令和6年度(2024年度)税制改正で新設された戦略分野国内生産促進税制とは
戦略分野国内生産促進税制は、GX・DX・経済安全保障の戦略分野における国内投資を促進するために、生産・販売量に応じて減税を行う制度で、令和6年度(2024年度)税制改正により創設されました。導入目的と制度の概要について解説します。
目次
- 戦略分野国内生産促進税制創設の背景
- 戦略分野国内生産促進税制の対象事業
- 戦略分野国内生産促進税制の適用要件
- 戦略分野国内生産促進税制の対象商品と控除税額
- 税額控除額の計算方法
- 戦略分野国内生産促進税制の繰越税額控除
- 戦略分野国内生産促進税制の対象期間
- 戦略分野国内生産促進税制が適用されない場合
- 戦略分野国内生産促進税制の注意点
戦略分野国内生産促進税制創設の背景
戦略分野国内生産促進税制は、令和6年度(2024年度)税制改正により創設された制度です。
現在、電気自動車、グリーンスチール、グリーンケミカル、持続可能な航空燃料(SAF)、半導体(マイコン・アナログ)等の戦略分野への投資を呼び込む競争が世界的に活発になっています。
こうした戦略分野は、生産段階でのコストが高いことが投資の足かせになっている面があり、活発な投資を呼び込むためには、民間企業の努力だけでなく、国の後押しも必要です。
初期投資の割合が大きい場合は、初期投資そのものの支援が有効ですが、初期投資後、生産を行う段階でのコストが高い場合は、生産段階での税制優遇措置が必要です。
そこで、こうした戦略分野を対象に、企業の新たな国内投資を引き出すため、10年間限定で生産・販売量に応じた税額控除措置を行うことになりました。
戦略分野国内生産促進税制の対象事業
戦略分野国内生産促進税制の対象事業は、現時点では下記の事業が対象となっています。
- 電気自動車……EV、FCV、軽EV、PHEVなどです。二輪は対象外とされています。
- グリーンスチール(鉄鋼)……生産プロセスで従来の高炉、転炉から電炉へ転換する等、生産時のCO2排出を大幅に削減している場合です。
- グリーンケミカル(基礎化学品)……原料を従来の化石原料であるナフサからグリーン原料(バイオ原料、廃プラスチック等)へ転換している場合です。
- 持続可能な航空燃料(SAF)
- 半導体(マイコン・アナログ)
さらなる詳細は今後、決まっていく可能性があるので、最新情報に注目する必要があります。
戦略分野国内生産促進税制の適用要件
戦略分野国内生産促進税制の適用を受ける法人のことを「認定産業競争力基盤強化商品生産販売事業者」といいます。
この税制の適用を受けるためには、
- 青色申告書を提出する法人であること
- 産業競争力強化法の事業適応計画の認定を受けていること
- 産業競争力基盤強化商品生産用資産を取得し、国内にある事業の用に供すること
この3つの要件を満たすことが求められます。
それぞれ確認していきましょう。
青色申告書を提出する法人であること
戦略分野国内生産促進税制では、生産・販売量に応じた10年間の税額控除措置のほか、繰越控除も認められています。
繰越控除の期間は、半導体は3年間、その他の分野は4年間です。
そのため、青色申告書を提出する法人であることが制度利用の前提となっています。
産業競争力強化法の事業適応計画の認定を受けていること
産業競争力強化法の改正法施行日から令和9年(2027年)3月31日までの間に産業競争力強化法に基づく事業適応計画の認定を受ける必要があります。
事業適応計画には、次の3類型がありますが、戦略分野国内生産促進税制の対象となるのは、この内、「エネルギー利用環境負荷低減事業適応」の認定を受けている場合です。
成長発展事業適応
ポストコロナに向け、カーボンニュートラル、デジタルトランスフォーメーション、事業再構築・再編等に向けた投資を行い、経営改革に取り組む場合に認定されます。例えば、コロナ禍により業績が悪化した飲食店が無人店舗技術を導入するなどして生産性向上を図るケースです。
情報技術事業適応
デジタルディスラプション(Digital Disruption)の流れに対応するためにDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む場合に認定されます。例えば、既存のスーパーが次世代ネットスーパーやスマートストア事業に参入するケースです。
エネルギー利用環境負荷低減事業適応
2050年カーボンニュートラルへの対応を成長の機会と捉えて、脱炭素化効果が高い製品開発や生産工程等の脱炭素化に取り組む場合に認定されます。戦略分野国内生産促進税制の対象となる事業計画です。
産業競争力基盤強化商品生産用資産を取得し、国内にある事業の用に供すること
エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画に記載された生産設備その他の減価償却資産(半導体生産用資産又は特定商品生産用資産)を取得して、国内において、「産業競争力基盤強化商品」の生産・販売を行う必要があります。そして、産業競争力基盤強化商品の単位に応じて税額が控除されます。
戦略分野国内生産促進税制の対象商品と控除税額
戦略分野国内生産促進税制の減税対象となる「産業競争力基盤強化商品」とそれぞれの単位あたりの控除税額は次のとおりです。
産業競争力基盤強化商品 | 単位あたりの控除税額 |
電気自動車 EV FCV | 1台あたり40万円 |
電気自動車 軽EV PHEV | 1台あたり20万円 |
グリーンスチール | 1トンあたり2万円 |
グリーンケミカル | 1トンあたり5万円 |
持続可能な航空燃料(SAF) | 1リットルあたり30円 |
半導体マイコン | |
28〜45nm | 1枚あたり1.6万円 |
45〜65nm | 1枚あたり1.3万円 |
65〜90nm | 1枚あたり1.1万円 |
90nm以上 | 1枚あたり7千円 |
アナログ半導体 | |
パワー(Si) | 1枚あたり6千円 |
パワー(SiC、GaN) | 1枚あたり2.9万円 |
イメージセンサー | 1枚あたり1.8万円 |
その他 | 1枚あたり4千円 |
税額控除額の計算方法
戦略分野国内生産促進税制における税額控除額は、販売数に応じた控除額と取得価額を基礎とした控除額のいずれか少ない額です。
下記の2通りの計算により控除額を算出し、どちらか少ない額が実際の税額控除額になります。
販売数に応じた控除額
産業競争力基盤強化商品の単位あたりの控除税額 ✕ 供用中年度に販売された数 ✕ 100%
※100%控除されるのは、供用日以後7年目までです。8年目からは、75%、50%、25%と1年毎に下がります。
取得価額を基礎とした控除額
半導体生産用資産又は特定商品生産用資産及びこれらとともに産業競争力基盤強化商品を生産するために直接又は間接に使用する減価償却資産に対して投資した金額の合計額とされる一定の金額に相当する金額
※なお、その半導体生産用資産又は特定商品生産用資産について既にその供用中年度前の各事業年度の法人税額から控除された金額その他一定の金額がある場合には、これらの金額を控除した残額です。
戦略分野国内生産促進税制の繰越税額控除
各事業年度において繰越税額控除限度超過額が生じる場合は、半導体は3年間、その他の産業競争力基盤強化商品は4年間にわたり、各期の税額控除限度額の範囲で調整前法人税額からの繰越控除が認められています。
なお、税額控除限度額は、デジタルトランスフォーメーション投資促進税制の税額控除制度による控除税額及びカーボンニュートラルに向けた投資促進税制の税額控除制度による控除税額との合計で当期の法人税額の40%(半導体生産用資産にあっては、20%)とされています。
戦略分野国内生産促進税制の対象期間
産業競争力強化法の事業適応計画の認定の日以後10年以内の日を含む各事業年度が対象期間となります。なお、10年経過後も半導体は3年間、その他の産業競争力基盤強化商品は4年間にわたり繰越控除ができます。
戦略分野国内生産促進税制が適用されない場合
所得金額が前期の所得金額を超える事業年度で、下記のいずれにも該当しない事業年度は、戦略分野国内生産促進税制が適用されないため注意が必要です。
継続雇用者給与等支給額の継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が1%以上であること
具体的には次の計算式に当てはまる場合です。
(継続雇用者給与等支給額 − 継続雇用者比較給与等支給額) ÷ 継続雇用者比較給与等支給額 ≧ 1%
国内設備投資額が当期償却費総額の40%を超えること
具体的には次の計算式に当てはまる場合です。
当期の国内設備投資額 > 当期償却費総額 × 40%
戦略分野国内生産促進税制の注意点
戦略分野国内生産促進税制を利用するためには、産業競争力強化法の改正法施行日から令和9年(2027年)3月31日までの間に産業競争力強化法に基づく事業適応計画の認定を受ける必要があります。
どのような事業計画ならば認定を受けられるのかは、分かりにくい可能性があるため、専門家によるサポートが必要になる可能性があります。また、戦略分野国内生産促進税制による控除税額は、半導体生産用資産に係る控除税額を除き、地方法人税の課税標準となる法人税額から控除されないことに注意しましょう。
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