予算審議中に衆議院選挙?「暫定予算」とは何か
衆議院が通常国会の冒頭で解散しました。2026年2月に選挙です。政局の行方に注目が集まる中、税務・会計の実務家から見て重要なのが、令和8年度予算がどのような形で成立するのかという点です。国家予算は毎年ほぼ同じスケジュールで成立しているように見えますが、実際には政治日程、とりわけ衆議院選挙の影響を強く受けます。
予算審議の途中で衆議院選挙が行われた場合、年度内に本予算が成立しない可能性が生じます。その際に用いられるのが「暫定予算」という制度です。この記事では、予算成立の基本的なプロセスを整理したうえで、暫定予算の仕組みと実務への影響を解説します。
目次
予算成立のプロセスを知ろう

国の予算は、内閣が編成し、国会の議決を経て成立します。これは憲法に基づく財政民主主義の根幹であり、国の歳出は国会の承認なくして行えない、という大原則を具体化したものです。税務・会計の実務に携わる者としても、この予算成立のプロセスを理解しておくことは、制度全体を読み解くうえで欠かせません。
通常、政府は前年の夏頃から概算要求の取りまとめを行い、年末にかけて各省庁間の調整を経たうえで、12月に次年度予算案を閣議決定します。その後、1月召集の通常国会に予算案を提出し、衆議院、参議院で審議が行われます。年度内、すなわち3月末までに成立させ、4月1日から新年度予算を執行するというのが基本的な流れです。
予算は、法律案とは異なる特別な扱いを受けます。日本国憲法第60条では、予算について法律案とは異なる特別の手続きが定められており、衆議院の議決を優越させる仕組みが置かれています。その結果として、国会運営上は予算が法律案よりも優先的に扱われています。
さらに衆議院で可決された予算案について、参議院が30日以内に議決しない場合には、衆議院の議決が国会の議決となります。これは、国の財政運営を停滞させないための制度的な配慮です。
このように、通常の政治日程であれば、予算は比較的安定的に年度内成立が図られます。しかし、この前提が成り立つのは、国会が継続して審議を行える場合に限られます。衆議院の解散という政治的イベントが発生すると、このプロセスは大きく揺らぐことになります。
解散したら予算はどうなる
予算審議に最も大きな影響を与えるのが、衆議院の解散です。衆議院が解散されると、審議中の法案はすべて廃案となります。これは、法案が国会という場で継続的に審議されることを前提としている以上、避けられない制度的帰結です。予算案も例外ではありません。
たとえ予算審議が相当程度進んでいたとしても、解散が行われた時点で、それまでの審議は白紙に戻ります。その後、衆議院選挙が実施され、新たに選出された議員によって特別国会が召集され、あらためて予算案が提出されることになります。
問題は、この一連の手続きに要する時間です。選挙日程、政権構成の調整、与野党間の協議状況によっては、年度末までに本予算を成立させる時間が物理的に足りなくなるケースが現実的に生じます。特に、選挙結果によって政権の枠組みが変わる場合には、当初想定されていた予算編成方針そのものが見直されることもあります。
このような状況下で、年度内成立を無理に図ろうとすれば、十分な審議時間を確保できないまま予算を成立させることになりかねません。そのため、制度として用意されているのが暫定予算です。衆議院選挙が予算審議と重なる場合、「本予算が遅れること自体は異常ではない」という点を、制度として理解しておくことが重要になります。
ところで、過去、来年度予算審議中のこの時期に通常国会の冒頭で解散した事例があったのでしょうか。実はあります。一定以上の年齢の人ならまだ記憶に残っているかもしれません。振り返ってみましょう。
通常国会冒頭解散の過去事例と今回の位置付け
通常国会の冒頭で衆議院が解散される例は、戦後政治においても極めて限られています。過去の事例として、しばしば挙げられるのが 1966年(昭和41年)の佐藤栄作内閣と、1990年(平成2年)の海部俊樹内閣です。
1966年の佐藤内閣では、通常国会が召集された直後、本格的な予算審議や政策論戦に入る前の段階で衆議院が解散されました。当時は「黒い霧事件」による政局の混乱が続いており、国会での追及が激化する前に政治状況を整理する狙いがあったとされています。この解散は、国会審議そのものを事実上リセットするための冒頭解散という性格が強いものでした。
これに対し、1990年の海部内閣によるいわゆる「消費税解散」も、形式的には通常国会召集直後の冒頭解散に該当します。ただし、この解散は消費税率3%導入という明確な政策争点を掲げ、国民に信を問うことを目的としたものであり、政局回避型というより争点提示型の解散と位置付けられています。性格の異なる解散であった点は、1966年の佐藤内閣との大きな違いです。
高市早苗首相は、今回の解散の理由について、財政運営を巡る基本姿勢、とりわけ積極財政への転換を含む方向性について国民の判断を仰ぐためだと説明しているといいます。予算審議を前にした解散という点に大きな特徴があり、結果として国会運営や予算審議の日程に直接的な影響を及ぼす可能性がある点が指摘されています。
このため、報道では、政局整理型の冒頭解散という観点から、1966年の佐藤内閣以来「60年ぶり」と表現されることがあります。単に形式としての冒頭解散ではなく、その性格や国会・予算審議への影響を重視した整理なのでしょう。
参考:衆議院きょう解散、戦後最短16日間の選挙戦突入へ…通常国会冒頭での解散は60年ぶり | 読売新聞オンライン(更新日:2026年1月23日)
暫定予算とは
暫定予算とは、本予算が年度開始までに成立しない場合に、一定期間に限って国の歳出を認めるための予算です。「仮の予算」と表現されることもありますが、法的には本予算と同様に国会の議決を経て成立する正式な予算であり、あくまで制度に基づいた財政運営の一形態です。
暫定予算が必要とされる理由は明確です。国の予算が成立していないからといって、行政活動を停止するわけにはいきません。公務員の給与支払い、年金や医療費の給付、生活保護などの社会保障、警察・消防・インフラ維持といった公共サービスは、年度の区切りとは無関係に継続される必要があります。暫定予算は、こうした国民生活に直結する支出を確保するための「つなぎ」として機能します。
一方で、暫定予算に計上される支出は厳しく限定されます。人件費、社会保障関係費、既存事業の継続経費が中心であり、新規事業や政策的判断を伴う支出は原則として盛り込まれません。これは、政治的正当性を新たに問う必要がある支出については、本予算で改めて国会の判断を仰ぐべきだ、という考え方に基づいています。
暫定予算は、期間も限定的です。多くの場合、1か月、あるいは数か月単位で編成され、本予算が成立すれば速やかにその役割を終えます。したがって、暫定予算は「特別な例外措置」であり、恒常的に続くことを前提とした制度ではありません。この点を理解しておくことは、後述する実務判断においても重要になります。
令和8年度予算の注目論点は
令和8年度予算は、衆議院選挙を控えた政治状況を色濃く反映した内容になる可能性があります。選挙前後は、有権者の関心が高い政策分野に予算配分が集中しやすく、例年にも増して「政治色の強い予算」になりやすい局面です。
特に注目されるのが、物価高対策と家計支援です。エネルギー価格や食料品価格の上昇が続く中、給付金、定額減税、社会保険料負担の軽減といった施策が繰り返し議論されています。ただし、暫定予算が編成される局面では、こうした新たな政策判断は先送りされやすく、具体的な制度設計は本予算成立後に持ち越されることになります。
また、高齢化の進展に伴う社会保障費の増加も避けて通れない論点です。年金、医療、介護といった分野は、毎年度自然増が生じる構造にあり、選挙を控えた局面では給付抑制よりも給付維持・拡充が前面に出やすい傾向があります。その一方で、財源論は十分に整理されないまま議論が進むことも少なくありません。
これらの論点は、税制改正と密接に結び付いています。歳出拡大が続けば、どこかで歳入面の見直しが必要になります。令和8年度予算は、選挙後の政治情勢次第で、当初想定されていた方針が修正される可能性もあり、税務・会計の実務家としては「現時点の議論がそのまま実現するとは限らない」という前提で状況を見ていく必要があります。
税務・会計の実務家に及ぶ影響とは

暫定予算の影響は、税務・会計実務にも確実に及びます。その中でも、比較的分かりやすいのが補助金・助成金の動きです。多くの補助金制度は、本予算の成立を前提として制度詳細が確定し、公募が開始されます。そのため、暫定予算期間中は、新規公募が始まらない、あるいは前年制度の延長が想定されていても正式な発表が行われない、といった状態が生じやすくなります。
顧問先から「今年は補助金の動きが遅いのではないか」「例年と違うのか」と相談を受けた場合、単に「まだ決まっていない」と答えるのでは不十分です。暫定予算という制度上の制約によって、意図的に判断が保留されているという点を説明できるかどうかが、専門家としての対応力を左右します。
税制改正実務への影響も重要です。税制改正大綱は例年12月に公表されますが、これはあくまで与党の政策方針であり、法的効力を持つものではありません。実際に適用される税制は、国会で税制改正関連法案が成立して初めて確定します。本予算の成立が遅れれば、これらの法案審議も後ろ倒しになり、施行時期がずれ込む可能性があります。
税務・会計の実務家としては、「すでに決まったこと」「まだ決まっていないこと」「制度上、決められない理由」を整理し、顧問先に冷静に伝える姿勢が求められます。暫定予算期は、説明力と制度理解の深さが、そのまま専門家としての信頼につながる局面だと言えるでしょう。
まとめ
衆議院選挙と予算審議が重なる場合、暫定予算は国の財政運営を支える重要な制度となります。暫定予算は行政を止めないための安全装置である一方、税制改正や補助金実務に不確実性をもたらします。
税務・会計の実務家には、制度の背景を正確に理解したうえで、顧問先に冷静かつ制度的な説明を行う役割があります。政治の動きを一過性のニュースとして終わらせず、実務への影響を読み解く視点を持つことが、専門家としての価値につながるでしょう。
オンライン研修・eラーニング
e-JINZAIで
社員スキルUP!
- e-JINZAI for account(会計事務所向け)
- e-JINZAI for business(一般企業・団体向け)
- 今ならe-JINZAIを2週間無料でお試しいただけます!
税理士.ch 編集部
税理士チャンネルでは、業界のプロフェッショナルによる連載から
最新の税制まで、税理士・会計士のためのお役立ち情報を多数掲載しています。
運営会社:株式会社ビズアップ総研
公式HP:https://www.bmc-net.jp/
