納付義務の承継と還付請求の承継の違い<元国税調査官の告白 税務調査㊙ノートVol.28>
元国税調査官 税理士
松嶋 洋
2022/6/3
元国税調査官であり、現在は税務調査に特化したコンサルタントとして活躍する松嶋洋先生が、調査の論点となりやすい税法上の論点、税務調査への効果的な対応等について、法律、実務の両面から解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.103(2022.5)に掲載されたものです。
納付義務の承継と還付請求の承継の違い
被相続人の納付義務は、以下の規定により相続人に承継されることになります。
国税通則法5条(相続による国税の納付義務の承継)
相続~があつた場合には、相続人~は、その被相続人~に課されるべき、又はその被相続人が納付し、若しくは徴収されるべき国税~を納める義務を承継する~
2 ~相続人が2人以上あるときは、各相続人が~承継する国税の額は~国税の額を民法第900条から第902条まで(法定相続分・代襲相続人の相続分・遺言による相続分の指定)の規定によるその相続分によりあん分して計算した額とする。
この規定はよく知られたものですが、「納付義務」の承継のため、還付請求や更正の請求についても、この規定が適用されるのか疑義がありますが、以下の通り、承継されると解釈すべきでしょう。
令和2年度版 コンメンタール国税通則法 1巻P748
納税義務の承継があつた場合には~国税に関して被相続人が有していた税法上の地位~を承継し、被相続人の国税に係る申告、申請、請求、届出又は不服申立て等の手続の主体となり、また、税務官庁による税額確定処分、納税の告知、督促、滞納処分の執行又は還付の相手方となる~
還付請求権が相続人に承継されるとした場合、問題になるのは上記の国税通則法5条の2項の規定です。法定相続分や指定相続分とあるので、還付請求権もこれであん分するのでは、といった疑義が生じます。しかし、被相続人の債務は以下の通り承継されるからです。
最高裁平成21年3月24日判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/455/037455_hanrei.pdf
相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合~当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべき~相続人間においては~指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになる~もっとも、上記遺言による相続債務についての相続分の指定は、相続債務の債権者(~相続債権者~)の関与なくされたものであるから、相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり、各相続人は、相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには、これに応じなければならず、指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが、相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人に対し、指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。
すなわち、相続債権者に対しては、その承認を得ない限り、指定相続分で承継するといった主張は認められないことになります。被相続人の租税債務は相続債務ですので、先の国税通則法5条2項はその特則として、相続債権者である国が、指定相続分による納付義務の承継についても容認した規定であると解されます。
一方で、相続財産については、遺産分割協議等によって帰属を決定しますので、協議等で決定したものがそれに優先します。被相続人の還付請求権は相続財産ですから、遺産分割がなされていれば、国はその協議を否認できず、その通りに相続人に還付されることになります。
国税通則法基本通達(徴収部関係)第56条関係 6
還付を受けるべき者につき相続があつた場合において、その相続人が2人以上あるときの還付金等は、次により還付するものとする。
(1)還付金等について遺産の分割がされていないときは、その還付金等は~法定相続分等~に応じてあん分して計算した額を、それぞれの相続人に還付する。
(2)還付金等について遺産の分割がされているときは、その分割されたところによりそれぞれの相続人に還付する。