【令和6年度税制改正】事業承継税の特例承継計画提出期限の延長について

令和6年度税制改正により、事業承継税制(特例措置)が延長されることになりました。

事業承継税制(特例措置)は、事業承継時の贈与税と相続税負担を実質ゼロにする制度で、期間限定で実施されています。

活用に当たっては、期限までに特例承継計画を提出しなければなりませんが、この提出期限が令和6年3月末までになっていたところ、2年間延長し、令和8年(2026年)3月末までとなりました。

中小企業の経営者にとって、事業承継時の贈与税、相続税対策は大きな課題となっていますが、事業承継税制(特例措置)を活用することで、あきらめていた事業承継を円滑に行えるようになるなど、大きなメリットがあります。

中小企業を支援する公認会計士や税理士の方は、事業承継税制(特例措置)の制度と仕組みを理解し、事業承継で不安を抱えている中小企業経営者の皆様をサポートしてください。

目次

事業承継税制とは

事業承継税制は、経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)に基づく制度です。

後継者が株式や事業用資産を先代経営者等から贈与・相続により取得した場合において、経営承継円滑化法に基づいて都道府県知事の認定を受けた場合は、贈与税・相続税の納税が猶予又は免除される制度です。

法人だけでなく、個人事業主でも事業承継税制を利用することができます。

法人版事業承継税制には一般措置と特例措置がある

法人版事業承継税制には一般措置と特例措置があります。まず、一般措置を確認しましょう。

法人版事業承継税制の一般措置とは

法人版事業承継税制の一般措置とは、次の制度のことです。

贈与税の納税猶予

経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けることで、後継者が贈与により取得した株式等(議決権を⾏使することができない株式を除く。)に係る贈与税の100%が猶予される制度です。

ただし、株式数には上限があり、贈与前から後継者が既に保有していた株式等を含めて、当該中⼩企業の株式等の総数の3分の2までとなっています。

贈与時には、贈与年の10⽉15⽇から翌年1⽉15⽇までの間に都道府県知事の認定申請を行い、その後も5年間にわたり、事業継続要件を満たしていることの年次報告書を都道府県に提出する必要があります。税務署へも継続届出書の提出が必要です。

相続税の納税猶予

経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けることで、後継者が相続⼜は遺贈により取得した株式等(議決権を⾏使することができない株式を除く。)に係る相続税の80%が猶予される制度です。

ただし、株式数には上限があり、贈与前から後継者が既に保有していた株式等を含めて、当該中⼩企業の株式等の総数の3分の2までとなっています。

相続時には、相続発⽣後5ヶ⽉を経過する⽇の翌⽇から8ヶ⽉を経過する⽇までの間に都道府県知事の認定申請を行い、その後も5年間にわたり、事業継続要件を満たしていることの年次報告書を都道府県に提出する必要があります。税務署へも継続届出書の提出が必要です。

猶予継続贈与制度

上記の制度を利用することで1代目経営者から株式の贈与・相続を受けた2代目経営者は、贈与税、相続税の納税が猶予されます。さらに、2代目経営者から3代目経営者に代替わりする際に、株式の贈与を行い、贈与税納税猶予の認定を受けることにより、2代目経営者が猶予を受けていた贈与税・相続税の納税義務が免除される制度です。

参照:事業承継税制(一般措置)の解説サイト

法人版事業承継税制の特例措置とは

法人版事業承継税制の特例措置は、上記の一般措置を緩和する制度で、平成30年(2018年)1月1日から令和9年(2027年)12月31日までの期間限定で実施されています。

具体的には、次のような特例措置が設けられます。

株式のすべてが対象となり贈与税相続税猶予割合が100%となる

対象株式数の上限が撤廃され、猶予割合も100%に拡大されます。これにより、後継者が承継する株式にかかる贈与税・相続税のすべてが納税猶予の対象となります。

具体的には、「株式等の総数の3分の2まで」の制限が撤廃され、贈与税だけでなく相続税も100%猶予されます。

対象者が拡充される

一般措置では、先代経営者1人から後継者1人への贈与・相続のみが対象となっています。

特例措置では、親族外を含むすべての株主から、代表者である後継者(最大3人)への贈与・相続が対象になりました。

事業継続要件(雇用要件)の緩和

一般措置で納税猶予を継続するためには、後継者が贈与・相続を受けた後、5年間にわたり事業継続要件(雇用要件)を満たす必要があります。具体的には、事業承継後5年間平均で、雇用の8割の維持が必要とされています。

特例措置では、雇用維持要件を満たせなかった場合でも納税猶予を継続できるようになりました。

将来、売却・廃業する際の税負担の軽減

将来、承継した事業を売却したり廃業することになった際に、株価が下落していた場合は、その株価を基に納税額を再計算し、事業承継時の株価を基に計算された納税額との差額を減免することができます。

参照:法人版事業承継税制(特例措置)の解説サイト

個⼈版事業承継税制

個⼈版事業承継税制は、一般措置と特例措置の区別はありません。

後継者である受贈者⼜は相続⼈等が、先代経営者から事業⽤の宅地等、建物、減価償却資産(特定事業⽤資産)を贈与⼜は相続等により取得した際に、経営承継円滑化法に基づく都道県知事の認定を受けた場合には、その特定事業⽤資産に係る贈与税・相続税の納税が緩和される制度です。

特例事業⽤資産(納税猶予の適⽤を受けた特定事業⽤資産のこと)に係る贈与税と相続税はいずれも100%が猶予されます。

なお、納税猶予適⽤後、都道府県への年次報告書の提出は必要ありませんが、税務署へは、3年に1度、継続届出を提出する必要があります。

参照:個人版事業承継税制の解説サイト

法人版事業承継税制の活用事例

中小企業経営者の中には、事業承継が必要となっても、税負担を考えると踏み切れず、後回しになっている方もいらっしゃいます。

法人版事業承継税制の特例措置により、事業承継時の贈与税と相続税負担を実質ゼロにすることができることを知ったことがきっかけで、事業承継に踏み出した中小企業もたくさんあり、その事例は、中小企業庁財務課が編集した「法人版事業承継税制の活用事例PDFファイル」で紹介されています。

顧問先が事業承継を迎える時期ならば、法人版事業承継税制の特例措置を活用できるうちに事業承継を行っておくことを提案すべきでしょう。

参照:法人版事業承継税制の活用事例PDFファイル

事業承継税制を利用するための流れ

事業承継税制を利用するための流れを確認しましょう。

1.都道府県知事への認定申請、特例承継計画の提出

事業承継税制を利用するためには、都道府県知事の認定を受けなければなりません。

法人版事業承継税制の場合は、それぞれ下記の期間内に認定申請をします。

  • 贈与……贈与年の10⽉15⽇から翌年1⽉15⽇までの間
  • 相続……相続発⽣後5ヶ⽉を経過する⽇の翌⽇から8ヶ⽉を経過する⽇までの間

また、法人版事業承継税制の特例措置と個⼈版事業承継税制を利用する場合は、事前に特例承継計画(個人の場合は、個⼈事業承継計画)を提出しなければなりません。提出期限は令和8年(2026年)3月31日までです。

特例承継計画には、後継者の⽒名や事業承継の予定時期、承継時までの経営⾒通し、承継後5年間の事業計画等を記載します。また、その内容について、商⼯会や商⼯会議所などの認定経営⾰新等⽀援機関による指導及び助⾔を受ける必要があります。

なお、特例承継計画の変更等があった場合はその都度、変更申請書⼜は報告書を作成し、都道府県に提出すると共に、改めて認定経営⾰新等⽀援機関による指導及び助⾔を受ける必要があります。

2.税務署への申告

贈与税や相続税の申告時に、事業承継税制の認定書の写しを添付します。

なお、法人版事業承継税制の特例措置と個⼈版事業承継税制の場合は、特例承継計画の認定を受けた後、一定の期間内に贈与や相続を行わなければなりません。

具体的には次の期間までです。

  • 法人版事業承継税制の特例措置の場合は、令和9年(2027年)12月31日まで
  • 個⼈版事業承継税制の場合は、令和10年(2028年)12月31日まで

3.事業承継後5年間の実績報告

法人版事業承継税制の一般措置の場合は、事業承継後5年間は、後継者が株式を保有し代表者として経営を行い、平均8割の雇用確保要件維持が必要になります。これらの要件を満たしていることについて、都道府県へ年次報告書、税務署へ継続届出書をそれぞれ提出する形で報告します。

平均8割の雇用確保要件とは、贈与時⼜は相続開始の時の従業員数の8割を維持することを意味します。

まず、贈与時(相続時)の従業員数に0.8を乗じた数(端数切捨)を基準とし、5年間の年次報告時の従業員数の合計を、5で除した数(端数処理なし)が基準を下回った場合は、認定取り消しとなってしまいます。

例えば、贈与時の従業員数が5名の場合は、5×0.8=4人が基準です。

5年のうちに従業員1名が1年目から辞め、4年目にさらに1名やめて、補充がない場合は次のようになります。

(4+4+4+3+3)÷5=3.6人

基準である4人を下回ってしまうため、認定取り消しになってしまいます。

このように従業員数が少ない企業の場合は、一人でも従業員が辞めてしまうと認定取り消しのリスクがあることになります。

法人版事業承継税制の特例措置を受ければ、雇用確保要件を満たせなくても認定取り消しにはなりません。

ただ、5年経過後に実績報告を作成し、雇⽤が5年平均8割を下回った理由が、経営状況の悪化である場合等には認定経営⾰新等⽀援機関から指導・助⾔を受けます。

なお、個⼈版事業承継税制の場合は、雇用要件はありません。

4.事業承継後6年目以降

3年に1回の頻度で、税務署へ「継続届出書」を提出します。

事業承継税制(特例措置)を受けた後、納税が必要になる場合

事業承継後5年間のうちに下記の事由が生じた場合は、猶予されていた税額の納税が必要になるので注意が必要です。

  • 後継者が代表権を有しないこととなった場合
  • 同族で過半数の議決権を有しないこととなった場合
  • 同族内で、後継者よりも多くの議決権を有する者が現れた場合

また、時期を問わず、下記の事由が生じた場合も、猶予されていた税額の納税が必要になります。

  • 株式等を譲渡した場合
  • 会社が解散した場合
  • 資産保有型会社等に該当した場合

まとめ

令和6年度税制改正により、法人版事業承継税制の特例措置と個⼈版事業承継税制を利用するために事前に提出する必要がある特例承継計画の提出期限が令和8年(2026年)3月31日までに延長されました。

法人版事業承継税制の特例措置と個⼈版事業承継税制は、贈与税・相続税の納税を実質ゼロにできる制度で、期間限定で実施されている制度です。

特例措置は、今後延長されることはないとされているので、顧問先が事業承継の時期を迎えている場合は、特例措置の利用を検討するようにアドバイスし、そのための特例承継計画の作成をサポートすべきでしょう。

【まとめ記事】令和6年度 税制改正について、仕組みや変更点を紹介

税理士.ch 編集部

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