不動産登記情報の名寄せ<所有者不明土地の解消に向けた実務ノウハウ Vol.19>
全国公共嘱託登記司法書士協会協議会
名誉会長・司法書士 山田 猛司
2021/11/4
所有者不明土地をめぐる施策が相次いで法制化されるのに伴い、登記をはじめとする実務の需要が爆発的に増加することが予想されます。
そこで、この問題に精通している山田猛司先生が実務的な知識やノウハウについて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.96(2021.10)に掲載されたものです。
不動産登記情報の名寄せ
名寄帳
市町村は、その市町村内の土地及び家屋について、固定資産課税台帳に基づいて、土地名寄帳及び家屋名寄帳を備えなければならないこととされており(地方税法第387条1項)、納税義務者は両名寄帳を閲覧することができることとされています(地方税法第387条3項)。実務上は、所定の手数料を納付して郵送により名寄帳を交付してもらうことができますが、それにより被相続人の相続財産を調査することができます(もちろん請求者である相続人の資格を証する情報の提供は必要となります)。これにより、相続財産の調査漏れを防ぐことができますが、不動産登記においても同様のことができるでしょうか。
不動産登記簿の編成
不動産登記法は登記簿を、不動産ごとに調製することとしており(不登法2条5号、9号)、物的編成主義がとられています。その場合は不動産情報を人的に検索することは難しいのですが、コンピューター化されている現在においては、技術的には可能とされています。
民事執行法の改正
民事執行では、債権者は、債務名義を取得することにより債務者の財産に対し強制執行をすることができますが、債務者が積極的に財産を提出してくれるという事は期待できないので、平成15年の民事執行法改正により債務者に対して財産開示請求をすることができることとされましたが、違反者に対する30万円以下の過料の制裁も実効性がなく、あまり利用されませんでした。
そこで、令和元年に実効性のある開示制度とするため、違反者に対する罰則を6月以下の懲役又は50万円以下の罰金と改正がされました(新民事執行法第203条1項5号、6号)。その改正の際に、第三者からの情報取得手続に関する規定が新設され、債務者の不動産に係る情報の取得を申し立てることができることとされました(新民事執行法第205条1項)。申立てが認められると、登記所から執行裁判所に対して書面により情報提供がされます(新民事執行法第208条1項)。なお、当該登記所としては東京法務局が指定されています。
不動産登記法の改正
令和3年4月に成立した改正不動産登記法では、相続人による相続登記の申請を促進する観点から、「自らが所有権の登記名義人(その一般承継人を含む)として記録されている不動産に係る登記記録に記録されている事項(記録がないときは、その旨)」を証明した書面(所有不動産記録証明書)の交付を請求する制度が新設されました(新不動産登記法119条の2)。
所有不動産記録証明制度が施行されれば、民事執行法の第三者情報提供と同様に、不動産登記情報の名寄せとして、施行後は財産調査の一助となるでしょう。