財産管理人制度の比較・変遷<所有者不明土地の解消に向けた実務ノウハウ Vol.21>
全国公共嘱託登記司法書士協会協議会
名誉会長・司法書士 山田 猛司
2022/1/5
所有者不明土地をめぐる施策が相次いで法制化されるのに伴い、登記をはじめとする実務の需要が爆発的に増加することが予想されます。そこで、この問題に精通している山田猛司先生が実務的な知識やノウハウについて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.98(2021.12)に掲載されたものです。
財産管理人制度の比較・変遷
財産は所有者が管理するのが原則ですが、所有者が管理できない場合には民法の規定による不在者財産管理制度と相続財産管理制度の二つの制度があります。
不在者の財産管理制度は不在者の財産を現状のまま保存することが目的ですが、相続財産管理制度は清算に向けられた制度です。
平成30年11月15日に施行された「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」により、民法が定める財産管理人の選任請求権者(利害関係人・検察官)に国の行政機関の長又は地方公共団体の長が加えられました(同法38条)。
また、令和元年11月22日に施行された「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律」により表題部所有者不明土地について、裁判所は、利害関係人の申立てにより、特定不能土地等管理命令をすることができることとされました(同法第19条以下参照)。
これは不在者財産管理制度や相続財産管理制度等が既存の特定の自然人の存在を前提としており、特定ができない場合には利用が困難であるとの理由により新たに認められた制度で、申立権を有する利害関係人については、不在者財産管理制度や相続財産管理制度等における利害関係人よりも広く解し、所有者等特定不能土地を買収して開発を行おうとする者や、所有者等特定不能土地について時効取得を主張する者などを含むものと解されています。
その後、民法等の一部を改正する法律が令和3年4月21日に成立し、4月28日に公布されましたが、原則として公布後2年以内の施行とされています。
今回の改正により所有者不明土地の管理に関する民法の特例として、所有者不明土地等について、利害関係人の請求により、裁判所が所有者不明土地等管理命令を発する所有者不明土地管理命令と所有者不明建物管理命令の制度及び、所在等不明共有者の持分取得制度と所在等不明共有者の持分譲渡制度が創設されました。
その他、管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令の制度も創設されました。これら管理不全土地等の管理命令は、所有者が明らかであっても、管理が不適当な所有者に代わる管理人を選任するという画期的なものであり、ゴミ屋敷問題や老朽化した危険家屋問題等の対応に期待されますが、管理人が保存、利用、改良行為を超える行為をするには裁判所の許可が必要であり、当該不動産の処分を許可する場合は所有者の同意も必要とされています。
なお、今回の改正は特定の不動産等を対象としているので、不在者財産管理制度や相続財産管理制度の場合の様に対象者の全財産の目録を作成する必要はありません。