピーも提出しましょう。また、A欄の生活扶助が「有」になる場合は、生活保護決定通知書のコピーを添付します。
申告書が未提出の場合
「退職所得の受給に関する申告書」を提出し忘れた場合、退職所得控除が適用されません。つまり、退職手当に対して20.42%の所得税(復興特別所得税が含まれる)が源泉徴収されてしまいます。
例えば、申告書を提出せずに500万円の退職金を受け取った場合、100万円以上の所得税が源泉徴収されるのです。しかし、申告書を提出すると、退職所得控除額を差し引いた金額に適切な税率をかけて計算され、源泉徴収される金額は少なくなります。
令和7年税制改正と退職所得控除を理解して計画を立てよう
ライフプランは個人で異なり、退職後の経済面での計画も人それぞれ違いがあります。退職金や確定拠出年金の受け取り方やタイミングもそれぞれ適した方法があるため、自分にとって何が最適なのかを理解することが大切です。また、退職後の資金のひとつとして、公的年金も挙げられます。
令和7年税制改正と退職所得控除についてや、各税制や金額、制度については、日頃意識することや計算することはなく、理解が難しいと感じる方も多いです。これらを正しく把握するためにも専門家に相談して、退職金、年金など、退職後の収支の全体像を把握しましょう。

税理士.ch 編集部
税理士チャンネルでは、業界のプロフェッショナルによる連載から
最新の税制まで、税理士・会計士のためのお役立ち情報を多数掲載しています。
運営会社:株式会社ビズアップ総研
公式HP:https://www.bmc-net.jp/