中国系決済アプリの問題点とは?税務・金融監督から見える現在の課題と今後のリスク

中国系決済アプリの問題点とは?税務・金融監督から見える現在の課題と今後のリスク

訪日外国人の増加とともに、日本国内でもAlipayやWeChat Payなどの中国系決済アプリは珍しい存在ではなくなりました。観光地やドラッグストアでは、すでにインフラの一部といってよいでしょう。

そうした中、2026年3月の国会で、中国系決済アプリの問題点が取り上げられ、片山さつき財務相は、「由々しき問題」と答弁しています。もっとも、この発言は「中国系アプリは危険だから排除すべき」という単純な話ではありません。問題の本質は、日本国内で行われた経済活動について、日本側制度がどこまで実態把握できるのかという点にあります。(参照:中国スマホ決済で日本円使わず独自経済圏を形成 「由々しき問題。正していく」片山財務相 | 産経新聞-2025年3月11日

この記事では、中国系決済アプリがなぜ問題視されているのか、その背景と構造を整理しながら、税務・金融監督との関係について考えていきます。

目次

中国系決済アプリ問題とは何か

AlipayやWeChat Payは、中国では生活インフラそのものです。中国人観光客にとっては、現金やクレジットカードより身近な決済手段といえるでしょう。

そのため、日本国内の店舗側もインバウンド需要を取り込むために導入を進めてきました。観光地、飲食店、ドラッグストアなどでは、「中国系決済に対応していないと売上機会を失う」という認識も広がっています。

一方で、日本の金融・税務当局側では以前から懸念がありました。日本国内で行われた経済活動であっても、資金移動や売上データが国外決済網の中で完結した場合、日本側から十分に把握できなくなる可能性があるからです。

例えば、日本に支店を持つ中国系商社が、東京で中国茶専門店を営業しているケースを考えてみます。店舗は日本国内にあり、日本人にも中国人観光客にも販売しています。しかし、決済の大半がAlipayで行われ、売上データや資金管理が中国本土側中心で処理されていた場合、日本側では国内銀行口座への入金履歴だけでは実態を把握しきれなくなります。

もちろん、日本国内で営業している以上、日本で課税関係が発生する原則は変わりません。しかし、従来のように国内銀行口座だけを確認すればよいわけではなくなります。POSデータ、決済履歴、アプリ管理画面など、別資料による確認の比重が高まることになります。

つまり問題は、「中国製アプリだから危険」という話ではなく、日本国内の経済活動について、日本側制度がどこまで可視性を維持できるのかという点にあるのです。

なぜ問題視されているのか

現在問題視されているのは、国外決済網が、日本の税務・金融監督制度の“死角”になり得る点です。

従来の税務調査は、国内銀行口座、クレジット決済、請求書、レジ記録などを組み合わせて売上を把握してきました。しかし、国外決済網が広がると、「国内で商売しているのに、日本側から資金の流れが見えにくい」という状況が生まれます。

特に懸念されているのが、無申告取引や地下送金との接続です。
例えば、訪日外国人向けの無許可送迎、いわゆる「白タク」に近い行為では、中国人観光客が中国系決済アプリを通じて、運転手個人へ直接送金するケースが以前から指摘されてきました。この場合、日本国内で送迎サービスが行われていても、日本側ではタクシー売上や事業収入として把握しにくくなります。結果として、無申告営業や地下送金的資金移動と結びつくリスクが生じます。

また、国内店舗であっても、中国国内の個人口座や国外決済網を中心に売上管理が行われていた場合、日本側税務当局による実態把握は難しくなります。もちろん、正規加盟店として適切に導入され、日本側会計システムと連携しているケースまで問題視されているわけではありません。問題なのは、国外決済網と個人送金を組み合わせ、日本側制度から見えにくい経済圏が形成されるケースです。

近年、世界各国で金融犯罪対策が強化されている背景には、こうした資金移動の把握があります。銀行口座開設時の本人確認、不自然な送金の監視、取引履歴の保存などが厳格化されているのは、犯罪収益移転やマネーロンダリング対策のためです。しかし、デジタル決済が国境を越えて広がることで、従来型制度だけでは十分対応できなくなりつつあります。今回の問題は、中国系アプリに限らず、デジタル時代における国家と金融インフラの関係そのものを問うテーマともいえるでしょう。

日本の税制・金融監督は対応できるのか

日本の税制や金融監督制度は、基本的に「国内金融機関を経由する経済活動」を前提に設計されてきました。

そのため、国外決済網が広がると、従来型の監督手法だけでは限界が見え始めます。従来の税務調査では、国内銀行口座への入金、クレジットカード決済履歴、請求書、レジ記録などを組み合わせることで売上把握を行ってきました。しかし、国外決済網の中で資金移動が完結する割合が増えると、「国内で商売しているのに、日本側から資金の流れが見えにくい」という状況が生じます。

もっとも、「海外決済だから税務署が把握できない」という話ではありません。近年の税務調査は、銀行口座だけでなく、POSデータ、アプリ履歴、電子記録、仕入数量、在庫推移などを組み合わせる方向へ変化しています。

例えば、売上申告額とPOSデータが一致しない、仕入量に比べて売上が少なすぎる、外国人客比率と決済履歴が合わない、といった点から実態把握が行われるケースもあります。飲食店であれば、客席数や回転率、仕入れた食材量などから売上推計が行われることもありますし、小売業でも在庫推移や輸入数量との整合性が確認されます。

つまり、国外決済を利用したからといって、日本の課税権そのものが及ばなくなるわけではありません。しかし、日本側制度から資金移動が見えにくくなるほど、税務調査では周辺データによる確認の比重が高まることになります。結果として、事業者側には「どのような経路で売上が発生し、どのように管理しているのか」を説明できる体制が以前より強く求められるようになります。

また、金融監督の面でも課題があります。日本では、犯罪収益移転防止法などに基づき、金融機関に本人確認や不自然な送金監視が義務付けられています。しかし、国外決済網の中で資金移動が行われる割合が増えると、日本側制度だけでは十分に追跡できない場面も出てきます。これは税務だけでなく、マネーロンダリング対策や経済安全保障とも接続する問題です。

では、日本の税制・金融監督制度は対応できないのかといえば、必ずしもそうではありません。実際には、電子帳簿保存法、インボイス制度、国際的な金融情報交換など、「電子データを前提に実態把握を行う方向」へ制度自体が変化し始めています。

中国系決済アプリ問題は、日本の課税・金融監督システムが、国境を越えるデジタル決済時代へどこまで適応できるのか。その移行期に生じている摩擦の一つといえるでしょう。

望ましい運用方法とは何か

現実問題として、中国系決済アプリを全面排除するのは難しいでしょう。インバウンド需要を考えれば、今後も利用は続くと考えられます。

その中で重要になるのは、「禁止」ではなく「透明性の確保」です。具体的には、日本国内法人名義で契約すること、日本側会計システムと売上を連動させること、国内口座への入金履歴を残すことなどが重要になります。

税務・会計の実務でも、「売上計上の痕跡をどこまで残せるか」という視点がますます重要になるでしょう。
また、一般消費者側も、「便利だから使う」で終わらせない視点が必要です。どの国の決済網を利用するのかによって、購買履歴や資金データの管理主体は変わります。これは安全保障やデータ主権とも接続する問題です。

近年は欧米でも、中国系アプリや海外系SNSに対する規制議論が強まっています。背景にあるのは、「誰がデータを管理するのか」という国家レベルの競争です。中国系決済アプリ問題も、単なる外国製アプリ批判としてではなく、「デジタル時代に国家がどこまで経済活動を把握できるのか」という視点で整理する必要があるでしょう。

まとめ

中国系決済アプリ問題は、「便利な決済手段を使うかどうか」という単純な話ではありません。日本国内で行われた経済活動について、日本側制度がどこまで実態把握できるのかという問題です。

インバウンド需要やキャッシュレス化の流れを考えれば、完全排除は現実的ではないでしょう。だからこそ重要なのは、国外決済を禁止することではなく、透明性を確保し、説明可能な状態を維持することです。

今後は「どこで売上が発生したか」だけではなく、「どの決済網を通っているのか」まで含めた理解が、税務・金融監督の両面で求められていくと考えられます。

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