令和7年税制改正で何が変わる?エンジェル税制の拡充を解説
令和7年税制改正において、様々な制度の内容が変更されました。今回はその中でも、エンジェル税制の拡充について、これまでの内容や注意点などと併せてご紹介します。
目次
国内投資の持続的拡大を目指すエンジェル税制
エンジェル税制の拡充は、中小企業経営強化税制及び地域未来投資促進税制と合わせ、国内投資の持続的拡大を目的に実施されます。
令和5年など過去にも改正が行われていますが、当時は課題も残しており、再調整が必要でした。令和7年税制改正では、経済産業省からの要望などを元に、さらに投資家がスタートアップ企業を支援しやすくなるよう変更されています。
エンジェル税制の基本とこれまでの拡充
まずは、エンジェル税制のこれまでの内容についてご紹介します。
エンジェル税制とは
そもそもエンジェル税制とは、短期での急成長を目標とする、いわゆるスタートアップ企業を支援した投資家を優遇する制度です。優遇措置は次の中から選べ、いずれも投資額に応じた控除を受けられます。
- 優遇措置A
- 優遇措置B
- プレシード・シード特例
- 起業特例
優遇措置Aからプレシード・シード特例までは他企業への投資ですが、起業特例は自社が対象です。自身で起業し、かつ出資していればエンジェル税制の対象になります。
株式売却時は損失による繰越控除も
エンジェル税制の対象となる株式を売却し、もし損失が出た場合は、同年の株式譲渡益と相殺が可能です。もし同年の株式譲渡益以上の損失であっても、翌3年まで控除として繰越せます。
また、スタートアップ企業の破産などによって株式の価値を失った場合も、同様の繰越が可能です。
過去に行われたエンジェル税制の拡充
エンジェル税制の拡充は過去にも行われており、例えば令和2年度税制改正では、スタートアップ企業の条件が緩和されました。
優遇措置Aであれば、設立5年未満の企業が対象です。
ほかにも提出書類の削減や認定事業者の新規追加が行われました。また令和6年には、新株予約権も対象となっています。J-KISSのような有償新株予約権であっても、エンジェル税制の条件を満たしていれば、控除対象です。
エンジェル税制の利用申請から確定申告まで
エンジェル税制を利用する場合、以下の流れで進みます。
- スタートアップ企業から都道府県等へ確認申請
- 都道府県等からスタートアップ企業へ確認書交付
- スタートアップ企業から投資家へ確認書提出
- 投資家が確定申告時に確認書を税務署へ提出
そもそもスタートアップ企業の定義は曖昧であり、まずは所属する都道府県等に、エンジェル税制の対象であることを綱得なければいけません。投資の確認も含めて、都道府県は完了後に確認書を交付します。
そして、投資家は確認書をスタートアップ企業から受け取った後、確定申告時に必要書類と共に提出し、エンジェル税制の手続きは完了です。必要書類やガイドラインは、経済産業省のホームページにも記載があるので確認してみてください。
ちなみに、投資前にスタートアップ企業がエンジェル税制の対象か知りたい場合は、事前確認制度が利用できます。正確には、スタートアップ企業が資金調達前に都道府県等に確認を取れる制度です。
投資家としても、スタートアップ企業に提案することで早い段階で説明を受けられます。また確認が済んでいれば、経済産業省のホームページでも企業名を確認できます。
令和7年税制改正におけるエンジェル税制の拡充内容
ここからは、令和7年税制改正で行われたエンジェル税制の拡充内容について見ていきましょう。
拡充したのは再投資期間
令和7年税制改正で行われたエンジェル税制の拡充は、主に再投資期間の延長です。従来は1年と定められており、譲渡益発生年内に再投資を行わなければならず、投資家を急かすような状態にありました。
しかし令和7年税制改正以後は「株式譲渡益が発生した年の翌年末」までとなります。これにより、期間を倍の2年とすることで投資家に検討する時間を与え、より自身に適した投資先を選ぶことが可能です。
投資先の選びやすさ、検討の猶予は、新たな投資家の参入や再投資を容易にするメリットもあります。ただし、エンジェル税制の中でも優遇措置Aと呼ばれる、その年の総所得から控除するタイプは期間延長の対象外です。
優遇措置Bやプレシード・シード特例、起業特例のような、その年の株式譲渡益から控除するタイプが期間を延長されています。
またプレシード・シード特例と起業特例は、そもそも年間20億円までは非課税です。
対象となるのは令和8年1月1日以降の再投資分から
エンジェル税制の拡充は令和7年税制改正に含まれてはいますが、厳密には令和8年1月1日以降の再投資で得た株式からが対象です。
令和7年度としては、令和8年1月1日から3月31日分のみと短い点に注意しましょう。それ以前の支援については、改正前の税制が適用されます。令和7年度はもとより、令和6年度に投資をしたからと言って、延長により令和8年度まで対象とはなりません。
高額の控除には繰戻し還付制度
令和7年税制改正により、エンジェル税制には繰戻し還付制度が設けられます。
株式譲渡益が発生した翌年にスタートアップ企業に支援を行った場合、譲渡益発生年まで遡り、投資額相当の控除が可能です。エンジェル税制の拡充対象となる令和8年1月1日以降に株式を取得し、しかし控除しきれない金額がある場合、前年度の所得税から差し引かれ、返還してもらえます。
ただし、これは対象者なら誰でもとは限りません。予め、前年度の時点で翌年に株式を取得する旨を、確定申告で伝える必要があります。
せっかく還付対象になっても、前年に申請していなければ対象外となってしまうので注意しましょう。言い換えれば、翌年度に株式取得が分かっているなら、本年度の確定申告でその旨を伝えておくと安心です。書類の形式や申請以外の条件については、都度経済産業省のホームページなどで確認しましょう。
対象の株式を譲渡した場合には課税
エンジェル税制に該当する場合であっても、取得した株式を翌年度中に手放した場合は課税対象です。譲渡所得の計算時、売却によって得た分に控除額を足し戻します。
ちなみに、株式の取得額や控除額はいずれも20億円を上限とし、超過する場合は20億円換算で計算します。また、先述の繰戻し還付制度にも該当する場合は、さらに計算が異なるため注意が必要です。こちらも明確な計算式が定まっているわけではないため(令和7年1月時点)、都度確認しましょう。
令和7年税制改正以降の注意点
令和7年税制改正による、エンジェル税制の拡充以降に利用する場合の注意点をご紹介します。
必要書類や書式は変わりやすい
経済産業省を始め、エンジェル税制に関わる省庁では必要書類や書き方などの案内もしています。
ですが度々の改正に伴い、その内容も変更が少なくありません。無論、各所では年度や日付などで区別されていますが、提出時は間違えないように注意しましょう。同時に、改正の施行前後は、申請自体がどちらに該当するのかを必ず確認してください。
問い合わせ窓口にも注意
エンジェル税制に関しては、令和5年度から経済産業省のイノベーション・環境局イノベーション創出新事業推進課スタートアップ推進室が担当部局です。
しかし事実確認の問い合わせ、特に電話や直接赴く場合の窓口は、平成28年度から各都道府県が担っています。いずれの都道府県もスタートアップ推進室という名称ではなく、かといって統一もされていません。今後も変更する可能性がある上、名称の間違いには注意しましょう。
加えて、実際の問い合わせ先は投資家の在籍する都道府県ではなく、スタートアップ企業の本社がある都道府県です。遠方の企業に投資した場合、自身の居る都道府県では対応してもらえないと思ってください。
まとめ
令和7年税制改正によるエンジェル税制の拡充は、対象期間の延長・緩和が主です。
株式譲渡益発生から1年ではなく2年とすることで、再投資までに時間の余裕が生まれます。これにより、投資家はスタートアップ企業を選ぶ際に期日に焦る必要がなくなりました。
余裕が生まれたことで再投資はもちろん、新たにエンジェル税制を検討する投資家の増加も期待できます。ただ、エンジェル税制の拡充は令和7年に初めて実施されるわけではありません。過去にも幾度か改正をしており、必要書類や問い合わせ窓口なども都度変化しています。
エンジェル税制自体、前年度の還付や最大3年にわたる控除など、1回の申請で複数年続くケースも多いです。どの時点の申請なのか、その際の必要書類は以前と変更がないかなど、注意しつつ行いましょう。
税理士.ch 編集部
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