令和6年度の研究開発税。メリットや注意点、最新の改正点を解説

研究開発税制とは、企業が研究開発に投資した費用に応じて、その金額を法人税(個人事業主の場合は所得税)から控除できる制度です。この制度は、日本企業がより多くの研究開発に取り組むことを促進し、国際競争力を高めることを目的としています。

目次

研究開発税制を活用するメリット

企業が行う投資にはさまざまな優遇税制がありますが、その中でも研究開発税制を活用することには、企業にとって、一般的には以下のようなメリットがあります。

控除額が高い

研究開発税制における税額控除額は、「控除限度額」(試験研究費の額×控除率)と「控除上限」(法人税額×上限率)のいずれか小さい方の金額が適用されます。研究開発税制の控除率や上限率は、他の税制と比較しても高い水準にあるため、企業にとって大きなメリットとなります。

大企業にも適用できる

研究開発への投資を後押しするための制度であるため、大企業でも要件を満たせば活用できます。中小企業向けの優遇措置も設けられているため、さまざまな規模の企業が恩恵を受けることができる制度です。

人件費など幅広い経費が控除対象になる

研究開発税制は、設備投資だけでなく、研究開発に従事した人件費など幅広い費用を控除対象に含めることができます。

製造業以外にも活用できる

控除の対象となる研究開発費は、新たな知見を得たり、それを応用したりするために行われる、創造的で体系的な調査や分析のための費用です。

このことから、すでに量産方法などが技術的に確立している方法で製品を企画したり、既存のマーケティング手法や販売手法を導入するための技術改良などを行うケースは、一般的にこの制度の対象にはなりません。

一方で、近年の改正では、ビッグデータやAI等を活用したサービス開発において、データの収集だけでなく、「既存データ」を利活用する場合も、控除対象となる研究開発費に追加されました。この改正により、製造業だけでなく、金融やITなど幅広い業種における研究開発税制の活用が期待されます。

令和6年度の研究開発税制の概要

「令和6年度」における研究開発税制とは

研究開発税制は租税特別措置法に定められた時限的な税制であり、創設以来、その要件や対象は定期的に見直されています。

今回解説する令和6年度の研究開発税制は、令和5年度税制改正で見直されたもので、「令和5年4月1日から令和8年3月31日までの間に開始する事業年度」に適用される税制になります。

研究開発税制の適用方法

研究開発税制を適用するには、その年度の税務申告を青色申告により行う必要があります。

また、研究開発費の種類によっては、経済産業省が所管する一定の手続きのもと交付される証明書などの添付が必要になる場合があります。

特に、共同研究や高度な人材を活用した「オープンイノベーション型」を適用したい場合は、「特別試験研究費」に該当する支出について、経済産業省のガイドラインを事前に確認しておくことが重要です。

(参考)経済産業省HP:特別試験研究費税額控除制度について

研究開発税制の対象になる「研究開発費」の範囲

研究開発税制の対象となる、試験研究のための研究開発費とは、事物、機能、現象などについて新たな知見を得るため、または利用可能な知見の新たな応用を考案するために行う、創造的で体系的な調査、収集、分析その他の活動のうち自然科学に係る費用でなければなりません。

具体的には、こうした費用のうち、①製品の製造、②技術の改良・考案もしくは発明、③対価を得て提供する新たなサービスの開発に関する以下の費用が研究開発費になります。

イ 原材料費、人件費および経費
ロ 委託試験研究費
ハ 技術研究組合の賦課金

これらの費用は、研究開発費として損金経理されていることが条件です。

また、法人の財務諸表の注記において研究開発費の総額に含まれていることが明らかな金額については、研究開発費の勘定科目により経理を行っていないものでも対象にできるとされています。

(参考)国税庁HP:租税特別措置法42の4(1)-3

研究開発費にならないもの

以下の費用は試験研究に含まれないものとして、国税庁が示しています。

(1) 人文科学及び社会科学に係る活動
(2) リバースエンジニアリング(既に実用化されている製品又は技術の構造や仕組み等に係る情報を自社の製品又は技術にそのまま活用することのみを目的として、当該情報を解析することをいう。)その他の単なる模倣を目的とする活動
(3) 事務員による事務処理手順の変更若しくは簡素化又は部署編成の変更
(4) 既存のマーケティング手法若しくは販売手法の導入等の販売技術若しくは販売方法の改良又は販路の開拓
(5) 性能向上を目的としないことが明らかな開発業務の一部として行うデザインの考案
(6) (5)により考案されたデザインに基づき行う設計又は試作
(7) 製品に特定の表示をするための許可申請のために行うデータ集積等の臨床実験
(8) 完成品の販売のために行うマーケティング調査又は消費者アンケートの収集
(9) 既存の財務分析又は在庫管理の方法の導入
(10) 既存製品の品質管理、完成品の製品検査、環境管理
(11) 生産調整のために行う機械設備の移転又は製造ラインの配置転換
(12) 生産方法、量産方法が技術的に確立している製品を量産化するための試作
(13) 特許の出願及び訴訟に関する事務手続
(14) 地質、海洋又は天体等の調査又は探査に係る一般的な情報の収集
(15) 製品マスター完成後の市場販売目的のソフトウエアに係るプログラムの機能上の障害の除去等の機能維持に係る活動
(16) ソフトウエア開発に係るシステム運用管理、ユーザードキュメントの作成、ユーザーサポート及びソフトウエアと明確に区分されるコンテンツの制作

(出典)国税庁HP:租税特別措置法42の4(1)-2

令和6年度の研究開発税制の控除率・上限額

令和6年度の研究開発税制の控除枠

研究開発税制の控除枠は、【一般型】と【オープンイノベーション型】の大きく2つに分かれています。

  • 【一般型】とは、試験研究費の全体額(一般試験研究費)に適用できる「一般試験研究費の額に係る税額控除制度」のことです。
  • 【オープンイノベーション型】とは、大学やスタートアップ等との共同研究等の費用(特別試験研究費)を対象とする「特別試験研究費の額に係る税額控除制度」です。

また、中小企業者等においては、【一般型】についてより高い控除率を適用できる【中小企業技術基盤強化税制】を選ぶことができます。

まとめると、次の表のようになります。

控除枠対象者注意点
【一般型】青色申告法人・資本金1億円超えの大企業も一定要件を満たせば適用可能
【中小企業技術基盤強化税制】中小企業者または農業協同組合等である、青色申告法人・適用除外事業者または通算制度における適用除外事業者は対象にならない
【オープンイノベーション型】青色申告法人・「特定試験研究費」が対象
・「一般型」、「中小企業技術基盤強化税制」とは別枠

研究開発税制の控除枠の組み合わせ

控除枠は単独で適用することもできますが、以下の組み合わせで併用することも可能です。

  • 通常の法人の場合:【一般型】+【オープンイノベーション型】
  • 中小企業者等の場合:【一般型】または【中小企業技術基盤強化税制】+【オープンイノベーション型】

ただし、【オープンイノベーション型】を適用する場合は、その試験研究費の額を【一般型】や【中小企業技術基盤強化税制】の控除に適用することはできません。

研究開発税制の控除率・上限額

令和6年度現在の研究開発税制に適用される控除率・上限額は、以下のとおりです。

控除枠控除限度額
(試験研究費の額×控除率)
控除上限額(※)
(法人税の額×上限率)
【一般型】控除率:1%~14%上限率:25%±時限措置
【中小企業技術基盤強化税制】控除率:12%~17%上限率:25%+時限措置
【オープンイノベーション型】控除率:20%~30%10%

(※)研究開発を行う一定のベンチャー企業の控除上限については、15%上乗せ

控除率や上限率は、研究開発投資に積極的に取り組む企業ほど、より高い割合が適用される仕組みです。その判定の際には、主に次の2つの割合が基準となります。

  • 増減試験研究費割合: 前3年以内に開始した事業年度の試験研究費の平均額に対する当期の試験研究費の割合。
  • 試験研究費割合: 適用年および過去3年の平均売上金額に占める試験研究費の割合。

まとめ

今回の記事では、令和6年度における研究開発税制の概要、対象となる研究開発費、控除率や上限額について基本的な内容を解説しました。顧問先に適用できるかを検討する際の参考にしていただき、制度活用の一助となれば幸いです。

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