路線価と時価について考えます<税理士のヒヤリ・ハット体験談 第26回>
税理士法人 古田土会計 社員税理士
土田大輝
2022/5/30
第26回 路線価と時価について考えます
毎年7月に国税庁からその年1月1日時点を基準とした路線価の額が、国税庁のHP上で公表されます。相続税や贈与税の申告において、土地等は時価で評価することとなっています。しかし土地等の評価は容易ではないことから、各国税局が地域の路線価を毎年定め、公表しています。路線価とは、全国の民有地の宅地等を対象にその路線(道路)に面する土地の1㎡当たりの価額で、それを地図上に示したものが路線価図です。なお、路線価が付されていない土地については、その市区町村の「評価倍率表」を利用することになります。
そして、この路線価を使う前提で国税庁は財産評価基本通達(いわゆる評価のマニュアルです)を公開していまして、この通達に従って相続税・贈与税の申告をすることが事実上の原則となっています。ただ一方で、通達によって評価することが課税の公平が保てないことと等著しく不適当と認められる場合は国税庁長官の指示により評価すると、同通達で定められています。この“国税庁長官の指示”による評価を巡り、この度ある相続税の申告についての裁判が最高裁で確定し、再び話題となりました。
注目されていた裁判ですので、報道や雑誌などで詳細が記されているかと思います。このコラムでは簡単に概要を書きます。
【概要】
・高齢者(相続開始時94歳)が、
・晩年に相続税節税対策(銀行の稟議書に同様の記載あり)として、
・銀行でローンを組んで、
・マンションを2棟購入(いずれも平成21年)。
その後平成24年6月に相続が開始
下記の通り評価額が大きく購入額を下回り、結果として相続税が0円に。
その後1棟を売却(購入額と近い金額)したことも、更正処分の引き金になったでしょうか。
最高裁の判決によって、具体的な通達の運営方針やその通達に示す「著しく不適当」の基準は、明らかにはなりませんでした。一部報道では「残念」という表現が見受けられましたが、私はむしろそれでよかったのではないかと思います。
基準が明確になればなるほど、そこのギリギリをつく事例が増えてしまうでしょう。
プロ野球で、ストライクゾーンをAIで判定すべきか否かの議論にも通じますか?
しかし、この裁判を通じて、「時価とは何を言うのか」であったり、適切な申告に対する意識であったり、我々が税法という日々変化していくものを扱うにあたっての心構えを、教えてもらったように思えてなりません。というのも、税法を扱う納税者も『人』であるとともに、それを判断し、時として裁く税務調査官や裁判官も『人』です。通達適用のいわゆる“正常の範囲”を逸脱するかどうかは、その状況に応じて変わるだろうからです。
日々お客様から税務の相談を受けると思いますが、その答えを導き出す過程の中には、お客様に寄り添って最善の策を考えていく思考とともに、「税法はどう考えているのだろうか」と、自分自身に問いかけていきたいと思いますし、皆さんもそうあってほしいと思います。
裁判例はまさに事実を見ることができ、そしていろいろなことを気づかせてもらいます。裁判で戦われた先人に感謝し、今回のコラムとさせていただきます。