税理士の具体的な義務<契約書のポイント 会社と税理士の顧問契約 7回>
鳥飼総合法律事務所 弁護士
佐藤香織
2021/7/18
第7回 税理士の具体的な義務
1 問題となる税理士の義務とは
会社と顧問契約を締結した税理士には、民法上の善管注意義務があります。税理士の善管注意義務は、税務の専門家としての高度な義務であると言われています。こ れはこのコラムの第2回で説明しました。
では、税理士が負う具体的な義務には、どのようなものがあるでしょうか。
税理士賠償責任が争われた裁判例から分析すると、特に問題となる義務には、次のようなものがあります。
①調査・確認義務
これは、法令の調査、業務上必要な事実の調査・確認の義務です。
税理士は、クライアントから事情を聴取して事実関係の把握に努めることはもちろんですが、クライアントの説明や提出した資料だけでは十分に事実関係を把握でき ないのであれば、調査や確認を尽くすことが必要だということです。
②説明・助言義務
税理士は、税務に関する法令や実務の専門知識を駆使して、クライアントの要望に適切に応ずべきであり、法令の許容する範囲内でクライアントの利益に適合するよ うに業務を遂行しなければなりません。
そのため、クライアントに有利な方法があり得る場合には、その情報を伝えて説明や助言をする義務があり、逆に、クライアントに税務上のリスクがある場合には、 そのリスクを説明する義務があるのです。
税理士の具体的な義務は、分類の仕方によって他にもあり、これらの義務には重なり合う部分もあります。そのため、税理士の責任が問題となる場合は、これらの義 務のうちの1つだけに違反しているというよりも、複数の義務に違反していることも多いのです。
会社と税理士との顧問契約書で、こうした義務を明示する場合があります。
次の顧問契約書の例を見てみましょう。
※甲:委任者(クライアント)、乙:受任者(税理士又は税理士法人)
第〇条 情報の開示と説明及び免責
1 乙は甲の委任事務の遂行に当たり、税務会計上の処理の方法が複数存在し、いずれかの方法を選択する必要があるとき、及び相対的な判断を行う必要があるとき は、甲に事前に説明し、甲の承諾のもとに方法を選択し、処理をしなければならない。
2 甲が前項の乙の説明を受け承諾をしたときは、当該項目につき後に生じる不利益について乙はその責任を負わない。
繰り返しになりますが、税理士には専門家としての高度の注意義務があります。上記の条文の例は、そのうちの情報を開示して説明をする義務についてその内容を明 示し、一方、クライアントには、税理士からの情報や説明に基づき、自ら判断して承諾した結果にはクライアントが責任を負うという義務を、定めています。
2 免責条項は万全ではない
上記の条文例の第2項は、免責条項といわれるものです。
免責条項は、税理士の責任を軽くするとか、回避するためのものではありません。むしろ、果たすべき義務を税理士が明確に認識し、業務を遂行するためのものです 。
したがって、税理士が義務を適正に果たしているときでなければ免責の効力はありません。免責条項があるから安心と思ってはいけないのです。
また、クライアントが個人の場合、個人と税理士との契約には消費者契約法が適用されて、消費者に不利な契約条項は無効になるなど制限があります。
では、クライアントが会社(法人)の場合はどうでしょうか。法人は消費者契約法でいう「消費者」には該当しませんので、消費者契約法は適用されません。ただし 、免責条項が税理士の権利濫用(民法1条3項)に当たるような場合は、法人だからといって免責されないおそれもあり得ます。
クライアントが誰であっても、税理士の果たすべき義務は変わらないのです。