特定同族会社事業用宅地について<事業承継レポートVol.21>

白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬

2021/11/10

このコラムでは、『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』など多数の著書を持つ白井一馬先生が、事業承継に関する話題のトピックスなどを取り上げ、皆様にご紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.96(2021.10)に掲載されたものです。

家賃支払い前に相続が開始しても特定同族会社事業用宅地は使える?


税務ではなく民事の判例ですが、特定同族会社事業用宅地の特例に関連する面白い判例があるのでご紹介いたします。
同族会社は、オーナー個人名義の土地建物を利用していることが多いことから、その土地に小規模宅地特例を認めるための制度が、特定同族会社事業用宅地の特例です。



この特例は、相続開始直前に、有償で土地あるいは建物を同族会社に賃貸していることが要件です。使用貸借だと当然ながら特定同族会社事業用宅地の特例は使えません。そこで、生前のうちに有償で賃貸しておくことを検討することもあるでしょう。

ただ、余命宣告を受けてから有償に切り替えて80%減額を使うのは、否認のリスクを多少なりとも恐れるでしょう。しかし、それは気にする必要がない、いや、それどころか地代を徴収する前に相続が開始してしまっても大丈夫。そのような処理を首肯する興味深い判例があります(令和2年6月11日横浜地裁判決)。

同族会社は、被相続人の土地を社屋の敷地として無償で使用していました。死期が近づいた被相続人は税理士と相談し、特定同族会社事業用宅地の特例の適用を受けるため、社屋の賃貸借契約を締結しました。しかし、初回の賃料支払日の到来前に相続が発生。相続税の申告を担当した別の税理士は特定同族会社事業用宅地の減額をせずに申告書を作成しました。これにつき、特例を適用しなかったために1,800万円の過大納付が生じたとして、相続人は税理士に対する損害賠償請求の訴訟を起こしました。そして裁判所は相続人の主張を認めました。

裁判所は、相続の開始前に、賃料が支払われたことがあることを必須の要件とするものではないと解した上で、本件賃貸借契約上、相当な対価といえる賃料が定められ、更新条項が定められるなど、相当の期間継続することを予定していたものと認められるとして、本件特例の適用を肯定しました。余命宣告を受けてからの対策であっても小規模宅地特例を提案する義務が税理士にあると裁判所は言うのです。

しかし、税務調査でこのような処理が是認されるのかは疑問です。否認のリスクが高いと思わざるを得ないところですが、この判決が課税庁の判断にどう影響するかは興味があるところです。

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