相続税申告における生前贈与の加算漏れ<税理士事務所 四方山話vol.03>

本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生がこれらの話題をわかりやすくそして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.131(2024.9)に掲載されたものです。


江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
江﨑 光行 先生

 「相続時精算課税贈与の加算漏れがあります。」

今から10年ほど前になりますが、相続税の税務調査の立ち合いを行っていた際に、税務調査官から告げられたことがあります。

相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。この規定の適用を受けている場合には、贈与者である父母または祖父母が亡くなった時の相続税の計算の際に、相続財産の価額に相続時精算課税適用財産の贈与時の価額を加算して相続税の計算を行う必要があります。

この調査の対象となった相続税の申告にあたっては、相続人へ生前贈与の有無についてヒアリングを行っていましたが、贈与は受けていないとの回答でした。しかし、実際は、何年も前に自社株式について相続時精算課税贈与を受けていたのです。結果として、本税のほか、延滞税と過少申告加算税が課されることとなりました。

ところで、生前贈与の加算漏れについては、令和5年6月に国税当局の事務運営の変更がなされ、原則、納税者に自発的な見直しを要請する「行政指導」によって対応することとされました。以前は「調査」として対応されていたため、修正申告を行っても過少申告加算税が課されていましたが、「行政指導」を受けて修正申告を行った場合は、過少申告加算税は課されません。

行政指導の対象となるのは、税務署が把握可能な贈与税の申告が行われた生前贈与のみなので、税務調査が入った際に、これまで贈与税の申告が行われていなかった贈与加算の対象となる贈与の加算漏れを把握された場合には、過少申告加算税の対象となります。

なお、行政指導による修正申告は、過少申告加算税は課されないものの、延滞税は発生します。私は過去の苦い経験から相続人からのヒアリングのみに頼るのではなく、税務署へ相続税法第49条第1項の規定に基づく生前贈与や相続時精算課税の適用の有無の開示請求を行うようにしています。

改正により生前贈与加算が7年間に延⾧されたことから、相続人の記憶が曖昧になったり、申告書を保管していなかったりするケースが想定されるため上記の開示請求はますます重要であると考えられます。

江﨑 光行

えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。 現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、 ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。

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