平均年収650万円超えの衝撃! 松岡敏行が目指す労働生産性日本一の事務所作り Vol.2
税理士法人松岡会計事務所 代表社員税理士 松岡 敏行
労働生産性(給与÷労働時間)で日本一の事務所を目指す松岡会計事務所(大阪府)。 平均年収650万円超えという高水準を達成しつつも、残業時間もほとんどないという、高い生産性を維持するにはどのような秘訣があるのか。事務所での効率的な働き方や給与制度、また働く環境作りの観点から代表社員税理士の松岡敏行氏に話を聞いた。
ヒントは薩摩藩の郷中教育にあった
人を伸ばす教育方法とは
続きまして、事務所の環境作りについてもお話を伺っていきたいと思います。
所員の方々の働きやすさなどを叶えるにあたって、
何か意識して取り組まれていることや今までと変えたこと、大切にしていることはありますか。
今年、うちの父親世代にあたる上層部の方々には全員勇退してもらい、役職も全部1回リセットしました。
同じタイミングで、若い子達が自分で考えて動けるようにするために、新人の教育担当を入所2、3年目ぐらいの所員に変更したのですが、これはとても効果がありました。
というのも、これまでは20~30年働いたベテランの所員に新人教育を担当してもらっていたのですが、やはり年齢差もあるし価値観の違いも明らかだったんですね。
そこで、入所してすぐの所員には、ついこの前まで1年目だった2、3年目の先輩所員についてもらうという体制に切り替えたのです。すると、彼らはものすごく丁寧に教えているし、1年目の所員も、なんでも気軽に相談できるようになりました。
年齢が近い者が教育することで、入ってきたばかりの子にとってもストレスが緩和されますし、お互いにとって良い効果があるのが感じられます。
2、3年目の先輩所員にそれぞれ新人を2人ずつ見てもらうようにすると、5人で10人の新入所員を抱えられるようになります。
教え方がまずいなという時は、少しだけ上がサポートすることで、2,3年目の先輩所員も教え方を色々学べるので、新入所員だけでなく、先輩所員も一緒に成長できて、とても効果的ですね。
2、3年目の先輩所員が新人の教育をするというのは、「パートナー制」のように特定のペアを決めているのでしょうか。
そうです。まずは新入所員に、誰に自分を育ててほしいか、上司を指名してもらっています。もちろん相性なども見ているので常に希望通りとはいかないのですが、特に2、3年目の先輩所員は、とても優秀な人材がそろっているので、全員安心して教育担当をお願いできます。うちの事務所は能力というより性格で採用しているので、コミュニケーション力があって、話している中で「この子良い子だな」「性格絶対いいだろうな」という人間を積極的に選ぶようにしています。
そもそも、履歴書は紙上で見えている一部分にすぎませんよね。実際に会ってみてどんな人柄かは見えない「地下の部分」なんです。でも、そこを間違えると事務所全体に悪影響を及ぼしかねないので、人柄を見抜くことは非常に大事だと思っています。
そのため、基本的にうちの事務所には良い人間が多いという自信がありますね。
新人教育の方法については何かを参考にされているのでしょうか。
薩摩藩が行っていた「郷中教育」です。昔、薩摩藩が明治維新を起こした時、薩摩藩から優れた名士がいっぱい出たそうですが、その一番の要因は郷中教育にあったと聞きました。郷中教育というのは、それぞれ小さい班を作らせて2、3年目の子に1年目の子を教育させ、競わせて自主性を促すというものです。私も以前この話を聞いて「まさにこれだ」と思いましたね。
実際いざ始めてみると、若い子の目の輝きが違うように感じます。上の年代の人だと「なんでそんなこともできないんだ」と言ってしまいがちなことも、年齢が近い同士だと気持ちもわかるので、共感したうえで教えることができますからね。
あとは、私が教育係の所員達と直接話をする機会も積極的に設けるようにしています。
勉強会も私が毎週行っていますし、個別相談も自由にしてもらっています。
価値観を共有することで、事務所の色にだんだんと染まっていってもらう感じですね。
そこまで手間暇かけて教育するということに対して世間が評価してくれたら、それは求人力にもつながってくると思っています。
離職率ゼロを目指して
所員同士の交流に力を入れた環境作り
普段の業務については気軽に相談できる年の近い先輩から、
事務所の風土やマインドは松岡先生から直接教えてもらうという形なんですね。
私が決定的に世の中で誤解されていると思っていることがあるのですが、それは、人は「どこで働くかではなくて、誰の元で働くか」が全てだということですね。自分で言うのもなんですが、代表である私から直接指導を受けて働くというのが、うちの事務所の最大の魅力だと自負しています。そういったことも、離職率の低さに一役買っているのではないかなと感じています。
離職率に関連して、本当に仲の良いメンバーや気の許せるというか、心を開けるような人が事務所内に最低でも1人はいるということは、とても大事だと思っています。
先日もお付き合いのある企業様から、阪神のVIP席をプレゼントしてもらったのですが、それがちょうど日ハムと阪神の交流戦だったので、阪神ファンを連れて球場に行ってきました。
うちは4時半に帰ってもよい制度があるので、4時半に業務を終えて甲子園に行き、阪神の応援代からご飯代、さらにその後の飲み代、プレゼントのグッズ代まで全部事務所から出しました。
なぜそんなことするかというと、要はみんなで仲良くしてほしいという気持ちの現れなんですよね。学生時代でも、まずはクラスや部活、塾、色々なコミュニティを通じて知り合って仲良くなっていきますよね。そんな感じで事務所内でもキャンプ好きが集まるグループとか、趣味ごとのコミュニティができていくのはとても良いことだと思うのです。
所員皆の仲が良いというのはとても大事なことですから、さまざまな所内のコミュニティを通して仲良くなる文化を作っていくためにも、コミュニティの支援にお金を出すようにしています。これは、事務所に入ってきたばかりの所員が一人ぼっちになってしまわないように、という思いもありますね。若手所員ですと、30歳になったら卒業というきまりのある20代限定の若手の会があり、先日も打ち上げとして30歳以下全員、16人で飲みに行きました。うるさいくらい盛り上がって(笑)、楽しく飲んでいましたね。費用はすべて事務所持ちですから参加率も高いです。
こうした場をきっかけにお互いに仲良くなった所員がうちの事務所にはたくさんいます。
後で聞いたら、その後も一緒にユニバーサルスタジオに行きましたとか北海道に行きました、何人かでキャンプに行った、釣りに行った、という話がいっぱい出てくるんです。キャンプは私も誘われて参加したことがありますが、入社したての所員と2~3年目の若手ばかりの13人で、青空の下で料理を作ったりして、みんな本当に楽しそうでしたね。
所員同士が仲良くなるようなイベントは、やはり離職を防ぐという点でとても大きいと思っているので、どんどん積極的にやるようにしていっています。
それは素晴らしい取り組みですね。
やはり労働生産性を高めるためには個人プレーではなくチームプレーが大切であるという考えも土台にはあるのでしょうか。
ええ、一人ひとりの専門性を高めたうえで、サッカーのようにチームワークを生かしてパスを回すことで、深く広いサービスの提供も可能になり、お客様の満足度を高めることができますから。
こういった社内交流の支援や、残業なし、高めの年収設定など、「甘すぎるんじゃないか」と私の父親世代から言われることも実は少なくありません。
でも私としては、所員が辞めてしまうくらいなら、今の環境で全く問題ないと思っているのです。一度入所してくれた所員をいかに辞めさせないかは、常に心を砕いています。好きにさせていればみんな勝手に育っていくので、とにかく楽しく働いてほしい。楽しく働いていれば、自然とお客様に良いサービスをすることができますから。
最近お客様から、うちの所員が、事務所のことも代表である私のこともすごく良く言っていたという話を聞き、とてもうれしかったですね。
自慢できる事務所を作り上げていくというのが、私の大きな目標なので、ここで働いて良かったと思ってくれる所員が何人いるかが財産なのです。私としても、所員の家族を含めて全員を守るし、より豊かな人生を送ってもらうためにこの事務所が存在するのであれば、それは私の働く理由でもあるなと思っています。そんな考えから、「離職率ゼロを目指す」というスローガンを今年から掲げています。少なくとも事務所が原因で辞める人がゼロになることを目指すとはっきり明言しています。そのために必要なことを逆算的に考えて進めているところです。
プロフィール |
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税理士法人松岡会計事務所 代表社員税理士 松岡 敏行
29歳で税理士登録。過去1,000件を超える相続対策を実施。その経験を活かし独自の対策を提案することで定評がある。また、子供のころ漫画家を目指していたこともあり、日本で初めて税理士自らマンガを描いた「マンガ・突然の相続」(清文社)を出版。マンガを使ったセミナーはわかり易いと好評となり、現在はセミナー講師として全国で講演している。 現在は社員数85人の税理士法人松岡会計事務所グループ代表。 |