令和6年度の各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税等の見直しについて
各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税とは、グローバル・ミニマム課税のうち、「所得合算ルール(IIR)」に対応するために、2023年(令和5年)に導入された制度です。
グローバル・ミニマム課税は2021年に国際的な合意が成立したばかりで、執行ガイダンスもまだ固まっていません。
そのため、執行ガイダンスの公表に合わせて、随時、改正が行われています。
目次
グローバル・ミニマム課税とは
現在はインターネット社会の進展により、IT系企業等は、どのような国に拠点をおいても活動できるようになっています。
そのため、世界各国は、法人税率の引き下げや優遇税制により外国企業を誘致する動きを強めています。しかし、法人税の引き下げ競争が激化すると、各国の財政状況の悪化に繋がりかねません。
そこで、2021年10月に日本を含む136ヵ国・地域の合意により、所在地国に関わらず、最低限の法人税率として15%以上を確保するための仕組みとして、グローバル・ミニマム課税を導入することになりました。
グローバル・ミニマム課税の対象
グローバル・ミニマム課税の対象となるのは、年間総収入金額が7億5,000万ユーロ(約1,200億円)以上の多国籍企業です。
グローバル・ミニマム課税の仕組み
グローバル・ミニマム課税を導入するには、各国で次の3つの法整備を行う必要があります。
- 所得合算ルール(IIR)
- 軽課税所得ルール(UTPR)
- 国内ミニマム課税(QDMTT)
所得合算ルール(IIR)とは
子会社の所在地国の実効税率(ETR)が最低税率を下回る場合は、親会社の所在地国で最低税率まで上乗せ課税(トップアップ課税)ができるという制度です。
例えば、日本に親会社がある企業が税率15%以下の国に子会社を置いている場合は、日本の税務当局がその子会社の税負担について15%に至るまでの分、課税できることになります。
軽課税所得ルール(UTPR)とは
親会社の所在地国でIIR課税が行われない場合は、UTPR導入国で最低税率まで上乗せ課税(トップアップ課税)ができるという制度です。
例えば、税率15%以下の国に親会社がある企業が日本に子会社をおいている場合は、日本の税務当局がその親会社の税負担について15%に至るまでの分、課税できることになります。
国内ミニマム課税(QDMTT)とは
自国に所在する事業体のETRが最低税率を下回る場合は、自国で最低税率まで上乗せ課税(トップアップ課税)ができるという制度です。
例えば、日本国内の企業等の税負担が15%に至らない場合、最低税率である15%に至るまで課税を行うことができるようになります。
各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税とは
2023年度(令和5年度)税制改正により、「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」が導入されました。これは、グローバル・ミニマム課税のうち、「所得合算ルール(IIR)」へ対応するための制度です。
また、課税対象となる企業を税務当局が把握するための情報申告制度である「特定多国籍企業グループ等報告事項等の提供義務」も合わせて創設されています。
これらの制度は、2024年(令和6年)4月1日以降に開始する対象会計年度から適用されています。
各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税に関する令和6年度税制改正の概要
令和6年度税制改正により、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税については、見直しが行われました。その概要は次のとおりです。
- OECD(経済協力開発機構)により発出されたガイダンス、国際的な議論の内容を踏まえて、制度をより明確化する。
- グローバル・ミニマム課税の導入により、企業に追加的な事務負担が生じることへの対応として追加的な見直しを行う。
以下、主なものを確認しておきましょう。
最終親会社の範囲の見直し
最終親会社とは、他の会社等の支配持分を直接又は間接に有する会社等のことです。この範囲が見直されました。
改正前は、政府関係会社等のうち国等の資産を運用することを主たる目的とするもの(ソブリン・ウェルス・ファンド)も最終親会社に含まれていました。
国等が直接保有している会社については、連結等財務諸表の作成を求められないため、特定多国籍企業グループ等に該当しないはずですが、ソブリン・ウェルス・ファンドが介在することによって、特定多国籍企業グループ等に該当してしまう問題がありました。
そこで、OECDの執行ガイダンスを踏まえて、次の2点の改正を行いました。
- ソブリン・ウェルス・ファンドを最終親会社に該当しないものとする。
- ソブリン・ウェルス・ファンドが有する支配持分はないものとみなす。
無国籍構成会社等にQDMTTが課されている場合の税額控除
構成会社等が所在地国において、QDMTTが課されている場合は、その税額が控除されます。一方、無国籍構成会社等は、所在地国が存在しないため、QDMTTが課されず、その税額が控除されません。
OECDの執行ガイダンスを踏まえて、無国籍構成会社等に対しては、設立された国・地域又はその事業が行われる場所のある国・地域がQDMTTを課することができることとされました。
そのため、無国籍構成会社等でも、QDMTTが課されている場合は、その税額が控除されることになりました。
個別計算所得等の金額の計算
個別計算所得等の金額は、当期純損益金額を出発点として、加算調整又は減算調整を行って計算します。
OECDの執行ガイダンスにより、一般的な個別計算所得等の金額及び調整後対象租税額の計算における調整方法が明らかにされたことに伴い見直しが行われました。
また、除外資本損益(当期純損益金額に含まれる所有持分の時価評価損益、所有持分の持分法による損益、 所有持分の譲渡損益のこと)については、個別計算所得等の金額から除外する調整を行うこととされています。
しかし、課税所得の計算上、除外資本損益が含まれる国・地域もあります。こうした国については、除外資本損益に係る調整を行う必要がないことから、OECDの執行ガイダンスを踏まえて、その点が明確化され、「除外資本損益に係る個別計算所得等の金額の計算の特例」(資本損益合算選択)が創設されました。
調整後対象租税額の計算の見直し
調整後対象租税額は、実効税率の分子となる税額で、構成会社等又は共同支配会社等の各対象会計年度における次の金額の合計額のことです。
- 当期対象租税額
- 繰延対象租税額
- 特定連結等財務諸表の作成の基礎となる個別財務諸表に記載された対象租税の額
調整後対象租税額の計算について、OECDの執行ガイダンスを踏まえて、いくつかの見直しが行われました。
特に、「資本損益合算選択を行った場合における一定の導管会社等を通じて得られる税額控除等に係る調整後対象租税額の計算の特例」が創設されたことが注目されています。
実質ベース所得除外額の計算の見直し
当期国別国際最低課税額の計算の際は、一定の給与等の額及び一定の有形資産の帳簿価額の5%に相当する額の合計額(実質ベース所得除外額)をその国別グループ純所得の金額から控除することとされています。
実質ベース所得除外額の計算方法について、OECDの執行ガイダンスにより明らかになったことに伴い、改正が行われました。
QDMTT セーフ・ハーバーの導入
自国内最低課税額に係る税は、GloBEルールに沿って計算する事になっていますが、GloBEルールと自国内最低課税額に係る税に関する法令の両方において類似の計算を行う必要があるため、事務負担が重くなることが問題になっていました。
そこで、その国又は地域において一定の要件を満たす自国内最低課税額に係る税を課することとされている場合には、選択により、その国又は地域に係るグループ国際最低課税額を0とする制度(QDMTT セーフ・ハーバー)が導入されました。
QDMTT セーフ・ハーバーの適用を受けるためには、「QDMTT会計基準」と「整合性基準」の2つの要件を満たすことが求められます。
外国税額控除についての見直し
内国法人が各事業年度において外国法人税を納付している場合は、控除限度額を限度にその額を法人税の額から控除できます。
この外国法人税に自国内最低課税額に係る税(QDMTT)が含まれることが明確化されました。
一方、外国におけるIIR及びUTPRは外国法人税の範囲から除外されることが明確になりました。
特定多国籍企業グループ等報告事項等の提供制度の見直し
特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等である内国法人は、会計年度ごとにその各対象会計年度終了の日の翌日から1年3月以内に、特定多国籍企業グループ等報告事項等をe-Taxにより、その内国法人の納税地の所轄税務署長に提供する必要がありました。
しかし、税務署は、特定多国籍企業グループ等に関する情報の全てが必要となるわけではないことから、提供義務者の区分に応じた情報の提供で足りることとしました。
まとめ
令和6年度税制改正の各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税等の見直しは、OECDにより発出されたガイダンス、国際的な議論の内容を踏まえて、日本におけるグローバル・ミニマム課税の制度をより明確化するためのものでした。
グローバル・ミニマム課税は導入途中の制度であるため、今後も新たな税制改正が行われます。
会計事務所や税理士事務所としては、来年度以降も税制改正の内容に注目しておく必要があります。
グローバル・ミニマム課税についての詳細は、国税庁でも随時発表しているので参考にしてください。